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Chapter 041_誰が為にモノは在る?①

林檎です。


本話。ちょっと“ややこしい”内容となっておりますが、

リブラリアの魔力に関連する重要なお話となります。


マイスター・フォニアの錬金術講義。どうぞお楽しみください!

「す、凄い…」


夏も終わりに近づいた、あるムシ暑い日の事…



「・・・卵には全32層。積層式立体回路が綴られている。需要が多過ぎて手に負えないから錬金術師ギルドで委託生産してもらっているけど・・・秘密保持の為に回路(サーキット)()じる(回路を製造すること)のは信頼できる術者さんにお願いして。ギルドにはアセンブリ(組立作業のことだよ)と梱包・検査・出荷を依頼している。市場に出回った後も構造を知られないように正規の手順を踏まないと自壊するような構造になっている。・・・“こういう”ノウハウは魔道具そのものの機能とは違うけど・・・大事だよ。下手に情報が流れると模倣品(コピー)が出回る可能性が高い。利権が(おびや)かされるのも問題だけど・・・最悪なのは、粗悪品の不具合が原因で誰かが傷付いてしまう事。そういう時、模倣品の生産者なんてまず見つからないから発明者が罪に問われる事がある。そんな理由で罪人には・・・なりたくないでしょ?」


烏ちゃんは、これも勉強だと言って自身の魔道具…卵の秘密をボクに教えてくれた…



「・・・物質的な構成は・・・外殻はアダマンタイト合金、その内側に回路が綴られた極薄基盤(ベース)が貼り付けてあって。さらにその内側に溶媒・・・エーテル・・・が詰まっている。」

「あ!表面が黒いのはアダマンタイトの…」


「・・・ん。その通り!・・・覚えてて偉い。」

「へへへ…」


「・・・卵に魔力を通す・・・つまり、卵という魔道具を“行使”すると魔力を通しづらいアダマンタイト外殻を避けて、いたる所に空いた目に見えないほど小さな隙間に自然と魔力が流れ込む。・・・入り口を1か所にしないのは魔力の圧を分散するため。卵型をしているのは圧力集中を避けるためと、魔力の出口がどこにあるのか分かりやすくするため。あと、意匠(いしょう)かな・・・」


こ、こんなシンプルな形にも意味があるのか・・・



「・・・魔力の蓄え方は、通した魔力で溶媒の中に“物質を生み出す可能性”を生み出し、それを媒介にしている・・・といった所かな。」

「物質を生み出す…か、可能性?」


「・・・ん。物質が生み出される“かもしれない”し、“ないかもしれない”・・・そんな“状況”を生み出している・・・というのが、正確な言い方。」

「ど、どういう…」


「・・・実は、魔力を物質化して保存するやり方は大昔から試されていたの。・・・“無”から“有”を生み出ことは魔力で“できる事”だからね。でも・・・」

「でも…?」


「・・・まず、素子(エレメント)で質量をもった物質を生成するのはとても難しい。不可能じゃないけど・・・長大な回路が必要で、設備レベルの巨大な魔道具になってしまうの。しかも、水一滴生み出すために上級魔法並みの魔力が必要になる。これは、物質の生成のためというより“回路を動かすために”多くの魔力が必要・・・というのが、主な原因。・・・極めつけの問題は、魔力で物質を生み出すことができても、物質を魔力に戻すことができなかった。」

「そ、それは…魔蓄は不可能…ってことだよね…」


「・・・ん。でも、着眼点はよかった。半分正解・・・ってところかな。」

「半分…?」


「・・・そう。ポイントは、“本当に物質を生み出す必要はない”という事だったの。」

「えっと…それが、可能性…ということ?」


「・・・その通り。・・・魔力を通された卵は溶媒中に“物質が生み出されるかもしれない状況”を創り出している。・・・魔法のロジックまでを唱えた時に近いかな?もっとも、前に説明した通り魔道具によって起きる現象と、魔法現象は根本的なメカニズムが違うんだけどね・・・」

「“状況”を生み出す…?」


「・・・そう。例えば・・・例えば鳥の卵。鳥の卵の中には雛を(かえ)す為の情報と栄養・・・つまり、雛が生れる“可能性”が詰まっている。でも・・・ただ、卵が在るだけじゃ、雛は孵らないでしょ?親鳥が時間をかけて温めないと卵は卵のまま・・・鳥にはならない。・・・他の生物に食べられてしまった時も、親鳥が諦めてしまった時も孵らない。可能性とは、そういう事・・・」

「つ、つまり…卵だけでは、魔蓄はできない…」


「・・・良いところに気が付いた!卵は誰かに魔力を注いでもらって、何かに繋いで貰わない限り何の役にも立たない。当然と思うかもしれないけど・・・これは重要な事。」

「重要な…?」


「・・・ん!卵の開発を始めたときね。思ったの。魔蓄技術は何かを生み出すための技術じゃない。ただ人とモノを繋ぐ“だけ”の技術だって。・・・魔力で何を生み出すのか・・・卵から何を孵すのか?それを決めるのは術者・・・つまり、ユーザー・・・であって、私達錬金術師じゃない。だから私は余計なことをせず。ただ、“可能性の伝達”だけをする魔道具を作ることにした。」


“可能性の伝達”…か。

“蓄える”ではなく、“伝達”…


スタートラインからして烏ちゃんは違う…

果たしてボクは、彼女に追いつくことができるのだろうか…?



「・・・物質が生まれる“かもしれない”し、”ないかもしれない”・・・こんな不安定な状況は他に無い。卵を壊せばどちらか分かるけど・・・孵化前に鳥の卵をこじ開けると雛が死んでしまうように、外殻を無理矢理破ると内部の魔力が急速で無秩序な物質化を起こして。崩壊してしまう。・・・卵の外殻はアダマンタイト合金でできているから、ハンマーで殴ったくらいじゃ壊れないけど・・・本気で叩き割ろうとすると、内部回路を巻き込みながら完全なスクラップになってしまう。これはノウハウを守る上でも最適だった。まさに唱えた通り。・・・ちなみに、“魔力がゼロ”の卵はとても安定しているから分解するのはほとんど不可能。壊せる可能性があるとすれば・・・失伝魔法級の物理現象をぶつけるしかない。」

『ゴクッ…』


「・・・魔力には個人個人で特徴・・・私達人間には分からないけど、獣人達に言わせると【色】・・・が有るのは説明したでしょ?実はこの【魔力の色】も、魔蓄魔道具造りの大きな障害になっていた。」


魔力の色は普通の魔道具造りでも気をつけないといけない、重要なポイントだ。


魔法行使では複数人で息を合わせて唱えることで1つの魔法現象を起こす…ユニゾン…が。できるけど…あれは、“魔力”を混ぜているのではなく、“魔法現象”をすり合わせているに過ぎない。


魔力には色があり、その色は八人七色。魔道具で“分ける”ことはできるけど…“混ぜる”ことはできない。同じ色…つまり、自分の魔力…としか混ざらない。…それが通説だ。


だから、複数人が同時に同一の魔道具を行使することはできない。

魔蓄技術も同じ理由で…



「・・・でも、卵はその点が問題にならない。通された魔力は“状況”或は“可能性”という抽象的な概念に変換され、固有の色を失う。そして、取り出す時には・・・黒色に・・・なっているらしい。」

「く、黒…。か、烏ちゃんの色に…?」

「・・・実は、取り出した魔力が黒色になったのは予想外だった。」

「そ、そう…なの?」

「・・・固有の色を失った魔力は“無色”になるだろうって・・・予想していた。けど、結果は違った。・・・不本意ながら、どうして黒になるのかは今もって解らない。何か・・・理に触れるような、大きな理由があるのだと思う・・・」


こ、理に触れる…

こんな小さな魔道具の中に真理が詰まっているなんて…



「・・・理由は解らないけど、黒い魔力は全色に100%適合できる。変換効率も100%だった。卵はリブラリアで唯一の無廃棄(ゼロ・エミッション)の魔道具となった。魔力の伝達器・・・魔蓄魔道具として、これ以上の結果は無かった。」


魔道具は道具として“機能を果たすための魔力”とは別に、“魔道具自体を動かす為の魔力”…内部損失魔力…を消費する。

内部損失魔力とはつまり、魔道具の“ロス”であり“ムダ”だ。

このムダを減らして効率を上げる事もまた、錬金術師の仕事のひとつ…



「・・・卵から出てくる魔力は全色に対応できるから、それを受け取る魔道具側にも大きなメリットがある。先ず第一に、費用対効果が悪い“色の選別の為の素子”を省略出来る。次に、複数の色を使う魔道具では色ごとに回路を分岐させないといけないんだけど、それを一本化できる。・・・当然だけど、ロスしていた使えない色(魔道具で“使わなかった色”は本人に返されることもなく、排出されている)が完全に無くなるから効率が大幅に上がる。」

「た、卵って…すごい魔道具なんだね!?」

「・・・自分で言うのもなんだけど・・・私も、そう思っている。・・・もっとも、多くの人は“魔力を溜められる事だけ”に注目しているけどね。」


烏ちゃんが言った通り、ボクも卵の魔蓄機能…何千年もの間、誰もなし得なかったという評判にばかり注目していた。

でも…


「錬金術を習った今なら良くわかる。烏様は…すごい。…本当にすごいよ。師匠(マイスター)…」

もっとも、こんな難しいこと知らなくても条件さえ揃えば

唱えるだけで、現れるんですけどね XD

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