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Chapter 043_速報

「ほほぉ~っ。あの子…本当にこんな事やるとはネ!」


季節は秋…

北に位置するココ、ゴーレの秋は短い。

今年もきっと…恵土の月のホンの初めだけ秋めいて。色づいて。

スグに冬がやってくるに違いないさネ。

冬になると関節が痛くなってしんどいんだけどねぇ…。

早くまた、春になれってんだヨ…まったくネ!


…などと感じ始めたある日。

錬金術師ギルドから1通の速報が届いた

内容は…



「…おい鏡!鏡や!!」

「ふぇ~………。なー…にー…まいす。た…」


店のカウンターで手紙を見ていたあたしが声をかけると、その返事は工房の奥から聞こえてきた。

あの子…さては、また遅くまで飲んでいたネ!?



「さっさと来ないか鏡!お前さんの姉弟子…烏がまた、妙なことを始めたヨ!」

「姉㌥…おねーちゃ…カラ…か、烏ちゃ!?んきゃぁっ!!!?」


ガラガラという瓶が転がる音と、テーブルから落ちたそれがガシャンと割れる音。そして悲鳴…



「はあ゛ぁ~っ…騒々しいったらないネ…」


ドタドタと足音を響かせながら…



「なになになに!?烏ちゃんがまた何か発明したの!?!?」


クシャクシャの作業着に赤紫の染みを付け、ぐしゃぐしゃの銀の髪もそのままに…

今や銘の通る錬金術師となった鏡が走ってやってきた。裸足で。ワインの瓶を抱えて…



「あんたまだ飲む気かい!?いい加減におしよ!それに…工房はまだいいとして、店には酒を持ち込むなって言ったハズさネ!」

「中身は(みず)よ!それにカウンターは工房と直結じゃない!!あと、どうせ客なんか来ないわよ!」

「嘘を(いぃ)ヨ!!そう思うならあんたが客引きでもしておいでヨ!!」


まったく…本当にこの子は!!

仕事は卒なくこなすからいいけどネ。それ以外はダラシないったらないヨ!

その点、狸は仕事は抜けていたけど普段は意外とキチンとしていたからねぇ…

尤も。今は修行のために別の工房に行かせているけどネ。そう言えば、上手くやって…



「そんな事よりぃ~!烏ちゃんのことっ!何かあったんでしょ!?お~し~え↓て↑よぉ→!!」


っと、そうだったネ。



「…ご覧ヨ。」

「なになに…速報?めっずらしぃ!?」


錬金術師ギルドは毎月発行する会報の他に、大きな事件があると速報を発行する。だが、この速報が発行されるのは本当にまれで、何かあっても大抵はネタ不足でスカスカの会報に回されるんだけど…



「卵の…アップデート?なにそれ?」

「更新ってことさネ。」

「更新?…改良型を売り出すってこと?」


ま。普通はそう考えるだろう。

だが、これは…



「…文字通りの更新だよ。出荷済の製品の回路を弄るんだとさネ。」

「………は?」

「…烏の卵は出荷した後でも回路を弄ることが出来るんだヨ。それをやるって言うのさネ。」

「…は?発売後って…お客の手に渡った後って…そういう事よね?ぶ、分解するの!?」

「いんや。分解なしで。…外から回路(サーキット)構文(シンタックス)を書き換えるのサ。」

「………???」


鏡は寝癖だらけの頭に「?」マークを3つ並べて固まった。


ひっひっひっ!

相変わらず、思ってることがスグ顔に出る子だねぇ!



「…烏の魔道具は内部で物質が生み出される状況を創り出しているって。以前説明しただろう?」

「う、うん…」

「その機能を利用して専用の魔道具を使えば、卵内部に追加で回路を綴ったり…綴られた構文の書換えまで出来るんだヨ。」

「お、オカシイでしょソレ!!だって…回路って物理的に綴られた物で…つ、追加なら…か、烏ちゃんの卵は回路を内包している(外から回路を見ることが出来ない。当然、触る事なんて出来ないネ!)タイプだから本当は良くないんだけど…ま、まだ良いとして!か、書き換えるって何よ!?そんな事…」


鏡が言う通り、回路は基盤(ベース)の上に…紙に文字を書くように…文字通り“綴られて”いる。だからそれを書き換えるには、一度基盤を露出させて、それまであった構文を否定する構文を追加し、更に新しい構文を書き足さないといけないハズなんだけどネ…



「…あの子は発売当初から自分の魔道具が完璧じゃないと自覚していた。だから、初めから…書き換え構文を含んだ回路を組んだんだよ。書き換え構文と専用魔道具の開発はもちろんだけど、更に白紙の基盤を16層分も用意した徹底ぶりさネ。」

「いやっ!でも。だって…」

「気持ちはわかるけどネ…あの子はそれをやったんだヨ。あの子が綴った書き換えの…あの長大な構文を理解するには、あたしだって半年かかったんだ。残念だけど…今のお前じゃ、あれを解読するのは無理さネ。」

「っ」


あの子は本当に良く考えている。

書き換えの為の構文は…簡単に言うと、


内包されている物質化の構文(烏の【卵】は“魔力を物質化する状況”を生み出して魔力を蓄えているけれど、“小さな切欠”さえ与えれば、実際に“物質化を起こす”ことが可能。だから、その“小さな切欠”となる構文も(普段は使わないけどネ)綴られている。)を反転させて綴られた構文を削除し

物質化の構文を、そのまま利用して新しい構文を綴る


…という仕組みだ。

それだけ聞くと単純に思うかもしれないけどネ…魔道具に綴られた機能を使って“その”魔道具自体を造り変えるなんて普通じゃないさネ!

例えるなら…まだ白身と黄身の状態の【鶏】の雛(雛と言っていいのか疑問だけどネ…)が、殻の中から親鳥を選び直して【烏】から生まれた事にする…ってくらい意味分かんない事をしているヨ!?


そもそも、物質化の構文も…

施設級の魔道具が必要と言うのは大袈裟でも何でもなく。本当にその通りなのさネ!

だがあの子は、その構文を独自に簡略化した上、【積層型立体回路】なんていう革命をアッサリと…


「・・・ぽかぽか陽気。」


程度の感動をもって…起こした。施設1つを手の平に収めたあの子が【綴られし者】でなかったら、

あたしは二度と、偉そうに【錬金術師】だなんて名乗れないだろうネ…



「うぅ…おねーちゃんが凄過ぎて自信なくすよぉ…」


鏡はワインをガブ飲みしつつ、泣きながらそう言った。

口から入れて瞳から出すとは…器用な娘だヨ。まったく…



「よしなヨ鏡!店が汚れるヨ!」

「だってぇ〜!!」

「泣き言()ってる暇があったら自分の仕事をおしヨ!」

「グズグズ…」


泣きたいのはコッチだってのに!

まったく…



「あんたの鏡映機(きょうえいき)だってよく売れているし、クレームもなく上手くやってるじゃないか!クヨクヨすんじゃないよ!」

「そ、そーかも…だけどぉ…」

「人と比べても仕方ないだろ!」

「そぉーだけどぉー!」


ホント、世話が焼ける子だねぇ…



「それより…ほら!姉弟子が大仕事しよってんだ。あんたも手伝うんだろ?」


速報によると…

烏は全国の錬金術師ギルドと、あの子と面識のある錬金術師に卵の回収とアップデート(もっとも、アップデートは専用の魔道具に卵を載せて、十数秒待つだけだけどネ)を依頼してきた。

…専用の魔道具(鳥の巣の様な…真ん中が窪んでいて小枝が敷き詰められた魔道具。もっとも、小枝はミスリル合金のハズだから安いモンじゃ無いけどネ)とセットでネ。

まったく。用意がいい事だ…



「モッチモチのロンロンよぉっ!!見ててね烏ちゃん!!あなたの妹があなたの為に、張り切ってお手伝いしちゃうよぉ〜!!」

「…んじゃ、頼んだヨ」

「は〜い!!たのまれーたぁ!」


騒いで泣いて、また騒いで…

酔っ払いはコレだから困る



「…ところでマイスター?」


速報と包をカウンターに置いて奥に行こうとするアタシに、鏡が声をかけてきた。



「あんだぃ?」


人を年寄り扱いするバカ狸がよこした【転ばぬ先の】とかいう、ふざけた名前のお節介な杖型魔道具を突いて、首だけ振り返って答えると…



「烏ちゃんの大仕事って…何?」

「…」


酔っ払いはコレだから…

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