Chapter 044_捨て狐に愛を。名を。
「さ、30!?30ルーンじゃ足りないよっ!昨日は40ルーンくれたのに!?」
わたしはただのドレ~です。
名付けて貰う事すら出来なかった。ただの無力な子供です…
「おぉぅ…。毎回思うが、おめー…ホンっとに、よく分かんなぁ?」
「そ、そんな事よりっ!…話が違うよっ!」
おまけにお目々(めめ)が見えない役立たずです。
部族から追い出されたイラナイ子です…
「…っせーな!足りねーならもっかいフカせよっ!!そしたら60ルーンで…ほら、昨日より多いじゃねーか!!」
「にゅぅ…3回で120ルーンにしようと…」
「だったらっ4回で120ルーンにしろよ!!」
「…」
わたしは小さいころから目が見えなかった。
そのお陰か…気配察知は得意なつもり。だからここまで生きてこられた。
魔力も…多くはないけど、少なくもないと思う。
実を言うと、4回くらいは“フカ”す…あの“卵”とかいうアクマの(けど、ご飯を生んでくれる)道具に魔力を通す…ことが出来ると思う。
だけど…
「…オラっ!やらねーならどけよっ!!次が…」
「や、やるよっ!」
「礼儀がなって…」
「やらせていただきますっ!!お願いしますっ!」
だけどっ…
………
……
…
「っ…あぅっ…」
「…うっし。約束通り4回で…100ルーンな。」
「えっ…そ、それ…は…」
「終わったんだからさっさと出てけよっ!次が待ってんだろっ!!」
「えっ…あっ…」
4回フカすことは…出来ないわけじゃない。体中の魔力を絞り出せばギリギリ、何とかなる。けど、ギリギリまで魔力を消費してしまうと…
「ちょっとアナタ…終わったなら早くどきなさいよ!」
「ご、ごめんにゃ…しゃ…ぃ…」
意識が…
「おらっ!ガキ!これ持ってさっさと行っちまえ!」
「あ、あり…」
………
……
…
「にゅふ…」
フカし屋さんに握らされた銅貨を手の平に乗せたまま
『キュー…』っと痛いお腹を抱え、『ぼー…』っとしながら建物から出た…
フラフラぁ…
と
広場をで…
「こ、こっち…だっ…け?」
路地に入ったところで…
「っ!ちょ、ちょっとアナタ…大丈夫!?」
赤いお姉ちゃんに抱き止められて…
「・・・う?あっ!」
「ま、マジョ様!!それはっ」
「ダメですっ!」
「カラスちゃん!ど、どうするつ…」
「どうする!?こうするのよ!!・・・すー『この肉をパンに この血を水に 右腕を引き寄せ 左腕を回し この身を削ぐ あなたのために 祈り込めて捧ぐ』キュア!」
「あっ…」
黒い……に…
「・・・もう・・・大丈夫よ。」
「にゅ…」
「・・・よく・・・頑張ったね。」
「み…ゅ………」
「・・・・・・ごめんね、ごめんねっ。」
「………」
そこから先は眠くて…温かくて…
「・・・ごめんねっ・・・っ」
覚えていない
………
……
…
「…ど、奴隷なんて拾ってきて…し、しかも治癒まで!?どうなさるおつもりですか!?」
「・・・うちに招く。」
「えっ!?…は、八百歩譲って奴隷を飼う事は…か、構いますが…構いませんが………。でもっ!こ、これはダメです!野良じゃないですか!?こんなんじゃなくて、他で…せ、せめて店売りで…よ、良いではありませんか!?奴隷商人ギルドに見つかったら何を言われるか…。だ、だいたい!ご存じの通り奴隷を飼うには奴隷印への“紋付け”が必要です!でも、野良では…」
「・・・何とかする。」
「何とかって…」
「・・・カトリーヌちゃんが何とかして・・・」
「っ!…す、好きにすればいいじゃないですか!!お嬢様のっ…っ~!!!も、もう知らないっ!!」
『バタンッ!!』
「・・・怒られちゃった。」
………
……
…
「…………う、うそ…」
「・・・ごめんね。思ったより長く寝ていたから・・・その間に全部済ませちゃった。本当なら自由にしてあげたいんだけど・・・レ~ゾクまほーからの開放は出来ないし、野良のままだと治癒したのが見つかったとき・・・」
「そ、そうじゃにゃくて!」
「・・・う?」
「目が…」
わたしはずっと魔力の気配とか色とか。周囲の音とか匂いとかを頼りに生きてきた。
「ひ、光っ…色っ…かたっ…っ」
光を失ったのは…本当に小さいころ。
部族でマモノを狩っていた時。わたしはオトリにされて…その時…
「ひぐっ…ぐじゅっ…ッ、」
普通、仲間意識が強い獣人は部族の仲間…まして子供を…オトリなんかに使わない。
けど…
わたしは茶色い毛並みの砂狐族なのに、たったひとり。白い毛並みを持って生まれてきちゃった…。
部族意識が高いが故、わたしみたいなヘンな子は仲間外れにされて…イジメられて…
いつもいつも。オトリに…
しかも、わたしの場合は毛並みだけじゃなくて…瞳の色が左右で違う…らしい。
自分で見たことは無いけど…
リブラリアで生まれる獣人は人間と同じように瞳の色が八人七色。混色の人もいっぱいいる。
けど…左右ではっきり分かれているのは、とっても珍しいんだって…
「・・・チユしたからね。」
「ち…ゆ…ま、まほー…?」
「・・・ん。」
「まほー…」
わたしにだって親が…いた…はず。
でも覚えていない。
部族の全員が私には冷たくて…質問しても、答えてなんてくれなかった。
わたしは部族のお荷物で、みんなの小間使いにされて、残り物を漁って何とか食べツナいでいた。狩のオトリにされながら…
そしてある日。
岩山の向こうからやってきた“獣人狩りをする獣人”にイケニエとして引き渡された。
「…人間様をオメメで見たのは初めてです。」
「・・・そう。」
けど…それでも。
仲間のことは恨んでいない。
わたしの部族はパドの砂漠を放浪している。
まいにち毎日。水とご飯を探して歩き回り、怖いマモノと命がけの戦いをして、奴隷狩りに追われながらギリギリの生活をしている。
「…初めて………はじめて。まほーも初めて。こんな凄い魔力を感じたも初めて。お姉ちゃんみたいな…色も…初めて。」
「・・・」
「きれい…初めてがお姉ちゃんで…よ、よかったっ…」
みんな必死だった。
何だかんだ言いながらも、お荷物の私を最後まで見捨てずにいてくれた。
それで…それだけで…
「・・・コキョ~に帰してあげる。」
「え…」
「・・・だからそれまで・・・我慢して。」
「…」
「・・・私のドレ~は・・・ヤ?」「まさかっ!?」
「・・・う?」
「こ、こんな嬉しいことはありません!わ、わたしを…わたしなんかを選んでくれて…あっ、ありがとうございましたっ!!」
「・・・」
「い、いっぱいお仕事するです!頑張ります!帰りたくなんて…帰る場所なんてないっ!ずっと、ずっとお傍にいさせてくださいっ!お願いします!お願いっ…お願いしますっ!!」
「・・・・・・ん。よろしくね。・・・えっと・・・あなたのお名前、教えてくれるかな?」
「名前…名前はないです…」
「・・・う?名前が・・・ない?」
「名付けて…貰えませんでした…」
「・・・」
それだけ
だった…
「…ご、ごめんなさ」
「・・・っ、あっ、謝らなくていいのっ!」
「っ…」
「・・・わ、私の方こそっ・・・ご、ごめんねっ・・・っ。」
「そ、そんな…わ、わたしなんかの為に、そんにゃ…」
………
……
…
「・・・決めた。」
「にゅ?」
「・・・あなたのお名前。気に入ると良いんだけど・・・」
「な、名前を…貰えるですか!?」
「・・・もちろん。名前が無いと呼びにくいし・・・なにより。今日から家族だもの。」
「か、家族…かぞく…っ…ひぐっ…わ、わたしに…かじょくっ…」
「・・・もう寂しい思いはさせない。・・・今日からあなたはこの家の・・・ホトリテーの・・・一員よ。」
「にゃぐっ…ひぐぅっ…」
「・・・んふふっ。小さくまとまってて、可愛くて、柔らかい・・・。・・・そんなあなたのお名前は・・・」
時は来たっ!
林檎の嫁(異論は認めーん!)登場です!!
因みに狐ちゃんのモデルは【フェネック】です。




