Chapter 030_気まぐれな蝶
『さ…さぁーっ!!コンテスタントが暴走気味だったがぁ!?気を取り直して。次!行ってみよー!!』
「「「「「イエェェェェーーーーーイッッ!!!」」」」」」
あのあと。
唐突にレベッカ先輩に握手から求められたり、「火魔法研究会に入りたい!」と言われて「・・・隣の会長に言って」とアドバイスしたらレベッカ先輩がターニャ先輩を何故か睨んだり・・・と。
ハプニングはあったものの、レダ戦の舞台はターニャ先輩に空け渡された。
『それじゃあ行ってみYOooo!!さんねぇーん!!いち組ぃ!!プリモぉ!!…タチヤーナァァァ・セレヴィスカヤぁぁぁぁ!!!』
「「「「「ッワァァアァァーーーー!!!」」」」」
「ターニャァ!!!」
「期待してるぞォォ!!」
「「「ターニャ先輩頑張れぇぇ!!」」」
「わわっ!?ナニナニ?なんでみんな、私の事知ってるの!?」
実際の所・・・
ターニャ先輩は学園の中で「次に魔女を輩出するとしたら彼女では?」と言われるくらい優秀だ。
魔法の方も・・・ちょっと魔力量が少ないものの、飲み込みが早くて何回か練習すればすぐに宿してしまう。
毎日のように研究室で寝て、お菓子食べて、遊んでいるのに・・・強者ひしめくこの学園で、どうしてプリモでいられるのか・・・正直、納得いかない。
言っちゃなんだけど、見えないところで勉強しているようには見えないしなぁ・・・
・・・ついでに、あんなに不規則な生活しているにも拘らず、髪はツヤツヤ。お肌モチモチな事も納得いかない!
どうなってるんだ!?この世界はっ!?
「…何か良く分かんないけど…と、とりあえず魔法を唱えればいいのかな?お祭り男爵!?」
・・・そ、それはともかく!
抜群の“天才(然)ちゃん”であるターニャ先輩は当然、学園では有名人。赤茶色の綺麗な髪を伸ばした美人なのに、いつも寝癖が付いていて、親しみが持てると・・・ファンも多い。
『ちょっ!?ま、まあ。いいけどよ…。で、質問の答えだが…期待してるぞタチヤーナ!!思いっきりやっちまえ!!』
もっとも本人は、自分が裏で“どう”言われているのか?なんて・・・
まったく気にして無さそうだけどね!
「りょ!!…ふふ~ん!ここにはフォニアたんもいるしぃ!それじゃあ…お言葉に甘えてっ!思いっきり歌っちゃうよぉ!!…コホンっ。あ~あー…うんっ。よしっ!!」
「ちょっ!?た、タチヤーナ!?」
喉の調子を確認(?)したターニャ先輩は、レベッカ先輩の心配の声も意に介さず・・・
「届け☆彡 リブラリアの彼方までっ!私の歌を聞けぇぇぇ~~~!!」」
「「「「「ウオォォォッ!!!」」」」」」
謎のセリフと共に、美しい所作で発動子のフランベルジュを『ヒュヒュンッ!』と構えて
「すー…
グラデーションのある美しい瞳で、切っ先の彼方にある理を見つめ・・・
『蝶よ』
唱えた・・・
『華から華へ
悪戯に
諍い散らして
舞い踊る
災禍の化身』
バタフライ!!」
「「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」」
火属性 第6階位 炎舞魔法を行使!!
完唱と同時に、先輩のレイピアの先には巨大で、今にも綻びそうなほどパンパンに膨らんだ・・・蕾型の魔法印が発現!!
幾重にも折り重なった“とりどりの赤”で彩られた魔法の花びらは、まるでダリアの蕾の様に美しい!
そして・・・
「さぁ、おいで…」
先輩は・・・その瞳を魔力で濡らし
先程までとは別人のように優しい声をもって、
空いた手を、『そっ…』っと伸ばし・・・・・・
『…』
「…ふふふっ。一緒に遊ぼうよ…。」
『…』
「…ほらっ。恥ずかしがらないで…ね?」
その声に誘われるかのように・・・
『…』
1枚・・・
「そうよ…いい子ね…」
1枚・・・
『…』
理の秘密を解くように・・・
ゆっくりと開いた花びらの中から・・・
「「「「「おぉっ………」」」」」
美しい・・・赤いグラデーションのある翅をした特大の蝶が1頭、現れ・・・
「…ふふっ。…ようこそ。私の蝶…」
ふわっと先輩の伸ばした指先に乗ったかと思うと・・・
「…行っておいで!」
『…!!!』
先輩の言葉を受けたその蝶は・・・突然。
先程までのシャイな態度から一変。大きな翅で力いっぱい羽ばたき急上昇
とりどりの赤を振り撒きながら野外公会堂を大きく跳び越えた!
「「「「「おぉぉー…」」」」」
「ステキ…///」
「す、すげぇ…」
「お、おい…見よろよ。あの子…タチヤーナ。ちゃん…」
「か、かわいい…」
「センパイかっけぇ…」
「さっきのレベッカ先輩も勿論すごかったが…」
「火魔法って…すげーな…」
「いいなぁ…」
『す、すげー…な…オイ…』
「やぁ、キレイだねぇ…」
「ふ、ふんっ。やればできるじゃないっ…タチヤーナ…」
「ちっ…」
「・・・さすが、ターニャ先輩」
「タァニャァァ~~~!!」
「お、おい!…な、泣くなよ。エルミール…」
「だってターニャがぁ!あのターニャが!あ…あんなに頑張ってるのぉぉ…!」
「そ、そうだ…な…」
「………すごいね。あれが…ターニャ先輩の…」
「…///」
「綺麗だ…ね…」
「うん…ホントに凄い…」
「…」
観客も・・・もちろん私達も。
宵の空に瞬く星の合間を気まぐれに舞う赤い蝶に、瞳を奪われたのだった・・・
『…!』
特大の蝶が観客の目の前で大きく『ぱぁっ…』っと翅を拡げれば
「「「「「おぉぉ!」」」」」
深紅にピンク、橙に紫・・・とりどりの、鱗粉のような赤い火の粉をふり撒き、その美しさに溜息にも似た歓声が聞こえ・・・
・・・まさにその時。
「…ふわぁっ。」
舞台の真上で美しさを誇っていたその蝶は、ふいに聞こえた欠伸によって・・・
『…‥。』
「「「「「「えっ!?」」」」」
強制帰還・・・
「あ~あっ…疲れちゃったよぉ。…今日はもうっ、おーしまいっ!」
「「「「「…」」」」」
あまりの展開についていけず、静まり返る会場・・・
そんな中・・・
「タァア゛ニャァァあ゛!!…締まらないでしょ!!」
「…ほえっ?」
どこまでも気まぐれな、ターニャ先輩でしたとさ。
林檎です。
ちょっと誤字(というか、誤植)があったので改訂しました!
・・・よろしくね!(2022/01/23 14:55)




