Chapter 046_鳶
「あぁぁぁ…い、生きて…る?」
「・・・ごめんね!ほ、ホントに・・・本当にごめんね!」
「む~うぅー!!」
「・・・ローズさんは床で反省していなさい!!」
あの後・・・
「不届き者っー!!」と叫びながらアトリエに飛び込んできたローズさんは・・・今朝、他でもない私が魔法で砥いだサーベルでヴァーレル君に斬りかかった。
・・・彼の首に。
「さ、さすがに死んだかと…」
「いやぁ…孫弟子君の弟子君。君は1度死んだよ…」
「・・・本当にごめんね!」
「は。ははは…」
まさか治癒魔法の極意【書換魔法】を自分の弟子に唱える事になるとは・・・
・・・モノ作りしようってレベルじゃないよ!
「もぉー!マイスターの工房を汚すなんて!恥を知れ豚(リリさんはじめ工員の皆さんは、何故かヴァーレル君を影で“プチマイスターの豚”と呼んでいる。工房には豚の獣人さんもいるのに、それはOKなのだろうか・・・?)!!」
「ロードの手を煩わせるなんて…恥を知れ豚!!」
「ご、ごめ…」
「謝らなくていいから!!悪いのはローズさんだから!・・・サリエルは余計な事言わないの!!」
「リリ。君もだよ…」
「・・・ごめんなさいグランドマイスター。・・・掃除は責任をもってやらせていただきます。」
「い、いや。まあ…うん。よ、よろしく頼むよ…」
騒ぎを聞きつけてやってきたリリさんとグランドマイスターは・・・それはもう、驚いていた。
アトリエで殺人未遂(ほぼ未遂ではない)が起きたのだから当然だ。
アトリエの床と私は、返り血を浴びてまっ赤っ赤。
静かな午後に突然始まるサスペンスである・・・
「・・・はぁ・・・本当に、もうっ。」
「あっ、ボ、ボクも手伝います…」
「・・・本当にごめんね。」
「ロードぉ!私もお手伝いしますねっ!!」
錬金術には金属を操る専用の魔道具があるので、それを使って飛び散った彼の血を回収する。彼の体に戻すこともできるけど・・・綺麗じゃないし。
書換魔法で無かった事になったから必要ないしね・・・
「いよっ。と…」
「・・・」
モップで床をこする彼は今、いったい何を思うのか・・・?
「豚の血…か。…ばっちぃ!」
「・・・サリエル。言葉を慎みなさい。」
天使はきっと何も考えていない・・・
「うぅ…」
え?犯人はどうしているのかって?・・捕縛魔法でグルグル巻きにして床に転がしてるよ!
「それにしても…じ、侍女君はどうしてそんな事を?」
「・・・ヴァーレル君とハグしてたのが気に食わなかったんだと思う。」
「///」「むーうーっ!!」
「えっ!?ぷ、プチマイスターを…ハグっ!?」
「き、君らやっぱり…」
「・・・別にいいじゃん。ハグくらい。」
も、もうっ///
ハグくらいで・・・みんな大げさだよ!
「ロードに触れるとは…2度死ね!豚ぁ!!」
「わぁっ!?」
「・・・サリエル。お疲れ様。」
別に来なくてもいいのにやって来た上、掃除を手伝ってくれないサリエルは聖堂に逆召喚して・・・と。
「い、いや。その…い、いいの…かい?」
「だってハグを…」
「・・・減るものじゃないし。・・・それに、これまでも、お父様やお祖父様にいっぱい抱っこしてもらってきた。」
「いや。肉親は別だろう…」
「・・・彼は弟子だし。身内みたいなもの。」
「え…そ、それは…えぇと…」
「・・・世話の焼けるおにぃ・・・いや。弟かな。」
「ですよね…『ガクッ』」
「・・・それに、男の人でしか味わえない快感もある。・・・嫌なら焼くだけ。」
「き、君は…君は本当に悪い女だね…」
「こ、これが…魔女様…『ゴクッ…』」
魔女ですから。
「うー…」
はいはい。
ローズさんも帰ったら抱っこしようね・・・
・・・
・・
・
気分を改める為にも、みんなでお茶にする事にした。
「しくしくしく…」
「・・・」
お茶を淹れてくれたのは、剣を取り上げ捕縛魔法の蔓とオンラインになっているローズさんである。
ヴァーレル君を傷付けた事は許さないけど・・・それでも、彼女以上に美味しいお茶を入れてくれる人は他にいない。
「…ぅ゛ー」
「!?!?」
泣きながら怖い目で低く唸っている・・・とはいえ。
ヴァーレル君にもちゃんとお茶を出してくれた。
は、反省も・・・ちょっとはしていると思う。
たぶん。きっと・・・
だと、良いなぁ・・・
「・・・それでヴァーレル君。」
「は、はいっ!」
「・・・先程は私の家臣が許されざるご無礼を働き、ご迷惑と多大なるご負担をおかけし、本当に申し訳ありませんでした。お詫びの言葉もございません・・・」
彼は身内みたいなものだけど身内じゃ無い。家臣の失敗は主人である私の責任。
ちゃんと謝らないとね・・・
「い、いえ!そんな!!しゃ、謝罪なんて…う、受け取れませんよ!!」
「・・・」
「そ、そもそも…烏ちゃんに弟子入りしたあの日から。命なんて捨てる覚悟をしていますから!」
「・・・」
「孫弟子君の弟子君も大変だね…」
「魔女様に仕えるのは命がけですね…」
ローズさんにはよーくっ!よぉーく!!
言っておきますから・・・
「・・・」
お許しを・・・
という気持ちで、彼に頭を下げ続けると・・・
「うぅ…わ、分かりました!分かりましたから!!
……………」
彼は、リブラリア流の許し方・・・沈黙・・・で答えてくれた。
「・・・ありがと。」
「ふぅ…。ほ、本当に気にしてませんからね!!これで弟子を辞めさせるとか…しないで下さいよ!」
「・・・まさか!」
「…」
背中でハラハラと泣いている猟奇的駄メイドは無視。
「・・・むしろ、これから頑張ってもらわないと!」
「はいっ!!」
彼は大事なパートナーだ。
これからも・・・
・・・っと!
「・・・そうだ!」
「?」
忘れるところだった!
「・・・ヴァーレル君に銘をあげる」
「!」
錬金術師の銘は、その人が錬金術師である事の何よりの証だ。
彼にはずっと銘なし・・・つまり、錬金術師では無い・・・という不名誉な立場で頑張って貰っていたけど・・・もう、大丈夫だろう。
「!!?」
私の言葉に、ローズさんはにヴァーレル君以上の驚きを見せ、
「おや?もういいのかい?まだ…って。もう半年近く経っているのか。…世話をかけ過ぎだぞ。孫弟子君の弟子君。」
グランドマスターは壁にかけられた暦を眺めて感慨深そうに呟き、
「豚には勿体ないのでは…」
リリさんは影で呼んでいた名を堂々と言うようになった。
ヴァーレル君。不憫・・・
「い、いいいいインですかはっ!?」
でも、当の本人はまったく気にして無さそう。そしてめちゃくちゃ嬉しそう。
なら・・・ま。いいか・・・
「・・・ん。・・・あ!お詫びとかじゃ無いよ。昨日までの仕事ぶりと、今朝のやり取りで決めたの。だから・・・え、偉そうな言い方になっちゃうけど・・・自信を持って欲しい!」
私の言葉にヴァーレル君は・・・
「マイ゛ズダァ〜!!」
と、号泣。
よ、喜んで貰えて嬉しいよ・・・
「ほ、ほほょふははひへひほふはふはんへふふへはへん!ははひひへふ!!」
割とマジで何言ってるか分からない(手足を縛っても、口を動かせると唱えられてしまうので、リブラリアの“拘束”は“轡”をはめるのが基本)駄メイドは無視。
「・・・『理の願い』ヴァージンリーフ。・・・せ、折角だから書いてあげるね。」
銘名の仕方にルールなんて無いんだけど。私も・・・そして私のマイスター【嘘】様も。
師匠から製紙に書いて貰ったと言うので倣う事にした。
すると彼は・・・
「はいー!!」
・・・と。
椅子から立ち上がって「気を付け!」の姿勢。
「・・・」
そ、そんなに緊張されると、、、
「…っ」
「・・・///」
こっちも照れる・・・
「・・・ヴァ、ヴァーレル君の・・・銘は・・・」
林檎です。
ヴァーレル君、打たれ強い(そんなレベルではない気もする・・・)ですね。
たぶん、フォニアも彼のそんなところが気に入ったのでしょう。
ちなみに、タイトルにもなっているヴァーレル君の【銘】の読みは【鳶】です。
(とび)じゃないよ。
それと・・・追伸です。
活動報告UPしました!
相変わらず、大したことは書いておりませんが・・・もしよろしければご覧ください!
・・・よろしくね!




