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Chapter 040_はじめての錬金術

「…こ、こうかい?」

「・・・ん。じょうず。そのまま・・・」

「こ…ここに入れれば?」

「・・・そっちは違う穴。」


烏ちゃんの弟子になって3日…

彼女が借りしているという、伝説の錬金術師【錘】様のアトリエ【紡歌】へとやってきた。

修行初日である!



『ドーンッ!』

「ぎゃぁぁ~!?」


「・・・あーあ。・・・大丈夫?」

「は、はは…こ、これくらい。烏ちゃんに比べれば、全然熱くないよ!」

「・・・そ。」


けど、コレがなかなか…




「でも…む、難しいね…」

「・・・製品に使われる【素子(エレメント)】はもっと小さいし、もっと危険。1個、数十万ルーンする高価なものもある。だから・・・もっと慎重にね?・・・本当に1人で大丈夫?もう一回お手本を見せても・・・」

「い、いえ!大丈夫です!やらせて下さい!」

「・・・そ?なら・・・頑張って。」

「はいっ!!」


魔道具は基盤(ベース)と呼ばれる台の上に【回路(サーキット)】と呼ばれる魔力の通り道を作り、様々な仕事(例えば魔力を通すと「光る」とか「暖かくなる」とか…)をする【素子(エレメント)】を並べることで、目的の機能を果たしている…らしい。

今日知った事だけどね…


その素子の配列や組合せを工夫したり、新しい素子を生み出したり、或は…既にある素子の効率を高める事が錬金術師の仕事(因みに、一定の役割を持たせた素子の配列を【構文(シンタックス)】と呼ぶ。素子1つで構文となる場合もある。魔道具に組み込まれた“すべての構文”をまとめて【回路】と呼ぶ(つまり【回路】という言葉には2つの意味がある…)…ふ、複雑で混乱するね!!)なんだって。

最終的な魔道具の機能や見た目が大事なのは言うまでもないけど…そこに辿り着くためにも先ずは、基本で根本で奥の深い回路設計から覚えるように!

…と言うのが、お師匠様(マイスター)の教えだ。



「ゴホッ…え、えぇと。まずは魔力の入り口となる…入口(アパーチャー)!」

「・・・正解。」

「次はえぇと…抵抗(レジスタ)?」

「・・・不正解。」

「あ…遮断器(ヒューズ)かな!?」

「・・・ん。・・・さっきはそれを忘れていたから過剰な魔力が光学素子に流れて点火装置(プラグ)が爆発しちゃったのよ?」

「うぅ…そ、そうだったのか…」


慣れてくれば基盤に直接、構文を綴る(物理的に刻み込む)こともできるらしいんだけど…

ボクは烏ちゃんが用意してくれた初心者用の…あらかじめ回路が綴られている基盤を使っているので、表面に空いた小さな穴に出来合いの素子を差し込むだけで回路を作ることができる。

今回はコレを使って回路設計の勉強だ。



「えっと…中継器(リレー)を付けて…」


烏ちゃんに出されたお題は、魔力を通すと卵から魔力供給を受けた光学素子が灯り、再び魔力を通すと消える…という、スイッチ式照明の作成。

魔道具の機能としてはちょっと応用技(自分の魔力で光らせて、魔力を断つと消える…という機能の方が、単純で簡単)らしいけど、回路設計の練習なら、これくらいから始めた方が勉強になる…とのこと。


応用だから、やっぱりちょっと複雑で難しい。

1回目は烏ちゃんが付きっきりで教えてくれたからうまくいったけど、その後1人でやったら3回連続で失敗。

しかも、3回目は光学素子をダメにしてしまった。

練習だから気にしなくていいとは言ってくれたけど…やっぱり、失敗はしたくない。

それに…



「・・・」


烏ちゃんは烏ちゃんで、やりたい事があるらしい…

真剣な表情で分解された卵に物凄く細かい回路を綴っている。

彼女は世界有数の錬金術師だし、学園の勉強も忙しいに違いない。

それなのにボクに時間をかけてくれるなんて…



「・・・う?・・・なぁに?」

「う、うぅん!何でもないよ!…ご、ごめんね!?邪魔しちゃって…」

「・・・んふふ。いいの。・・・大丈夫?」

「もちろん!」

「・・・そ。・・・頑張ってね。」

「は、はい!師匠…」

「・・・んふふっ・・・そう呼ばれると、くすぐったいね。」

「///」


彼女の期待に応えたいし…力になりたい。

ボクの夢はいつの間にか…彼女の夢を叶えることに変わっていた…






「…よ、よし!それじゃあ光学素子を…」

「・・・う!?まっ」

「え?」


『ドーンッ!』

「ぎゃっ!?」


「大丈夫!?」

「は、はい!なんとか…」

「・・・無意識に魔纏術を行使して魔力を通しちゃう事もあるから、素子に触るときは魔力を外に逃がしてくれる魔道具・・・排魔装置(ベント)を必ず腕に巻くように。・・・って、言ったでしょ?」

「ごめんなさい。忘れてました…」

「・・・もう一回。初めから。」

「………はい…」



み、道のりは遠いかもしれないけど…


………

……











「おじょーさまっ!お茶の時間ですよ!!」

「・・・う?」


侍女様が烏ちゃんを呼びに来たのは5回目にやっと成功したボクの回路を烏ちゃんが確認している最中の事だった・・・



「ほーらっ!錘様も帰ってこられましたから、お茶にしますよ!」


実は、錘様はお客様の着付けがあるとかで…朝から出かけており、ボクはまだ会っていない。



「・・・う~・・・これが終わってから」

「だーめーでーすー!錘様にはもう、お茶をお出ししてしまいました!あとはお嬢様を待つばかりですー!」

「・・・うー・・・分かった。・・・ヴァーレル君もおいで。紹介するから。」


あぁ、ついに錬金術師ギルドの生みの親でもある、伝説の【錘】様に会えるのかっ…



「は、はいっ!」


勢いよく席を立ったボクに、



「はぁっ!?…あなたも来るんですかぁ?」


朝からずー…っとこの調子の侍女様が、そう告げた。



「・・・ローズさん。」


すかさず烏ちゃんがフォローしてくれたけど…



「ぶぅ~っ!…いいですけど…あなたの席ないから!!」

「…」


ボクみたいな奴が大事なお嬢様の弟子になったのが気に入らないらしい。

心中お察ししますが…お、親の仇みたいな顔で見られるのは、ちょっと…



「・・・ローズさん!」

「うぅぅ~!!」

「…」


もう、立ち見でいいですから…

むしろ立たせてください。お願いします。



「ふんっ…何よその目は!?お嬢様が(かば)ってくれるからって…生意気っ!」

「・・・ローズさん!それ以上言ったら怒るよ!」

「むぅ〜う〜!!」

「…」



背中を見せたら斬られそうで

本当に怖いんですけど…


………

……






「は、初めまして錘様…ヴィ、ヴィヴァーチェ・アルケミスト・ノルウェ・サイプレス様!か…烏ちゃんの弟子で、ヴァーレルと…申します!…ご、ごきげんようございますか?」


錘様は噂通りの…銀の髪に黄緑色の瞳が美しいエルフの女性だった…



「へぇ~…君が孫弟子君の弟子ねぇ~…ふふふ。あぁ!元気だとも!それにしても…工員たちが、君が男を連れ込んだって騒いでいたからどんな奴かと思ったら…。ふうぅ~ん…ふふふっ。ナカナカ逞しくていい子じゃないか!…孫弟子君!君は“こういう”のが好みなのかい?」

「・・・う?ぜんぜん。」

「!?!?」


1ピコ秒も考えないの!?!?



「あれ?てっきり…」

「・・・ただの弟子。」


(涙)



「フッ、フーンッ!…さ。お嬢様っ。今日はディキャンとナッツのマカロンになりますよ!」

「・・・ありがと。・・・さ。錘様も。ヴァーレル君も。リリさんも。」

「あぁ、頂こうか!君が持ってきてくれるおやつはいつも美味しいからねぇ!」

「・・・工員さん達の分もあるから、後で渡すね。」

「私達にまで…いつも本当にありがとうございます。プチマイスター(工員さん達は烏ちゃんをそう呼んでいるらしい…)!!」


「・・・ヴァーレル君。食べないの?」

「…あなた汚いですね。お嬢様がこうおっしゃっているので特別に許可しますが…顔、拭いてからにしてくださいね。」

「はい…拭いてきます。拭いてからいただきます………」



いや。うん。まあ…

分かってたよ。

烏ちゃんがボクに対して、弟子以上の感情は無いって分かってたさ。

でも…



「じゃあ孫弟子君はどういう男が好みなんだい?」

「・・・そもそも男に興味がない。」

「うふふふっ!ですよねー!?」

「ふーん…。あまり深く追及する気もないけど…君は悪い女だね。」

「・・・魔女ですから。」

「ふふふっ!私、プチマイスターとは気が合いそうです!!」

「余計な事言うんじゃないよ。リリ…」


はっきりそう言われると心がえぐられる…

そしてそれが癖になりそうで…


父さん。母さん。

ボクはもう、ダメかもしれない…











「ヴァーレル君…とか言ったっけ?君はまだ、(めい)を貰っていないのかい?」


烏ちゃんデザインの制服が今年から本当に学園の制服に採用された話とか、練習に使っていた光学素子が実は超高級品で、2個もダメにしてしまったボクは修行初日から烏ちゃんに頭が上がらなくなってしまった話とか…の後。

錘様が不意にそう尋ねてきた。



「は、はい…。まだです…」


れ、錬金術師の証である【銘】か…

烏ちゃんからはそんな話を聞いていないし、ボクから尋ねるのも難だったので話題にしていなかったんだけど…



「・・・考えてあるけど・・・もうちょっと経ってからかな。」


チラッと横目で見た烏ちゃんはボクではなく錘様を見て、そう言った。



「!?」


か、考えてくれてたんだ!?

それだけでも嬉しい…



『スッ…』


う、後で剣の柄に手が触れた音がしたのは…き、気のせいだと信じたい!



「へぇ〜…錬金術師【烏】殿はナカナカ厳しいねぇ!どうして“まだ”なのかい!?」


これはずっと後…数年経ってから知った事なんだけど。

弟子に銘を授けるタイミングには決まりが無くて、師匠となる錬金術師次第(しだい)なんだとか。


でも、錬金術師ギルドに“錬金術師”として登録するには銘が必要。

そして登録しないと、師匠の“代理だとしても”仕事(商品の受け渡しや手続き)をさせてもらえない(弟子は師匠の仕事の手伝いをするのが当然なのに、それをさせてもらえない…結果的に師匠の仕事は減るどころか、増えてしまう。)から、大抵の錬金術師は弟子をとるとスグに銘を授けるんだそうだ…



「・・・それは・・・」


果たして、烏ちゃんが銘を授けてくれない理由とは…






「・・・危なっかしいからかな。」


至極当然の理由でした。



「あはははは!苦労してるねぇ!」

「お嬢様のお手を煩わせるなんて…っ恥を知りなさい!」

「…ホント。ごめんなさい………」


マジでガンバリマス…



「・・・もうちょっと慎重になろうね。」

「はい…」

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