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Chapter 034.5_公爵令嬢はお熱いのがお好き<閑話>

「・・・そう。それじゃあ次は・・・速度を変えてみようか?」

「は、はいっ!頑張ります///」


夢じゃ…ないだろうか?



「ほ、『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!!」


私の願いを魔女様はあっさりと叶えてくれた。

「・・・いいよ。」の一言だけだった。



「・・・う~・・・速くするのは苦手?ちょっと炎が伸びちゃったよね?」

「うぅっ…おっしゃる通りです…」

「・・・炎は“物”じゃなくて“現象”なの。だから・・・“燃焼物”が移動しているんじゃなくて、“燃えている空間”が移動しているってイマジネーションした方が上手くいく。」

「く、空間が移動!?…風魔法みたいな?」

「・・・他の属性は意識しないほうがいい。」


彼女には…わ、私が彼女に近づいた理由は話したけど、どうして彼女に憧れているのかはまだ話していない。


ま、まだ…



「ご、ごめんなさい…」

「・・・謝らなくていいけど・・・そうだ。修行時代に師匠に教えてもらった、いい練習方法がある。試してみようか?」

「ロ、ローデリア様の!?」

「・・・う?ぅ、ぅん・・・」

「はぁぁ///やります!やらせてください!!」

「・・・ん。」


実は私は、ほんの子供のころ…

父と兄。そして弟と一緒に汽車に乗って遠征にやってきたローデリア様をお迎えしたことがある。


紅蓮の瞳。ベルベッドローズの長い髪。キリっとした見た目の素敵な女性…それがローデリア様だった。

理想の通りの…その名の通りの魔女様だった。

憧れないはずが、なかった…



「・・・『灯よ 静寂を穢す者』スカルボ。」

「えぇっ!?」

「・・・これを維持するの。」

「こ、これをって…。て、手の平の上に…ひ、火を!?熱くないの?」

「・・・んふふ。みんなそう言って驚くけど・・・これにはカラクリがあるの。」

「カ、カラクリ…」

「・・・火が燃えている時、熱せられて熱くなった空気は上に向かうの。だから・・・火の下にある手は、意外と熱くない。・・・もっとも、セキガイ・・・じゃなくて。熱を帯びた“光”・・・も、出ているから。まったく熱くないわけじゃないけどね。・・・試しに下から手を近づけてみて。大丈夫だから・・・」

「う、うん…」



だから最初は、ローデリア様“の”弟子である彼女が…


彼女のことが嫌いだった。

私の憧れの場所にたどり着いた彼女のことが羨ましかった。妬ましかった。


「・・・どう?」

「………ホントだ。温かいけど…熱くはないかな?」

「・・・ん!こうやって手の平の上に置いた火を維持して、観察して。熱の分布や流れを感じて・・・“火とは何か”を、直ぐ近くで詳しく調べるの。それで・・・現実の火と、魔法の火の違いを知って。どうすれば唱えた通りに出来るのか考えるの。」


けど…


………

……

















「えっ!?だ、大丈夫なの!?」


ま、まだ…私がまだ。学園2年生だった時の事。



「現場までは距離もある。それに、討伐の為に魔女様…もちろんローデリア様…の。お弟子様が来ているらしい。大丈夫だろう。」


故郷のルスクェルト王国 ベルン公爵領はデュクサヌ・ウェーバル宗主国とエディアラ王国。そしてグラハ侯国と国境を接する王国でも有数の…重要な…領地だ。

交通の要所となっているし、産業も盛ん。けど、市街地を離れれば避暑地になっている風光明媚な湖もあったりする…自慢の故郷だ。


そんな故郷の、その避暑地の別邸で夏休みを過ごそうとやってきた私を待っていたのは、山を幾つか越えた先(領地としてはデュクサヌになるけど…)の集落に謎の巨鳥…魔物…が現れたというニュースだった



「魔女様の…で、弟子!?ローデリア様に弟子なんていたの!?」


憧れの魔女様に弟子がいる…

そのことを知ったのは、この時だった。



「らしいぞ?たしか…お前より年下の女の子で…」

「本当に大丈夫なの!?」


現れたのがどれほどの魔物か知らないし、魔女様の弟子がどんな人物なのかも知らないけれど…

わ、私より…年下!?子供じゃない!?


そんなの頼りになるわけないでしょ!?



()()魔女様が代理として寄こしたんだ。恐らく大丈夫なのだろう。」

「うっ…そ、そう言われると…」


私はローデリア様が戦っているところを直接見た事は無いけど…龍を倒したとか、前人未踏の超高難度ダンジョンを踏破したとか…その伝説は山ほど耳にしている。



「そ、そうかもしれないけど…」


父様が言う通り、あの人が認めたという事は…



「とにかく…レベッカ。お前も一応、頭に入れておけよ。被害が及ぶ可能性は低いと思うが戦いの余波…音や煙くらいは…聞こえたり、見えたりするかもしれん。…ゲストに不安を感じさせないようにな。」

「わ、分ってるわよ!」


父様にそう返した私は…結局。“嫌なこと”も含めて“気にしない”と決め込んで話を終わらせ。次の日からは、そんな事すっかり忘れて遊んで暮らしていた。


そして事が起きたのは、その5日後だった…






「お、おい!本当に大丈夫なのか!」

「だ、大丈夫です!」

「あれは…や、山の向こうが燃えているんじゃないのか!?あれのどこが大丈夫だというのだ!!?」


夜明け前。

暁の東の空が赤く燃えていた。

火が直接見えているわけじゃないけど…



「この場所は安全です!距離もあります!!それに…こ、ここには騎士団も駐在しています!!」


とにかく人手が欲しい!

父様にそう言われた私は寝ぼけ眼のまま、別邸に押しかけるゲスト達の対応に駆り出された。

できる事があるわけじゃないけど…何もしない訳にも、いかなかった。


「あれほどの火事に騎士団がどう対処するというのだ!?」

「そ、それは…う、馬がありますので。いざとなれば、麓までお連れします!」

「ひょっとして…例の。デュクサヌの魔物の!?」

「分かりません!と、とにかく皆様は落ち着いて…」

「この状況で落ち着いてなどいられるか!?」


状況が状況だ。

誰だって例の魔物が火事の原因だって直感していたし、空を赤く染めるほどの炎がただ事では無いって分かっていた。けど…



「れ、例の魔物には“冒険者様”が対応してくださっているはずです!!皆様はどうか、落ち着いてくださいー!」


私にできる事なんて…

何の根拠もなく、そう唱えるくらいしかなかった…











「み、みろっ!」


しかしそんな時…誰かがそう言って暁の空を指さした。



「え…」


釣られて振り返った私の瞳を染めたのは…



「あ、青い…光?」

「あお…青か?かなり白っぽい…どちらかというと、水色というか…」

「そ、空…色…?」

「魔法…だよな?何属性だ?」


昇り始めた赤い太陽のすぐそば…燃える山の影から



「うそ…でしょ?」

「ま、まさか…あれは…」

「まほういん…」

「ど、どれほど巨大だというのだ…」


朝日にも負けないほど明るい空色の光を放つ…魔法印の断片。そして…



『ドォンッ…』

「今の音!?」

「ば、爆発…!?」

「おい見ろ!!煙だ!」

「け、煙もそうだが…あ、赤が…山火事が…消えた!?」

「いったい…何が…?」
















煉獄の魔女様の弟子…

万象の魔女様が命名されたのは、その翌月のことだった。


彼女はその黒い瞳に万象を宿し、火魔法は…空色の炎を灯すという…


………

……
















・・

・・・


「…ね、ねぇフォニア…ちゃん?」

「・・・もくぅ?」


お菓子があるよ!

魔法レッスンのお礼に…と。先輩は手作りジンジャークッキーを出してくれた!

今は休憩がてら、他には誰もいない火魔法研究会の部室でお茶の最中・・・



「フォニアちゃん…い、いえ!万象の魔女様!!その…ま、魔女様がデュクサヌで巨鳥を倒した時の事なんだけど…。わ、私…ね。たぶん、見たのよ。魔女様の魔法を…。」


え・・・

でも・・・だ、だってあれは。すごく山奥で・・・



「ま、魔物が現れたっていうあの集落はね!デュクサヌ側からだと遠いけど、実は…山をいくつか越えた先はルスクェルトで…わ、私の故郷なの!それで、たまたま…」


うっ・・・

リブラリアで出回っている地図はランドマークが描かれただけの・・・異世界風に言うと、シャレオツ過ぎて訳がわからない・・・アプリでナビしないと辿り着けないカフェの地図みたいな・・・物だから。距離感とか掴めないんだよね。


国境跨ぐと推測すら難しくなる・・・



「あの時の…そ、空色の魔法印の魔法って…」


うぅぅ・・・み、見られてる。

完全に見られてる・・・


実はあの時。

現れた魔物を倒すために火魔法を行使したら、魔物の方も火属性の固有魔法を行使してきて、火で火を洗う大炎会(だいえんかい)状態になっちゃって・・・



「ひ、火魔法…よね?」


最終的に山を3つくらい焦土にしちゃったんだよね。

メイン会場なんて今後100年くらいは草1本生えないんじゃないか?ってくらい。徹底的に・・・



「・・・」


人里離れた奥地だったから大丈夫だと思っていたんだけど・・・



「…い、言いたく…ない?」


立場的にも状況的にも、狩りの方法を先輩に話す義務は無いんだけど・・・



「・・・その通りです。ゴメ・・・」


ご迷惑をかけたなら謝ら・・・



「やっぱり!!!」

「うっ!?」


謝罪の言葉を言い終えないうちに、何故か先輩は私の手をとってキラキラとした眼差しを向けた。



「凄い!凄いわ魔女様!!絶対そうだと思っていたの!!距離があったのに…や、山の向こうまで見える規模の火魔法を行使できるなんてっ!ほんっ…とーに凄い!!」

「・・・」

「ね!あの時の…魔女様の!空色の火!!見せて!ひと目だけでもいいから!!」

「・・・」

「お〜ね〜が〜い〜!!」


え、え〜と・・・

キャラ変わってませんか?ダメな方向に



「このとぉ~りっ!!」


いやいやいや!



「あ、頭を上げてください先輩!!」


ベルン公爵令嬢が後輩相手に何やってるの!?

まずいから!国際問題になるから!!



「じゃあじゃあ!見せてくれるのねっ?貴女の…あっ、熱いのをっ///」

「・・・」

「はぁ〜やぁ〜くぅ〜!じ、焦らさないでぇ~///」


残念美人とはこのことか・・・

林檎です!


残念美人ではありますが・・・レベッカ先輩はいい人ですよ!

たぶん・・・

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