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Chapter 049_円様

「…フォニア。速報読んだよ。その年で免許皆伝の錬金術師…ってだけでもスゴイのに…それでは飽き足らないなんて。さすが魔女…欲張りだね。」


翌日。

私と鳶君。そしてローズさんとシュシュの4人は王城の一角にある・・・第2王子ベディル殿下のアトリエへとやってきた。


実はこのベディル殿下こそ・・・私が錬金術師になるきっかけを与えてくれた張本人だったりする。



「・・・んふふっ。お褒めの言葉・・・と。受け取っておきますね。・・・円様に褒めてもらえるなんて・・・頑張った甲斐がありました!」

「ははは…何を言っているんだい?今じゃもう、僕より凄い錬金術師じゃないか!」

「・・・円様には勝てないよ。今度、駅の“からくり時計”を改修するんでしょ?今度はどんな人形が躍るのか・・・今から楽しみ!」



錬金術師【円】

彼はリブラリアで唯一の時計職人だ。

彼と私の出会いはもちろん、師匠と一緒にここに来た時なんだけど、彼と仲良くなれたのは・・・皮肉にも彼が病弱だったことによる。



「ははは…もっとも、僕自身は見に行けるわけでは…コホッ…」

「・・・だ、大丈夫?」

「あ、あぁ。…ゴホッ」


彼は“特別な病気”に罹っている訳じゃないんだけど・・・外に出るとスグに病気になってしまうため、ずっと王城の中で暮らしている。だから治癒魔法を唱える事ができる私が、アンダンテ王妃殿下に頼まれて・・・というのが、仲良くなった切欠(きっかけ)


もっとも・・・



「・・・すー『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス・・・・・・ごめんね。ちょっと無理させちゃったかな?」

「だ、大丈夫だって…」

「・・・すー『この手は何を成せるだろう この力は誰が為 小指に薬を 人差し指に毒を 祈り込めて払い清め』ディスペル。・・・・・・どう?」

「あ…うん。楽になったよ。…ありがとうフォニア。」

「・・・ん。でも・・・」


もっとも、私にできることと言えば、彼の“不調を治す”事()()なんだけどね・・・



「・・・ごめんなさい殿下。やっぱり・・・」

「いや…いいんだよフォニア。別に今すぐ死ぬってわけじゃないんだろう?それに…何十年もこの体でいるからね。病気に罹る事にも慣れているのさ!何かあればスグに治癒術師様を呼んでもらえる。…フォニアが気に病むようなことじゃ無い。」


殿下は生まれつき、体に侵入してきたウィルスや細菌に対する抵抗力が弱い。


生まれつきの病は逆から唱えたって治癒魔法では治す事ができない。


書換魔法は“書換”とい言いながら・・・その実。

できることは“書き直し”に限る。

“書かれていない事”を彼のページに書き足すことはできない。


全ての治癒魔法を宿し【書の主権者】となった今なら確信を持って言える。


それが理だと・・・



「だからどうか、謝らないでくれフォニア。悲しくなってしまうではないか…」

「・・・」


実は、1つだけ。

殿下を救う手立てがある



治癒属性 第9階位に

【恵賜魔法(ギブ&テイク)】


という魔法がある。

この魔法は・・・異世界人ならわかると思うけど、要するに・・・魔法による【移植】だ。


殿下の体の抵抗力が低いのは、体が免疫細胞を上手く作り出せないのが原因なので、その免疫細胞を他の人から移植してやればいい。

でも、それをやるには・・・まず、免疫細胞には型(血液型みたいなもの)があるから適切なドナーを選ぶ必要があり、膨大なに労力を要する。

次に、たとえ型が合うドナーを見つけて移植したとしても、殿下の体は新しい免疫細胞を生み出すことができないから結局、数日のうちに免疫力が元通りに低下してしまう。


減ったタイミングで再び移植すればいいじゃないか・・・と言えば、その通りだ。

それをすれば根治が出来なくても・・・事実上、病から彼を救うことができる。


でも、そんなこと・・・・・・本当に出来ると思う?



「それより、君の発明品について教えてほしいな!すごく興味があるよ…」


答えは・・・出来る。

出来てしまうから恐ろしいのだ。

恐ろしくて言えないのだ。


相手が・・・王族だから。



「・・・んふふ。それじゃあ、修行の意味も込めて・・・鳶君。」

「え゛っ!?」

「・・・殿下にアプデ版卵のご説明を。」

「マ、マジすか…」


出来ると分かれば、きっとやってしまう。

アンダンテ王妃は子供たちを溺愛している。子供の為なら何だって犠牲にしてしまう。


一生、免疫細胞を奪われ続ける可哀想なドナー。

残りの人生をこの穴倉で、何不自由なく過ごす1人の魔女。


それくらいの犠牲・・・どうという事はないだろう。



「ふーん…君がフォニアの弟子…か。僕のお気に入りの女の子を射止めたのはどんな奴かと思っていたが。…まさか、師匠の仕事を知らないなんてこと…無いよね?」

「…そ、それ…はっ…」

「・・・もちろんありません。ちゃんと説明しましたもの・・・ね?」

「っ………」


もちろん私は殿下・・・私に錬金術の道を示してくれた円様の事が好きだ。

元気になってほしいと願っているし、そのためなら知識も魔力も惜しみなく捧げたいと思う。


お気に入りだった狐の抱きぐるみをプレゼントしてくれたのも、

カトリーヌちゃんとお揃いの時計を造ってくれたのも、

この王城で私が自由に過ごせるのも、

大大大錬金術師【嘘】様を紹介してくれたのも、


ぜんぶ彼だ。

私は彼の優しくて頑張り屋さんなところが大好きだ。


でも・・・でもっ・・・




「で、では…ま、先ず托卵(たくらん)きの…」

「…ストップ。…それ以前に、君はフォニアと同じモノ作りができるのかい?知識も大事だけど…一番大事なのは技術!だろう?先ずは…そうだな。彼女の専売特許である積層型立体回路。…そこに道具があるから、ちょっと綴ってみなよ。」

「………」

「烏の“弟子”なんだから当然できる…だろう?」

「………っ、か、烏…ちゃんぅ…」

「…なに情けない声出しているのさ?そんなで彼女の傍に立っていいとでも…まさか、思っていないよね?」

「…っ…」

「…ふざけているのかい?」

「そ、そんなつもりは…」


でも・・・



「・・・殿下。それくらいに。」


この身を捧げてもいいと、思えるほどには・・・・・・



「・・・私の弟子をイジメないで下さいね。・・・彼にはこれから、もっと頑張ってもらわないといけないのですから。」

「はは…。ちょっと…揶揄(からか)っただけさ…」



・・・

・・






「ふーむ…。確かに…この大きさなら入れられるかもしれないね。」

「・・・ん。時計に入れてもらうためにワンエイス(8分の1)サイズを開発した。」

「い、いつの間にそんな物を…。やっぱりすごいね。マイスターは…」


時々私が合いの手を入れつつも、何とか殿下に納得してもらえた鳶君の話が終わると、話題はお互いの発明品へと移った。

現在のところ、卵のラインナップはクオーターサイズ(4分の1)サイズまでになっているんだけど・・・クォーターサイズの卵はウズラの卵並みに小さいんだけど・・・それでも、懐中時計に組み込むのは難しい。


円様が開発する時計は魔蓄非対応の魔道具なのだ。

でも、新しく開発したワンエイスサイズの卵なら、ギリギリ・・・



「工夫すれば入れられる…かな?」


試作品のワンエイスサイズの卵を渡すと、円様はそれをピンセットで摘まんで(因みに大きさはイクラの卵くらい)、組み立て途中の時計にそぉ~っと重ねて大きさを確かめ、そう言った。



「・・・ホント!?採用してくれる?」

「う~ん…。でも、これだとユーザーが取り出せないから…」

「・・・入れっぱなしにすればいい。鳶君が説明したけど、アプデ版卵は充填しながらでも魔道具へ魔力の供給が可能。取り出す必要性がない。」

「それもそうか。あとの問題は…蓄えられる魔力量は?」

「・・・名前の通りシングルの8分の1。(懐中)時計なら・・・」

「ひと月くらいは…いけるかな?」

「・・・たぶん。」

「価格は?」

「・・・ひとつ30万ルーン。」


充電式ボタン電池 1つ30万円なり。

異世界だったらボッタクリを通り越して、幸せ感じちゃうお薬レベルに怪しい品だけど・・・



「安いねぇ!よし、採用!!」

「・・・やったぁ!」


リブラリでは、そんなことはありませんよ!



「これでついに…“巻きなおし”の必要が無くなるね!」

「・・・ん!きっと、売り上げも上がる!!」

「ははは…それは、でも…困ったなぁ。僕一人の手じゃ、とてもこれ以上は…」

「・・・殿下も特許を公開すればいいのに。」

「それは…」

「・・・私は卵の製造は最初から公開しようと思っていた。そうすれば・・・私がいなくても、誰かの力できっと、ヒナが孵るから・・・」


「……………考えておくよ。」

林檎です。


フォニアもナカナカ。酷なことを言いますね・・・

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