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Chapter 035_ブラックなお屋敷

林檎です。


本話はいつもよりちょっとだけ長めです。

・・・よろしくね;>

「はぁ~…」


親愛なるお父様。天国のお母様。ついでにバカ兄き…

ベルタは今日も異国の地で途方に暮れております…



「あと、504ルーン。とほほほ…」


お宿は明日の分まで先払いしてあるからいいけど…このままじゃ、次の仕事にありつく前に餓死してしまう。

たとえ飢え死にを免れても明後日以降、行く当てがない…


どうしよぉ…!?

“壺落ち”だけは嫌ぁ…



「ひもじい…」


私ベルタは今年の春に母国エパーニャ・リアナ王国にある美術・工芸専門学校“アカデミア”の園芸科を卒業した駆け出しの庭師だ。

学校の紹介でエディステラの一流造園業者に就職して、ついこの間まで働いていたんだけど…



「でも…あのまま、あそこにいるわけには…」


親方(おやかた)はじめ、男性陣のセクハラに耐えかねて…親方(エロじじい)の顔面ぶん殴って飛び出した…という訳だ。


これは常識だけど…

木魔法と風魔法。あと、水魔法は…女性に比べて男性の方が適性を持っている人が多いと言われており、反対に土・金属・火魔法は女性の方が多いと言われている。

治癒魔法にいたっては、ほぼ100%女性だし、契約魔法は…こ、これは適正属性の“せい”というより奴隷商人ギルドの“せい”らしいけど…全員が男性だ。

もちろん私みたいに木魔法が得意な女だっているから、絶対じゃないけど…この、適性属性の偏りが原因で職種によっては男性が多かったり、反対に女性が多い…場合がある。


私が憧れ目指した造園業はまさにそれで、ほぼ完全な男社会。

就職してからの仕事といえば、お茶くみや事務作業ばっかり。植物に触れる機会なんて全然なかった。

もちろん、初めはそれも下積みと思って我慢したけど…さ、さすがに縁談の話やセクハラには我慢できない!

なにが「これも仕事だ」よっ!


そう思うなら自分のしりを触れ!!



「…うんっ!くよくよするなベルタ!!お前はよく我慢した!これでいいのだ!!それに…まだ明日があるじゃないか!」


職場を飛び出した私だけど当然、庭師になるという夢を諦めたわけじゃない。

でも…数日宿に引きこもって出遅れてしまったせいで、再就職しようと他の造園業者に向かっても前の職場から話がいっていたようで…受け入れてもらえず。

ならば専属で!と思い、こうして上町のお屋敷を巡っているんだけど…新卒…しかもフリーの…私を雇ってくれる人なんていなかった…



「…帰ろ。」


まだ明日がある…

病床に伏した母様が毎日のように言っていたその言葉を思い出しながら、下町のお宿に向かって夕暮れの川原を歩いていると…



「…おりょ?」


珍しいものを見つけた…



「………ヘデラ?いや。でも…紅葉しているしなぁ…」


川原の道を歩いていると、上町にしては控え目なお屋敷があり、その壁面にツル植物が絡まっていた。

エディステラは母国に比べ北方にあるけど比較的暖かいので、ヘデラのような…寒さに強くない…植物も、ギリギリ育てることが出来るかもしれない。


でも、目の前のお屋敷に絡まっているこの植物は…



「う~ん。山葡萄の…仲間?…かなぁ?」


リブラリアでは時々、妙な植物が発見されることがある。雪山に咲く花とか、人に噛みつく植物とか…そんなんだ。

魔力によって生み出された一種の魔物(実際に人を襲う植物もある…)だと考えられている。


あと、普通の植物でもときどき、近くに強い魔力の源(魔力によって生み出された特殊な環境とか、強力な魔物が生息するダンジョンとか…)があるとその影響を受けて変な成長をすることがある。


「どうして?」かは、分からないらしいけどね…



「栄養状態悪いなぁ…」


魔力の影響を受けた植物はそうでない植物より頑強だったり、特殊な性質を持っていることが多いけど…“植物である”という事実は変わらはない。

水を吸えなかったり栄養が足りなかったり。寒すぎたりすると、やがて枯れてしまう。


見たところ、目の前のツル植物は危機に瀕している。先端に行けば行くほど枯れており…水が行き渡らず栄養状態がとても悪い。

それでもこうして、ちゃんと色づいているのは…近くに強力な魔力の源でもあるのかな?



「・・・あの」

「へっ!?」


お屋敷の前にしゃがみ、茎を触ったり葉っぱをひっくり返していた私に声がかけられた。

慌てて振り返ると、そこには…



「・・・うちに何か?」


眼鏡の向こうのスミレ色の瞳が素敵な、小さな女の子が馬上から私を見下ろし小首を傾げていた。

かわいい子だなぁ…



「・・・う?」


って、見惚れてる場合じゃない!



「こ、こんにちはお嬢ちゃん!えぇと…め、珍しい植物だったから見ていたの!わ、私は怪しいものじゃないわ!!あ、あなたのお家の前でしゃがんだりして…ご、ごめんなさい!」


ここは有力者蔓延(はびこ)る貴族街…上町だ。

規模は控え目…とはいえ、そこのお屋敷のお嬢様に怪しまれ、声でも上げられようものなら就職活動どころじゃ無い!

急いで退散しようと、腰を上げると…



「・・・う?珍しい?・・・そうなの?」


そのお嬢様は、そう、呟いた。


…あれ?興味ある?

これは…



「え、えぇ!そうなの!そうなのです!!…このテのツル植物は普通、寒さに強くないの。それに、山葡萄の木に似ているけど実を付けていない。なのにここまで成長しているとなると…新種かもしれないわ!」

「・・・そうなんだ。知らなかった・・・」

「うふふ。普通はそうよね…。でも、残念だけど…このままだと、きっと枯れてしまうわ…」

「・・・うぅ!?そ、そうなの?」

「そうなのです…。ほら、先っぽの枝とか…茶色く枯れちゃってるでしょ?」

「・・・ホントだ。・・・でも、枯れてない場所にはキレイな葉っぱが・・・」

「これはね。多分…近くに強力な魔力の源があって、その影響で変な成長をしているだけなの。」

「・・・・・・そうなんだ・・・」

「そうなの。でも、それは植物本来の成長じゃ無いから表面的な事で…時間が経つと、結局枯れちゃうのよ。」

「・・・それは困る。気に入っているのに・・・」


これはこれは!?



「こ、こういう難しい植物は時間をかけてじっくり…つ、付きっきりでお世話をしないといけないの!し、失礼だけど…お、お嬢ちゃんのお家に庭師さんは…」

「・・・うちには居ない。」


キタコレ!!まじキタこれ!!

実は他の植物も剪定が雑だったり、柵が補修されてなかったから…

「そうじゃないかなぁ?」って思ってたんですよこれが!


い、いや!まてまて焦るな!!

焦るなベルタ!!

ここで失敗したら明後日は壺落ちだぞ!!


ひっ、ひっ、ふー…よ、よしっ!



「そ、そう…なのっ?…そ。そそ、それじゃ、お庭のお世話は誰が…」


上町は大豪邸が殆どだから専属の庭師がいる事が多いけど…このお屋敷はそこまで大きくないので造園業者に定期的に世話をさせている可能性もある…



「・・・うちは家臣が世話をしている。」

「か、家臣?…通いの庭師さん…とか?」

「・・・んーん。侍女と・・・コック見習い。」

「ほ、ホント!!」


ファイナルアンサー!?



「・・・ん。」






やっ…



…い、いやいや待て待て!

落ち着け!落ち着けベルタ!!

まだその時じゃない!冷静さを欠いたら負けよ!


もし、ここで失敗したら今夜が最後の晩餐よ!!

ひっ、ひっ、ふー…よ、よしっ!



「お、お嬢ちゃん!!もし良ければあなたの…」


お父様かお母様に会わせて!

そう言おうとした時だった



「おじょーさまー!お帰りな…さ…?」


満面の笑みを浮かべた1人の侍女が玄関から飛び出して…



「・・・ただいまローズさん。」

「お帰りなさいませ…」


お嬢様への挨拶もソコソコに。


『じー…』


っと。

私をジト目で見つめ、そして…



「…この方は?」

「・・・知らない人。」

「………」


無言になった侍女さんは腰に佩いた剣を…

け、剣を!?



「・・・ローズさん。すとっぷ。」


………

……






「…ふーん。ベルタさん…ね。」


お嬢様のひと唱えで命拾いした私は彼女の勧めで家に上がらせてもらい、彼女が着替えさせてもらっている間に身分証と…履歴書を。


侍女長様に検分されていた。



「は、はははハイ!ベルタです!」

「…」


お嬢様の命令…なんだけど。

私の相手をするのが大層不服な侍女長様は、いかにも嫌そうな顔で私と向き合っていた。


私…怒らせるような事したっけ?



「…お住まいは?」

「い、今は宿を取っております!」

「ふーん。…部屋が空いてるので住み込みでも良いですが、どうします?」


…へ?

雇って…もらえる!?



「そ、それは…願ってもない…」

「住み込みなら、三食おやつ付き。お仕事が終われば自由時間です。休日は事前に連絡してくれればいつでも。長期は相談してください。残業はお嬢様の気まぐれで時々…」


は、はい!?

おやつ付きって何ですか!?住み込みで…きゅ、休日あり!?

なにこの好待遇!?


っていうか何!?

すでに雇うの確定なの!?



「お給料は…『理の願い』ヴァージンリーフ。………これくらいで?」

「………?」


侍女長様がサラサラと筆を走らせて私に見せた紙片には…ちょ、ちょっと理解できない数字が書かれていた。



「…少ないですか?まあ、職人さんですものね。では…これで?」

「!?!?!?」


さらに増えたその数字は、私がついこの間までもらっていたお給料のほぼ10倍だった。



「まだ少ないですか…」

「い、いえいえいえ!!多い!!多すぎです!!桁が違います!!」


金銭感覚がオカシイ。



「そうですか…。でも、これくらいは貰っておいて下さい。その分働いてもらいますから…」

「ひえぇぇ~…ちょ、ちょっと考えさせて…」

「お嬢様が招き入れた以上…逃がしませんよ。」

「えぇぇ!?!?」


なにこのブラック屋敷!?

私の同意なしなの!?お嬢様は魔女様か何かですか!?唱えた通りですか!?


これはヒドイ!!




「・・・お話は終わった?」


紙片と自由を天秤にかけていると…先ほどのお嬢様が部屋着に着替えて談話室へと入ってきた。

よく見るとメガネもなくなっており、スミレ色だった瞳が…


ひとみ…が…ひ、瞳が!?



「そ、その瞳!?…も、もしかしてお嬢様は…」



「・・・んふふっ。えぇと・・・」

「ベルタさん…」


侍女長様に私の名前を聞いたお嬢様は夜を湛えたその瞳で私を真っ直ぐに見つめ…


「・・・はじめましてベルタさん。畔邸へようこそ!この屋敷の主人の・・・フォニア・シェバリエ・ピアニシモと申します!」


天秤に乗せられた紙片の上にはさらに【魔女の庭師】という代えがたい栄誉が加わり。

そして…



「・・・ベルタさん。私の畔邸をお花と緑でいっぱいにして!・・・お願い!」


…傾いた

皆様もブラックな職場にはご用心!


「おやつ」と「報酬」の引き換えに、一生分の「自由」を失う事になるかも・・・






・・・っと。それと!


活動報告をUPしましたので、よかったらご覧くださいね!

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