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Chapter 050_温泉街の錬金術師

「・・・ふにー・・・」

「うふふっ…いい気持ちですね。お嬢様ぁ…」

「ふぁ~…///」

「にゃぁ…」


カレントにしぇん…

も、もう…日付なんてどうでもいいやぁ〜


王都チェン・バル・ツェーンで錬金術三昧(ざんまい)の日々を過ごしたお嬢様はその後、私たちを連れてチェンバロ王国内を走る汽車に乗って半日。更に馬車で数時間進んだ先にある“グスェーブ”という田舎町へとやって来た。


お嬢様の…お知り合いの…錬金術師さんに会いに行くためにココに来たんだけど、同時にこの町は有名な温泉保養地でもあり…



「さ、さいこぉ…れしゅぅ〜…」


私、レアは。

人生で初めての天然温泉を満喫してるでごじゃりまふ〜



「・・・んふふっ。レアさんは温泉初めてだっけ?」

「はいれふ〜」


「・・・シュシュも?」

「もちろんです!」



エディアラ王国のお家には湯船付きのお風呂が少なくない。けど…

“お湯に浸かる”習慣はないので、ほとんどの人が湯あみや水浴び…場合によっては、軽く濡れたタオルで体を拭く程度…で、済ませてしまう。

畔邸はお風呂好きのお嬢様の影響で家人の私達も、たまーに残り湯で入らせてもらう事があるけど…こんな広い湯舟…しかも天然温泉…なんて初めて!


裸で広い(しかも屋外!?)湯船に複数人で入るなんて…はじめはドキドキしたたけど、お嬢様が貸切ってくれたから他の人はいない。男湯や脱衣所は仕切られているから見られる心配もない。それになにより!!


目の前に広がる光景…山の中腹にある温泉から見下ろす、茜に染まる大雪原…は


雄ぅー大ぃー!


冷気で冷えた体をポカポカと温めてくれるお湯と湯気の素晴らしさ!!

あぁっ…温泉がこれほど気持ちいいものだったなんてっ!!


行きの汽車で味わった退屈な時間なんて…もう、忘れちゃったよ。


来てよかったぁ〜!!



「・・・ここはアルカリ性泉だから美肌効果もある。」

「アルカリ?びはだこーか…そうなのですか?お嬢様?」


その言葉に返事をしたのは、お嬢様を膝に乗せてご満悦のローズさん。



「なんかよく分かんないけど…ご主人様が言うのなら、きっとその通りなのです!」

「・・・んふふっ。」


そう言ったのは、お嬢様の膝に乗せられてご満悦のシュシュちゃん。




「・・・ん。アルカリ性泉は酸化還元反応でお肌の表面に付いた皮脂を吸着除去してくれるから古い角質なんかを取り除いてくれる。」

「「…??」」

「・・・要するに、お肌がスベスベになる。」

「なるほどぉ!」

「そ、それはいいことを聞きました!!」

「ご主人様は何でも知っています!!」


流石は(?)魔女様!!

説明はよく分からなかったけど…確かに、このヌルッとしたお湯はローションみたいでお肌に良さそう!!

いっぱい擦り込むぞぉ!!



「・・・」

「…///」

「ふにぁ…」

「にゃぁ…」


私達はそのまま…

夕日の後を追う細い月が地平線に隠れるまで、温泉を満喫したのだった…


………

……






……

………



「…」

「…」


「・・・これも修行の一環」

烏ちゃんにそう言われてついてきたチェンバロ王国。


汽車の機関室や工廠(こうしょう)の見学、国王陛下との謁見、もう一人の憧れの錬金術師【円】様との対談などなど…


彼女のおかげで得難い経験を積むことができたのは事実だし、卒業までは絶対に会えないと思っていた両親と思わぬ再会を果たせたのは本当に幸運なことだった。

しかも、烏ちゃん自らボクの両親に会いに来てくれるという願ってもない…どころか、「もう、このまま死んでもいい!」と思えるほどの事件もあった。


父さん母さん。

驚かせちゃって…あと、期待させちゃってごめんね。

烏ちゃんはボクのかけがえのない人だけど、お嫁さんには…たぶん。絶対。なってくれないよ…



「…ごくっ」

「…」


それはともかく…だ。



「…あ、あの~…なにか?」

「…」

「…」

「…」


彼女の家人達はどうも、ボクのことを好意的には思っていない…というか。明確に“敵”だと考えている様だ。

まあ、理由は明白で言い訳のしようもないのだけど…


ローズさんは必ず彼女とボクの間に割って入ってくるし、

(今がそうであるように…)ノエルさんは無言でボクのことを睨む。

レアさんはそうでもないけど…それでも、ローズさんがお茶を淹れるために席を立った時などは、烏ちゃんの傍に立ってボクを警戒する素振りを見せる。

シュシュちゃんは可愛い顔をしながらナイフに手をかける事が…


彼女が傍にいれば、さすがに敵意を顔に出したりはしないけど、こうして離れると…


身体が大きかったおかげか…喧嘩なんて殆どしたことないボクにでも分かる濃厚な敵意と殺意がここにある。

彼女の前以外では無口な彼。その瞳がボクに訴えてくる。

ちょっとでも女湯を覗こうとしたら捌いてやる…と。



「…」

「…っ」

「!?」

「…」


くっ…

で、でも…負けないぞっ!


ボクに推薦状を書いてくれた工廠のおやっさんがこっそり教えてくれた「噂の魔女=錬金術師【烏】」という情報を頼りに彼女に猛アプローチを仕掛けていたあの頃…

作業的にボクを焼くようになった彼女の…「・・・また虫が来た・・・」…とでも言いたげな無感動で絶対零度なのに灼熱の、“あの瞳”に比べれば、これくらいっ…



「…」

「ふっ…」


こ、これくらい…



「…」

「…」

「…」

「…っ」


…烏ちゃぁぁ~ん!

ボクにはもう、君しか味方がいないんです~!!


………

……







・・

・・・


翌日。



「・・・ご無沙汰しております【環】様。いつも大変お世話になっております。ご機嫌麗しゅうございますか?」

「………あぁ。」


錬金術師【環】様・・・本名はドゥル・アイゼン様という。


ドワーフ族のお爺様で、大きな体と立派なお髭がトレードマーク。いつも難しい顔で太い腕を組んでいるから怖い人だと恐れられている。


昨夜、半泣きで温泉から上がってきた鳶君は今、隣で冷や汗を流している。



「…パチュラ。」

「ハ、ハイです!」

「…茶を淹れてやれ」

「・・・お、お茶なら私が・・・」

「…土産まで寄こした客人を動かせるものか。…やらせろ。」

「お、お任せください烏様!!」


でも実際は恐い人じゃない。

孫娘であるパチュラちゃん(お人形さんみたいな、ちっちゃくて可愛いドワーフの女の子。)に向ける視線は優しいし、私達のこともこうして(もてな)してくれる。


厳しい部分だって・・・仕事に真剣だからこそ。



「…で?どれから話す?」


パチュラちゃんがドワーフ伝統の濃くて甘い、ハーブの効いた・・・異世界の【マサラ・チャイ】に似た・・・お茶を配り終えると、環様は話を促してくれた。


・・・あ。

因みにこの場にはローズさんとシュシュと鳶君の3人しかいなくて、後の二人はお宿で休んで貰っているよ。

あの二人はいい子だけど、今回はちょっと・・・魔女のヒ・ミ・ツ

に関わる内容だからね。



で、本題だけど・・・

先ずは、



「・・・卵の件から。アップデート用魔道具の製造に必要だったミスリルワイヤーの手配。ありがとうございました。」

「…礼を言われるこっちゃねぇ。仕事をしたまでだ。対価も受け取った。」

「・・・それでも。です。あんな無茶な納期に応えて頂いたのですから、お礼くらい言わせてください。」


環様は異世界で言うところの材料屋さん・・・冶金(やきん)師・・・と、製造メーカーさんの両方の仕事をする錬金術師だ。金属の合金化や加工に関してなら、この人の右に出る者はいない。


加工が難しいアダマンタイト合金で出来ている卵の外殻を造ってくれているのも。積層型立体回路に必須のシート状の極薄基盤(ベース)を造ってくれているのも。この環様。



「…そうか。間に合って良かったな。」

「・・・はい!お陰様で、既に6割のアップデートが完了しました!残りも着々と!!」

「…無理すんなよ。」

「・・・んふふっ。そのお言葉。そっくりお返しします。お酒は程々に。・・・でないと、パチュラちゃんも心配してしまいますよ?」

「そ、そうだよ、おじーちゃん!!烏様もこう言ってるんだから…せめて量を減らしてよ!」

「…ちっ。」


あぁ・・・いいなぁ、このやり取り。

久しぶりにおじいちゃんとお祖父様に会いたくなってきちゃった・・・



「…言いたい事はそれだけか?なら次の…」


居心地でも悪くなったのか、環様は急かすようにそう言った。



「・・・ま、待って下さい!その前に・・・錬金術師【烏】としての弟子をとったので、紹介させて下さい!」

「なにっ!?」

「えぇ!?か、烏様の…お、お弟子様!?」


鳶君が今後、どのような魔道具を造るにせよ・・・環様との繋がりは絶対に必要だ!

驚いた表情の二人を横目に振り返り・・・



「・・・さ。鳶君。」

「は、はい!マイスター烏の1番弟子で、銘を鳶。名をヴァーレルと申します。よ、よよ…よろしくお願いします環様っ!!」


緊張しながらも、鳶君が挨拶をすると・・・



「「…」」


環様とパチュラちゃんは呆気に取られた表情で固まり、そして・・・



「…っ…っ!?」


そして!?



「…あぁぁぁ〜〜んっ!!」

「お、おいパチュラ!?」

「っ〜あぁぁ〜っ!!!」


廊下(ドワーフの家は床暖が敷かれているため、リブラリアにしては珍しく靴を脱いで上がる。コタツみたいな家具もあるし、家の作りが異世界島国っぽい。)をドタドタ走って家の中へ引っ込んでしまった・・・



「…え?えぇ!?」


自己紹介で泣かれた鳶君はどうすればいいのか分からず、視線を泳がす。

そして・・・



「泣かせましたね…」


相変わらず彼にクールなローズさんは冷ややかな言葉を浴びせる。



「………」


『ゴゴゴ…!!』という効果音がバックに貼られそうな環様に睨まれた、大きな体に小さなメンタルを収めた私の弟子は・・・



「ご、ごごごめんなさいぃ~~~!!!」


と言ってメソメソ泣いた。



「・・・はぁ。・・・大丈夫だから、泣かないの。」

「烏ちゃぁ~んっ…」


まったく。

世話が焼ける・・・

林檎です。



ヴァーレル君がどんどんダメになっていくー!?



フォニア・・・恐ろしい子っ!

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