Chapter 012.5 はじまりの街 <閑話>
林檎です。
1話完結の閑話。
台風でズル休みしちゃったので急遽仕上げました。
このお話は現在進行中の本編(Chapter 012-013)の、さらに1ヶ月後の「ある日」を想定した物語です。
主人公はルボワ市にやって来た2人組(男の子2人)新人冒険者パーティーの1人。
今後、本編には一切登場しない人物ですので、あえて名前は出しません。
本編には直接関わらないため読み飛ばしていただいても構いませんが…はじまりの街ルボワ市の雰囲気を感じ取るための一助となれば。…そう思って描かせて頂きました。
お楽しみいただければ幸いです。
ちょっとだけ改訂。(21/10/01-19:30)
<閑話>の表記を統一しました!(21/11/28-10:00)
初夏のある晴れた日…
この春学園を卒業したオレ達2人は馬車を乗り継いで…
2ヶ月以上の時間をかけて。
この街へとやって来た。
時間と金をかけてこの街にやって来た理由は、もちろん。
憧れの冒険者になるためだ。
金持ちのボンボンのように汽車に乗れればもっと早く
来られたんだろうが。先立つものがなぁ…
ま。のんびりやるさ!
それに、遅く着いたおかげか…分からないが。
面白い出会にも恵まれた
「・・・もにもにもに・・・んっくん。・・・美味しい!」
ギルドで顔見せを済ました俺たち。今後の活動について話し合いながら
ヴィエノワズリー(菓子パン)を摘まんでいたところ…側を通りかかった
小さな女の子が物欲しそうな顔でオレたちを見ている事に気づいた。
試しに1つ与えてみたところ、その子は満面の笑みでパンを受け取り
それはそれは、美味しそうに。食べ始めたのだった…
「ははは!そうか。旨いか!」
「それにしても美味そうに食うなぁ…。途中の集落で買った、ただのブドウパンなんだがなぁ…」
食いっぷりのいい子供を眺めながら、そんな事を呟いていると
「・・・もっくん。・・・ごちそうさまでした。」
最後のひと欠けを、小さな口で魔力に変えたその子は
満足げに手を合わせてそう言った。
「・・・どうもありがとう。お兄さん達!いい人っ!」
…たかだか40ルーンの菓子パンでここまで喜んでもらえるのなら
与えがいがあるというものだ。
「喜んでもらえて良かったよ!…な?」
「あぁ。…どうせ余り物だったしな」
「・・・そう?それでもありがとう!」
再び頭を下げたその子を「礼儀正しい」と褒めてやろうと思った。
その時…
「…あ、あれ!?」
再び顔をあげたその子の目…瞳…が、
目に留まり…
「おっ…?」
どうやら、相棒も同じことに気づいたようだ…
「・・・う?」
「き、君の…その瞳だけど…」
「もしかして…」
オレたちの言葉を聞いたその子は
「・・・あ・・・んふふっ。」
と、不敵に笑い…
「・・・おに―さん達は。私・・・の。」
オレ達を見上げて『パチパチ…パチ』と、
大きな瞬きを3つ。
「ヒミツ・・・」
小さな指を、小さな唇に
当てながら…
「・・・秘密にしてくれる?」
小さな声で。囁くように
唱え…
「っ///」
「ぐっ…」
夜を湛えた黒い瞳にオレ達を映して“お願い”をする
その姿は。
何というか…
「・・・う~・・・メ?」
なんというかぁ…
「だ、ダメなわけあるか!…な!?」
「お、おう!こ、ここだけの…オレ達だけの秘密だ!!」
「・・・んふふっ。やったー。約束だからね!」
危険…だ…。
「・・・そうだ!お兄さんたち、この街に来たばかりの冒険者さんでしょ?もし良かったら、街を案内してあげようか?」
顔を上げた彼女は『パッ…』と、胸の前で手を合わせ
思わぬ提案をした
この街を…案内?
「えぇと…」
「どうしてオレ達が、来たばかりの冒険者だと思ったんだい?」
彼女の言葉にオレが逡巡していると、
相棒はそんな事を聞いていた。
そう言えば…彼女はオレ達が“新人”だと分かっているようだ。
この街には、オレ達のような冒険者が沢山いるハズだが…
「・・・んふふっ。分かるよぉ。・・・槍を背負って、剣を佩いているのに大きな荷物を持っていて・・・でも、納品するわけでも無い。・・・この時期だから、新卒さんかな?・・・ギルドに直接、顔見せに来たんでしょ?」
「あ、あぁ…」
「・・・毎年来るからね!お兄さんたちみたいな人っ!!」
なるほど。地元の子…という事か。
「・・・それより!・・・お宿も取らずにのんびりしてると、すぐにいっぱいになっちゃうよ?ヴィエノワズリーのお礼に、いいお宿を紹介してあげる!」
そう言った彼女はギルドの入り口まで駆け…
「・・・おいでよ!」
と、叫んだ。
「お、おい…」
「あぁ…」
ギルド員や、先輩たちの…棘のある…視線に
居たたまれなくなっていたオレ達2人は
早々に席を立ち…
「・・・いこっ!」
「お、おう!」
「あぁ!」
荷物を背負って足早に。逃げるように。
彼女の後を追った…
………
……
…
「・・・ここが、おすすめのお宿。【茜の水面亭】だよ!」
彼女が案内してくれたのは、浩々と水を湛えた
大きな水路を背にしている事以外、特徴のない…大きくはないが、
小さくもない…
“普通の”宿だった。
「…ここが?」
「フォニアちゃん。この宿は…」
道中教えてもらった彼女の名を相棒が呼ぶと、亜麻色の三つ編みを
『ふわり』と浮かせて振り返り…
「・・・このお宿はね・・・」
屈託のない真直ぐの笑顔で、
両手をグッ、と、
「・・・ご飯がおいしいの!!」
そう言った。
「はは…」
「そっか。飯が…」
オレ達の乾いた笑いがお気に召さなかったのか…
「・・・むぅ~っ!」
彼女は、
頬を膨らませ
「・・・ご飯は大事だよ!魔力の源だし・・・冒険で疲れた後は、美味しいご飯とエールが一番っ!・・・って。冒険者のお兄さんやお姉さんが言ってたもん!」
…と、反論してきた。
冒険者のお兄さんとお姉さん…知り合いでもいるのだろうか?
そういえば、この子と出会ったのも冒険者ギルドだし…冒険者に
興味があるのだろうか?
「そ、そうだな!大事だな!」
もっとも、【冒険者】は絵本やお伽噺にも頻繁に取り上げられる…
子供が憧れる職業の代表だ。
この小さなフォニアちゃんが“そう”であってもおかしくはない。
「・・・んっ!」
そういえば、オレとこの…幼馴染の…相棒が。冒険者に憧れたのも
この子くらいの歳だったかもなぁ…
「よ、よし!ここにしようぜ!?…いいよな!」
「おうっ!」
「・・・やったね!」
懐かしい事を思い出した…
………
……
…
「・・・ここが治癒院。ギルドに近いし便利でしょ?」
帳簿にサインをし、荷物を置いたオレ達は
早く早くと急かすフォニアちゃんに連れられて街を巡った
錬金術師のアトリエ。
パン屋。
武器防具屋。
保存食を置いている乾物屋。
魔導館(魔導書を見せてくれたり、魔法を教えてくれる店)。
串焼き屋。
バケット屋。
新鮮な野菜を置いている屋台。
果物を浸した甘い水を売る出店。
干し魚をグラム売りしているおっちゃん…
…などなど。
半分以上が食い物屋だったが…フォニアちゃんの案内は確かに今後の為になった。
冒険者として活動するには何が必要か…まるで、経験者でもあるかのように…
よく、心得ていた。
そして、今いるのは
デカいヒナ教会の一角に建つ【治癒院】の前…
「・・・う?ボドワンさんだ。おーい!」
時刻は昼過ぎ。夕方と呼ぶには少々早い時間だ。
治癒院の門前で暇をしていたゴツイおっさんにフォニアちゃんが声(知り合いなのか?フォニアちゃんは紹介されたどの店の店主とも仲良さそうに世間話をしていた。小さい子供だというのに、ずいぶん社交的だ…)をかけると…
「…!」
手を挙げてフォニアちゃんに挨拶を返した後…
「………」
「…」「…」
オレ達2人をガン見してきた。
「…」
おっさんが両手を置き、地面に突き下ろすメイスの下は…凹み…ヒビが……っ
「・・・じゃあ。次に行こう!・・・ボドワンさーん!イレーヌによろしくねー!」
その事に気付かないフォニアちゃんはおっさんに手を振り…今はもう、
次に向かって、歩き出していた…
「…い、行こう!」
「おうっ…」
怪我はすまい。
「…」
近寄りがたい視線を背に感じながら、
おれ達は心に誓った…
………
……
…
「・・・ここが。最後・・・」
そういう彼女に連れていかれたのは…街の外。
土壁の切れ目に作られた街の門を越え、少し歩いた先。
低い丘の。上だった…
「・・・アレがルボワ市名物の土壁で・・・あっちがルボワの森だよ!」
フォニアちゃんによると…
ルボワ市は東西に長い。潰れた楕円型をした街だそうだ。
街の南。1kmほど先から拡がっているのが、憧れのダンジョン【ルボワの森】
ルボワ市の南半分を囲う土壁は、魔物の襲撃に備えての物だそうだ…
「・・・もっとも。こんなボロボロの壁じゃ、本当に魔物に襲われたら。ひとたまりもないらしいけどね・・・」
「「…」」
「・・・もうすぐ小麦の収穫。ルボワ市の外は。南以外、ぜんぶ小麦畑だから。今の時期は金色のぅ・・・」
説明を続けてくれているフォニアちゃんには…
「・・・んふふ・・・」
悪い。けど…
「っ…」「…。」
オレ達は、憧れの場所に来たという…
「「…」」
その感動に
打ち震えていた…
………
……
…
「・・・もうすぐ・・・夕方だね。みんな・・・狩りを終えて帰って来たんだ。」
数人のグループ、あるいは1人の者が点々と。
森から街へ、
風の走る草原を歩いていた…
「・・・きっと・・・みんな。無事・・・だよね?」
肩を叩きながら笑い合う者。
失意に沈み足取りも重い者。
大きな荷物を3人がかりで抱える者。
仲間の肩を借りる者。
一人静かに拳を握る者。
腕を庇いながら歯を食いしばる者。
「・・・みんな。お帰り。」
これが…
「・・・ようこそルボワへ。歓迎します。」
コッソリ場面絵を追加っ・・・と!
<23/05/19>
読み返しついでに改訂しまーしたっ!
<24/02/18 15:15->