Chapter 039_プロポーズ
カレント2,183年 萌木の月12日 春の女神祭当日。
春の女神祭はヒナ教のお祭だ。
この日は街のあちこちに即席のダンスステージが設けられ。
老いも若きも。男も女も。
みんな楽しく、朝まで踊り明かす。
ここ学園でも放課後からダンスパーティーが開かれる。
強制じゃないから帰っちゃう人もいるけど…
「烏ちゃん!」
「・・・う・・・」
「あー!現れたなっ!ストーカーG!!」
彼女はこういう行事が好きみたいで、去年と同じく、いつも一緒にいる友人と共に参加していた…
「ボクをDe『パッチンッ!!』theぎゃぁぁ~!!」
あぁ…
これで。烏ちゃんに焼かれるのは何回目だろう?
癖になってきた自分が怖い…
「・・・いい加減しつこい。1回死んどく?」
指パッチンの姿勢のまま、プクッと怒ったお顔でボクを蔑み見下すその姿は…
め、めちゃくちゃかわいい///
もっと罵って…か、叶うなら踏んでほしい!!
「・・・すー」
…って、マジで!?
彼女は息を吸って。再び唱えようとした!!
「!?」
か、快楽に身を委ねるなヴァーレル!!
こんなところで…こんなところで諦めてなるものか!!
「ほ、他じゃダメなんです!!烏ちゃんじゃなきゃダメなんですぅ!で、弟子にしてくれるまで…ボクはしにましぇ~ン!!!」
床に転がされたまま、彼女の瞳を見つめてそう言うと…
「・・・う?」
首を小さくかしげて『パチパチ』と2回瞬きをして…
「・・・んふふふっ。」
構えていた指を唇に移し、可憐な笑みを…
「・・・なにそれ?おかしいの。」
かっ、かわいいっ…
「っ///」
あぁ、父さん…母さん…
ヴァーレルの人生はきっと、この後焼き尽くされるけど…
「・・・んふふふっ!」
最後にいいものが見れたよ…
「///」
もう思い残すことは…
「・・・はぁ~。・・・もうっ。仕方ないなぁ・・・」
「…ふへ?」
呪文以外の言葉に驚き、間抜けな声を上げてしまったボクに彼女は…
「・・・いいよ。弟子にしてあげる。」
ボクの姿を、その大きな瞳に写してそう…
「…え?」
「・・・う?」
「へ?」
「・・・う?」
「…???」
「・・・いいならい」
「いいいいいくない!!弟子にしてください!」
「・・・いいよ。」
…そう言った!?
「ほ、ホントに!?」
「・・・ん。・・・その代わり、もう付き纏わないでね。」
「ももももちろんです!」
「・・・今までいっぱい燃やしちゃって・・・う~・・・謝らないけど。熱かったでしょ?大丈夫?」
「い、いえっ!ボクのせいですし…む、むしろ熱いのがいいというか…」
「・・・う?」
「な、何でもないですっ!!」
「・・・そ?ま。いいならいいけど・・・じゃあ、仲直りの印として1曲踊ってあげる。・・・私、下手だけど。」
「喜んで!!」
父さん母さん!前言撤回!!
ボクはやったよ!!
生き残った上に憧れの錬金術師様の弟子になったよ!!
「え!?マ、マジで!?フォニア…」
「・・・んふふっ。行ってくるね。」
「え、えぇ…
…まじ?」
………
……
…
「アン、ドゥ、トロワ…」
「いち、に、さん・・・」
あぁ…夢じゃ無いかな?
…もう、夢でもいいや。
「・・・いち、に、あっ!」
「だ、大丈夫!ほらっ…アン、ドゥ!」
「さん!・・・い、いち、に、さん・・・」
「…///」
本人が言う通り彼女の腕捌きはぎこちなくて、ステップはたどたどしくて…
健気で…
「・・・む〜・・・笑ったな?」
何でも出来る優等生な彼女の、かわいらしい弱点が堪らなく愛しかった。
いつも一緒にいる友人達と楽しそうに振る舞う彼女の姿を、指を咥えて黒焦げで(彼女の火魔法はだんだん刺激的になり、ボクを熱く焼いた)見守っていただけのボクがまさか、その手を取れるだなんて…
「い、いやっ!その…た、楽しいな!って…」
「・・・そ?・・・んふふっ。そう言ってもらえると嬉しい。」
「…///」
思ってもみなかっ…
「あだっ!!」
「・・・ごめん。踏んじゃった。」
「だ、大丈夫!!」
むしろご褒美です!!
「・・・ほんとに?ハイヒールの踵で踏んじゃったのに?」
「も、もっと…」
「・・・う?」
………
……
…
「・・・ねぇ。」
「は、はい?」
「・・・どうして錬金術師になりたいの?」
その後…数多の誘いを(割と物理的に)押し退けた彼女は話がしたいと言って、ダンス会場の端に用意されている椅子付きのテーブルにボクを誘ってくれた。
因みに、彼女の前にはりんごジュースが、
ボクの前には強めのブランデーが置かれている。
…いつ誰に刺されてもおかしくないこの状況。
飲まずにやってられるか!?
「えっと…ボクの両親はチェン・バル・ツェーンで道具屋をやっていて。そこで魔道具も置いているんだけど…」
「・・・」
「…///」
くっ…
お行儀悪く両肘突いてストロー咥える仕草も可愛ぃじゃないかっ!
「・・・それで?」
「そ、それで…こ、子供の頃から商品の魔道具で遊んだりもしてたんだけど…」
「・・・んふふっ。いけない子ね。」
「い、今思うとその通りだね。でも…興味を持つなって言う方が無理だったんだよ。母さんに言わせると、好奇心旺盛な子だったらしいし…」
「・・・今も変わってないね。新しい刺激に興味深々」
「!?」
バレてーらっ!?
「・・・続けて。」
「っ…そ、それで…ある日。ギルドにお使いに行った帰りに時間があったから駅に立ち寄ったんだ。汽車を見たくてね。でも…」
「・・・でも?」
「でも…お、お昼だったから。汽車なんて1台も止まってなくてね!当然なんだけど…」
汽車は…チェン・バル・ツェーンに限らず、どの国でも。特別列車を除いて
朝出発→夕方着
というダイヤで運行されている。
だから昼間、駅に汽車がいる事なんて無い…
「で、でもね!でも…時計があったんだよ。」
「・・・円様の大時計ね。」
「知ってるの!?」
「・・・もちろん。・・・チェン・バル・ツェーン。行った事あるし。」
「そ、そう!?そうなんだ!!…か、烏ちゃんが故郷を知ってるなんて…う、嬉しいよ!」
「・・・続けて。」
「う、うん!それで…お昼の時間でね。み、見た事があるなら知っていると思うけど…ちょうど動き出したんだよ。あの大時計の仕掛け…からくり時計が。」
「・・・」
「ボクはそれまで店に置いてある冒険者向けの魔道具しか見たことが無くて…だから、あんなに大きな魔道具が有るなんて知らなくてね!圧倒…されたんだよ…」
「・・・」
「そ、それで!その日から店の手伝いの合間を見ては大時計を見に行くようになったんだ!それである日…さ、3年前…かな?」
「・・・」
「み、見たよ。…烏ちゃんの卵で大時計が無人化される様を。…この瞳で。」
大時計はずっと、交代で人が入って魔力供給を行うことで動いていた。
「じ、実はね。あの役…時守の仕事に憧れていた時期もあったんだ。でも…実際にアレをやれって言われたら多分、出来なかったと思う…」
大時計は普通の魔道具の何倍もの魔力を消費するし、1秒たりとも供給を怠る事ができない手間のかかる魔道具だった。
それに時守は…大抵はドワーフだったけど、実際に魔力供給をするのは奴隷や下っ端の仕事。交代の時間に出て来る彼らは長時間の拘束と魔力搾取で歩くのも辛そうなほどに疲れ果てていて…見ていて憐れだった。
彼女の魔道具は、それを…
「あ、あんな大きな魔道具を…手の平に乗る程の小さな魔道具が動かしているなんて、本当に凄いと思ったよ!!しかも…父さんに聞いたら、それを開発したのはボクと同い年の子供だって言うじゃないか!憧れない方がどうかしてるよ!!」
『ちゅー・・・』
「っ///…と、父さんは言ったんだ。この魔道具は本当に凄いって!コレで人の生活は大きく変わるって!!魔蓄技術は錬金術が編み出されて以来(今流通している魔道具は殆ど人が造り出した物だけど、古代遺跡で発見された魔道具も多くあり、現在の錬金術は遺跡で発見された魔道具の模倣から始まったと言われている。…例えば、ストレージバッグはその造り方が今もって解明されておらず、発見あるいは発掘された物を錬金術師がリノベーションしているに過ぎない。)ずっと…何千年もの間研究され続けていたのに誰一人成し得なかった。発掘もされなかった。だから不可能と言われていたのに…」
『カランッ・・・』
「父さんは…た、たとえ錬金術師になれたとしても、そんな大発明をお前が出来るはずがないって…でも!そう言いながらも学校に通わせてくれたんだ!!…ボクの家は小さな道具屋にすぎない。魔道具も扱ってるけど…錬金術師のアトリエではないし、稼ぎもたかが知れている。この学園に通えたのも、たまたま工廠(祖国にある国営の工場。巨大建築物や汽車など、国家プロジェクト級のモノ作りをしているプロ集団。)がお得意様だったから推薦状を書いて貰えただけで…ボク1人を学校に通わせるにも、かなり無理をしているはずだ。だからボクは…絶対に夢を叶えようって。諦めるわけには…いかなかったんだよ!」
「・・・」
「…か、烏ちゃん。君は…ボ…ボ、ボクの…ボクの憧れですっ!!!勉強も…無茶も無理も!全部っ!ぜんぶ君のためにしてきましたっ!!だから…う、受け入れてくれて…ほ、本当にありがとうっ!!!」
「・・・」
「…っ」
「・・・」
『ガシッ…ゴッ、ゴクッ…』
「・・・」
『タンッ!』
「・・・」
「ふ、ふぅ~…」
「・・・」
「…///」
「・・・」
「///」
「・・・」
「//////」
「・・・」
ボ、ボクは本当に…やっていけるんだろうか?
「・・・ふーん。」
息が出来ないほどの
深い夜に…
「・・・そっ・・・か・・・」
四六時中
見つめられ…
「・・・んふふふっ。」
生きて…
「・・・そこまで言われちゃうと・・・」
いけるんだろうか…?
「・・・照れちゃうよ///」
「///っ///」
林檎です。
まさかフォニアたんが頷くとは・・・ヴァーレル君(G)恐るべし。
Gは【G級】のGだったのか?家庭内害虫の【G】じゃなかったのか!?
謎は深まります・・・
さてさて、それはともかく。
活動報告UPさせていただきましたので、よろしければご覧ください!
・・・よろしくね :)




