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Chapter 042_誰が為にモノは在る?②

「・・・ありがと。でも・・・ね。」


ボクの言葉に烏ちゃんは浮かない顔で応えた。



「・・・でも。そんなにいいことばかりじゃないの。私の魔道具は、いま・・・多くの人の生活と人生を蝕んでいる。こんなはずじゃ、無かったのに・・・」

「む、蝕んでいる?い、いったい…」


烏ちゃんの魔道具は人々の生活をずっと便利な物に…人の命を救った事だってあったはずだ。


例えば暗いダンジョンに入った冒険者。これまでにも照明用の魔道具はあったし、何なら鬼火魔法もあるけど…でもそれは、誰かがダンジョン攻略中に魔力消費をし続けなければいけないことを意味する。

けど、卵を使えば安全な時に溜めた魔力でそれができる!


あとは…そう!

故郷の鉱山では掘削中に有毒ガスが無いかを調べるための魔道具に卵が組み込まれていると聞いた。これまでにも卵なしで稼働するガス検知の魔道具があったんだけど…仕事中の鉱夫は、ついつい、穴掘りに夢中になってしまうから気づかぬうちに有毒ガスが充満して犠牲者が出てしまう事があったけど、卵があれば…少なくとも3日は保つという…溜めた魔力が無くなるまでは、その心配がない!


他にも、魔力が少なくて魔道具を使うことを諦めていた人にもその恩恵を与えられるようになったし。時守の付き人たちの負担も減らした。

それなのに…?



「・・・見せてあげる。卵が生み出した闇を・・・」

「あっ…か、烏ちゃん…」


卵が生み出した…闇?

訳が分からないまま、アトリエを出る彼女の後を追った…


………

……






「プチマイスター。近づけるのはここまでです…」

「これ以上は…気づかれてしまいます。」

「・・・ん。ここまでで大丈夫。・・・ありがと。リリさん。ジャナさん。」

「いいえ…」

「引き続き、警戒します。」


やってきたのはアトリエから少し距離がある路地裏。

危険な場所だから…という理由で錘様が付けてくれた工員…錘様のモデルをやっているリリさんと、ジャナさんとかいう、ネコっぽい獣人のアニキ…が示す。路地の先を見つめると…



「・・・ヴァーレル君。あれ・・・見える?」

「あれって…獣人達の事?並んでいるけど、何を…?」


そこは小さな広場になっていて、その先の…教会のような作りの建物の前に、みすぼらしい身なりの獣人が数人並んでいた。

あれは…



「・・・【孵化(ふか)し屋】って知ってる?」

「ふ、孵化し屋?」

「・・・お客から預かった魔道具・卵に魔力を充填する商売の事。・・・もっとも、私もグランドマイスターに教えてもらって知ったんだけどね・・・」

「そ、そんな商売が…。も、もしかしてあの行列は…」


これまでの魔道具は使用者が魔力を通すのが当然だった。

けれど卵の登場によってその常識が覆えされている。

だから…考えてみれば、烏ちゃんが言ったような商売が現れるのは当然。か…


でも、それがさっきの話とどう繋がるのだろうか…?



「・・・そう。あの建物では孵化し屋が獣人たちに魔力を充填させているの。お給料は、一回・・・えぇと・・・」

「シングル(卵には溜められる魔力の量[卵自体の大きさでもある]によって、多い方から…ダブル・シングル・ハーフ・クォーター…のラインナップがある)で1回50ルーン位が相場ですわ…」

「やっす!?」


たったの50ルーン!?



「・・・一方で、孵化し屋が得る報酬は1回1,000ルーンくらい。それだって高い額じゃないけど・・・実際に魔力充填をする獣人たちに比べれば、20倍にもなる。壺の中にも大きな格差がある。」

「に、にじゅう…」


ひどいピンハネだ…



「・・・実は、孵化し屋みたいな商売が現れることは開発当初から予想してたの。格差が生まれてしまうのも、まあ・・・ある程度は仕方無いと思っていた。・・・私達からすれば、たかが50ルーンだけど、壺で生活する彼等にとっては“たかが”じゃ無い。美味しいものじゃないけど・・・ここでなら、1日100ルーンもあれば、ギリギリ食べ繋ぐ事ができる。・・・獣人にも魔力がある。魔力を通す作業は難しくない。格差があるのは大きな問題だけど・・・生きるか死ぬか。って所まで来ている彼等に、その糧を与えられるなら、って・・・そう思ってた。」


予想していた…さ、流石は烏ちゃん。

でも、それなら…



「・・・でも・・・」


烏ちゃんは淀みながらも

とても辛そうに…悔しそうに…



「・・・魔力酔いの弊害(へいがい)までは・・・考えて無かった。」


唱えた。






「ま、魔力酔い?」

「・・・そう。孵化し屋はやって来た獣人の魔力を見積もって対価を決めるの。多そうなら安くして、少なそうなら少し高くする。」

「え、えぇと…」

「・・・その獣人から魔力を絞れるだけ絞るためなの。その日の日銭を稼ぐために、彼等は持てる魔力の全てを()ぎ込んでしてしまう。結果的に、孵化し屋を出る頃には・・・」

「魔力酔いに…」

「・・・ん。」


でも…



「で、でも!魔力酔いは一時的な症状に過ぎないんだろ?なら…」

「・・・ヴァーレル君は魔力酔いになった事。ある?」


ボクの質問に烏ちゃんは質問で返してきた。

えぇと…



「何回か…こ、子供の時だけど…」

「・・・そう?覚えているかは分からないけど・・・魔力酔いの後はお腹が空くって・・・知ってる?」

「ど、どうだったかな…」


魔力酔いは魔法を覚えたての頃、2〜3回したきりだ。

お腹が空いたかと聞かれても…正直、覚えていない。



「・・・気絶する程の魔力酔いをするとね。激しい空腹を感じるの。これは実体験だから間違いない。・・・身体を構成するのに不必要なハズの魔力を失っただけなのに、どうして欲求を感じるのかは今も謎とされているけど・・・多分、人は無意識の内に魔纏術(まてんじゅつ)を行使して魔力を消費する時があるから、何だかんだ言っても身体が魔力を求めているせいだと思うの。・・・私達はきっと・・・本能的に・・・魔力に依存している。」

「魔力に、依存…」

「・・・ヴァーレル君が言った通り、魔力酔いで空腹を感じると言ってもそれは大抵、本当の空腹じゃない。何かをちょっと口にすれば、その衝動を抑えられるらしい。でも・・・それが毎日続いたら、どう?しかも、彼等にはその“ちょっと口にする何か”を手に入れる余裕すら無い。」

「そ、それは…」

「・・・結果的に私の卵は多くの人を傷付けてしまった。取り返しが付かなくなった事もあったはず。・・・生産量を調整するとか、孵化し屋の規制をするとか・・・できる事はあったのに・・・しなかった。」

「…」

「・・・卵は今も増え続けている。傷つく人も、きっと増える。でも・・・それを生活の拠り所にしている人が沢山居る以上、今更孵化し屋を規制する事も出来ない。そして1番傷付くのは魔力保有量の少ない・・・子供。」

「…」

「・・・」

「…プ、プチマイスターのせいでは有りません!」


辛そうに下を向く烏ちゃんに、沈黙に耐えかねたリリさんが声を上げた



「そ、そうだよ!烏ちゃんのせいじゃ無い!孵化し屋の…」


道具が悪用された時、誰が悪いのかなんて…そんなの、悪用した奴が悪いに決まってる!!



「・・・私は・・・」


なのに…



「・・・私はね。私はリブラリアに生きるみんなの為に卵を生んだつもりなの。直接その恩恵にあずかれるのはユーザーだけど・・・みんなの生活向上に繋げて。大げさかもしれないけど、“夢”や“可能性”になって欲しかった。・・・当然、その“みんな”には獣人のみんなも入っている。」


ボクの師匠はそうは思っていないらしい。

理想はどこまでも高く…



「・・・だからコレは、私のミスなの。」


自分に厳しくて…



「・・・言い訳なんてしたくない。」


完璧主義者で…



「・・・だから・・・次の一手を打つ。」


(したた)かで…



「・・・私の生んだモノが私の思い通りにならないなんて許せない。絶対に・・・唱えた通りにしてやる。」


とことん我儘で…



「・・・でも・・・ちょっと大変なの。みんな・・・手伝ってくれる?」


ひ、瞳に涙をためて上目遣いでお願いなんて…



「もちろんです師匠(マイスター)!!」


…ズ、ズル過ぎるっ!!



「私達もお手伝いしますよ!プチマイスター!!」

「ふふっ…貴女のためなら、工員たちも喜んで手を貸すだろう!」

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