Chapter 027_レダ戦
『カラーンッ…カラーンッ…』
「・・・もくう?」
午後4時前。
用意していた茶葉が無くなった純喫茶は惜しまれつつも午後3時をもってラストオーダー。
お片付けもソコソコに、先輩から「もう大丈夫だから友達と遊んでおいで…」と言われた私は、火魔法研究会のみんなとグランドフィナーレまでお祭りを楽しむ事にした。
連絡用にも使われている学園の【鐘】が鳴り響いたのは、“じゃんけん”で負けたジル先輩がオゴってくれたカルメ焼きを頬張っている時だった・・・
『イイ゛エェェェェーーーーーイ!!!ノォッッテルカァァァーイイイィ!!』
「えっ!?」
「何かしら?」
「…うっさ。」
「高歌魔法だよ…ね?」
「ははは…ノリがいい人だね…」
「不快だ…」
「あの声…たしか、4年5組の…」
「…知ってるの?ジル?」
「イエェーイッ!!」
おそらく高歌魔法の力によって・・・学園全体に轟いたハイテンションな声。
ターニャ先輩はノリノリだけど、他のみんなはしかめ顔。ルクス君なんて両耳塞いじゃってるし・・・
『さぁーーーー今年もこの時間がっ!やって来たぁぁぁーーーー!!金領祭のメインイベェェェンッ!!』
「たしか…エドガール…エドワール?…そんな名前の奴だったはずだ。広報部の…」
「こ、広報部…ってことは、公式の連絡ね?」
「学園の鐘も使ってましたしね…」
普段は講義の合図に使われている学園の鐘だけど、金領祭の間はいくつかの部活が・・・事務連絡や迷子の所在など・・・連絡用として使う事が許されている。
アラン君が言った通り、この鐘が鳴ったという事は、このハイテンションな声は学園の公式連絡という事・・・
『今から呼ぶ生徒は野外公会堂裏の控室へ集合だぁ!!呼ぶぞォォ!!!5年1組 ベアトリス・クレージュ!!」
野外公会堂とは名前の通り、屋外にある集会場だ。イメージとしては・・・異世界ローマのコロッセオかなぁ。もっとも、学園の野外公会堂は円形じゃなくて、扇形なんだけどね。
『4年1組 レベッカ・リースマン!』
「あれ?これって…ひょっとして?」
「あぁ…」
「ナニナニ?エミーとジルっちは知ってんの!?」
話ぶりからして金領祭のメインイベント(?)に関係する人たちなんだろうけど・・・全員知らない名前だ。そもそもメインイベントとは何か?が分からない。
けど・・・先輩達(ターニャ先輩除く)は予想が立っているようだ。
ま。メインイベントが何であれ、お仕事も終わって後はゆるゆるお祭りを楽しめばいいだけの私には関係ない。
カルメ焼きの残りを・・・
『3年1組 タチヤーナ・セレヴィスカヤ!!…今年は出てくれるかな!?』
「わ、私っ!?」
「…やっぱりそうか。」
「先輩がんばれ。」
「えぇぇっ!?」
・・・と、思ったら。
まさかのターニャ先輩ご指名である。
チコ君とルクス君も予想してたみたい。
・・・みんな学園祭に詳しいね。
イベント多すぎて全部見切れないから・・・そもそも調べなかった私とは大違い。
・・・あっ。このカルメ焼き重層堪りが有る!?
にが~い!
『2年1組 クリスティアーヌ・ドーファン!』
「クリスティアーヌ先輩!?もしかして…」
「なによ、アラン!…今頃気づいたの?」
「次はフォニアちゃんだ…ね!」
・・・う?私!?
『1年1組 フォニア・シェバリエ・ピアニシモ!!…以上の生徒は公会堂裏に集合だぁあぁ!!待ってるぜェェ!!!』
「・・・うぅぅ!?!?」
ホントに呼ばれちゃた!?
「さぁ、ターニャ!1年も2年もサボったんだから!!今年こそは…がぁん張りなさいっ!!」
「ははは…応援してるぞ!!」
「…頑張って下さい。」
「ターニャ先輩ファイ!!フォニアなんかに負けるなぁ!!」
「え?えぇ?なになになに!?!?何のことぉ~~!?」
「頑張ってね!フォニアちゃ…ん!」
「もちろん、観客席で見てるからね!」
「誰もフォニアちゃんには敵わないと思うけどな…」
「・・・もくぅ~??」
ターニャ先輩と私は訳も分からないまま。皆に背中を押さて公会堂の裏へと向かったのだった・・・
・・・
・・
・
「…頑張ってねぇ!」
『バタンッ!!』
「・・・」
「…」
控室にほっぽり込まれた私とターニャ先輩。
部屋の中には既に…
「…」
青銀色の髪をショートにした、スラッとクールなお姉様と・・・
「…っ」
「!?!?」
こちらを・・・というかターニャ先輩をキッと睨む・・・ピンクベージュと言うか、肌色っぽい赤と言うか・・・
日の出前の空みたいな、柔らかい赤の瞳をしたお姉様と・・・
「あ~あぁ~…。来ちゃったかぁ…」
「・・・」
私が嫌いな・・・というか“私の事が”嫌いなクリスティアーヌ先輩
・・・の姿があった。
人数からして、放送で呼ばれた全員が集まっている・・・という事だろう。
「フォ、フォニアたん。ここ…空気重いよね?」
「・・・ん。・・・息苦しいね。」
夕日が刺し込む薄暗い控室の中、妙に緊迫した空気を肌で感じながら・・・私とターニャ先輩は手と手を取って震え。ここに連れてこられた訳を求めてキョドキョドしていたのだった・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「うわっ!凄い人ね!!」
「…迷子になりそう。」
ターニャ先輩とフォニアちゃんを送り出した私達。
2人の活躍を見ようと、そのまま観客席に回ったんだけ…ど…
「あうぅ…前に進めないぃ…」
「エルミール。ん…」
「あ…ありがとジル…」
あまりの人に前に進めない!
隣ではエミー先輩がジル先輩に手を引かれている…
「…///」
その様子を見てしまった私が、
いいなぁ、素敵だなぁ…なんて思っていると…
「こ、コレットちゃん…」
「…コレットちゃんも手を」
斜め前からスッっと差し出されたルクス君の…手…
「…ふぇ!?」
「ほら!…はぐれちゃうよ!」
ええぇぇぇ~~~///
「っと。」
「はわぁっ!?!?」
つ、つつつ…掴まれちゃった!?
「あ…」
「こら、アラン!コレットと繋げなかったからって…そんな顔するな!」
「ボ、ボクは別に…」
「え…ぇ///」
あ、アラン君も繋いでくれるつもりだったの!?きゅ、急にみんな…はわわわ!!
「ほらっ!残念がってないで…エスコートなさい!あーたーしーをっ!!」
「ナターシャちゃんにはチコ君が…」
「あたしより背が低いチコじゃ役に立たないじゃない!!」
「…むしろボクがはぐれる。」
「ほ~らアラン!あんた背が高いんだから…あたしとチコ、両方持ちなさい!!両手に花よ!」
「わわっ!」
ナターシャちゃんにそう言われたアラン君は右手にチコ君の手を持たされ、左腕をナターシャちゃんに捕まれていた…
「空いてる座席探して、さっさと座りましょ!」
「そ、そうだね…ナターシャちゃん…チコ君…」
「…おうともよ。」
「…行くぞエルミール」
「うん…」
「コレットちゃん。僕らも行こうか?」
「ひゃ!?ひゃいっ!!」
………
……
…
「あ、ありがと…ルクスく…ん…」
「ははは…どういたしまして。」
少し歩いたところで座席を見つけた私達は腰を下ろすことにした
「ふ、ふ~ぅ…」
熱くなったほっぺに両手を重ねて深呼吸…
「すー…はぁ~………」
……よ、よし!
今は…フォニアちゃんの事を!
「レダは…まあ、フォニアちゃんよねぇ…?」
「…魔女だもんな。」
「フォニアの事だから絶っ対っ!勝とうとするでしょうね!?」
「そうだね。フォニアちゃん負けず嫌いだから…」
「むしろ、手加減しないと…」
「…公会堂が消える可能性すらある。」
間もなく始まるのは金領祭で一番盛り上がる!…と言われている
【レダ戦】
というイベントだ。
【レダ】というのは王都エディステラに流れ込んでいる2本の大河の1本で、王国南部を緩やかに流れる川の名前。
私やフォニアちゃん。そしてアラン君の故郷もレダ川の流域だ…よ!
そ、それはともかく…
このレダ川は比較的流れの速いもう1本の大河【ラウナディア川】と対比して
母なるレダ
父なるラウナディア
なんて呼ばれる事もある。
【レダ戦】はレダ川にちなみ、学園で最も強くて美しい女の子を決める戦いだ。
各学年の最上階位の女の子に集まってもらって、野外公会堂で戦い、その年のレダを決めるイベント…それが【レダ戦】。
因みに、金領祭初日には学園で最も強くてカッコいい男の子を決める【ラウナディア戦】があったはずなんだけど…
「…ルクスく…ん。」
「うん?…何だい?」
「そういえば、一昨日のラウナディア戦はどうだった…の?…み、見に行けなくてごめんね!その時は部活の演奏会…で…」
ルクス君にそう尋ねてみると…
「…さあ?」
「…へ?」
あ、あれ?
「…ボク参加してないから知らないけど?」
「えぇぇっ!?」
ルクス君は1年生のセコンド…男の子の1番だから、参加したと思ってたのに…不参加!?
ま、まあ…レダ戦もラウナディア戦も、強制は出来ないらしい。
ターニャ先輩がレダ戦を知らなかったのも、3年生になって初めて金領祭に参加したのが理由だって。エミー先輩が言ってた…
「…ふふふっ。聞かれてるわよぉ~!ジル!!」
あ!そう言えばジル先輩は4年生のプリモだから!
「…今年は…いや。今年も…。ラウナディアは5年1組セコンドのガリンさんだ。あんな岩みたいなドワーフの大男…しかも、開始早々築城魔法唱えて籠城するヤツを。どうやって槍で倒せってんだよ…」
「「「「「…」」」」」
「…っつか。ホントにアイツ一つ上の年か?すっげー髭面だぜ!?50歳って言われた方がしっくり来るんだが…」
「「「「「…」」」」」
ジル先輩はそう言って項垂れていた。
その背中は悔しそうだった…
「あははは!4年連続で負けたからって言い訳するなぁ、ジル!!来年があるって!!」
「…」
お、お疲れ様で…す…




