Chapter 026_金領祭
「・・・いらっしゃいませ。」
カレント2,182年 恵土の月29日。綺麗な秋晴れっ
「フォニア―!来たわよ!!」
「フォニアちゃん!かわいい…ねっ!!」
「かわいーっ。フォニアたんかわいー!!ハグゥー!!」
「ふふふっ!これは…メイドさん1名。お持ち帰り決定ねっ!!」
「・・・わ!・・・あ、ありがと///」
金領祭最終日の今日は、朝から紅茶研究会の出し物【純喫茶】で給仕をしている。
異世界風給仕服を提案してみたところサークルメンバー・・・それと、ローズさんとカトリーヌちゃんの2人からは、常軌を逸する・・・支持を受けたので、グランドマイスターにお願いして男女ともにひと揃えしてもらったところ・・・
クリティカルヒット!
初日の朝から今日まで、ずっと超満員である。3時間待ちである。ファストパスは無い。
「…普通の給仕服じゃないよね?」
「なんて言うか…フリフリしてる?いや。かわいいけどね!とっても…」
「ほんと可愛いね!これなら、人気にもなるよ!!」
「初日から凄い人だもんな…」
「・・・は、恥ずかしいよ///」
喫茶店での役割は交代制で、厨房でお茶を淹れたりお菓子を用意することもあるんだけど・・・今はお店の入り口で順番待ちのお客様の“交通整理”をしていた所だ。
お盆は使わないけど、オプションで持ってる。飲食業なので指輪は我慢して、ポッケに1つだけ。
もっとも、ヒュドラが服の下にコッソリくっ付いているけどね・・・
「フォニアちゃ~ん!そろそろ…って。お客様かい?」
「・・・ん。」
友人とお喋りしていた私に声をかけてきたのは、女の子の着替えよりティーカップにお茶が注がれるシーンの方が“なまめかしい”と力説した、喫茶ガチ勢のナゼール先輩だ。
「いち、にい、さん…は、8名!?」
喫茶店に遊びに来てくれた友達は・・・
ナターシャちゃん
コレットちゃん
ターニャ先輩
エミー先輩
チコ君
ルクス君
アラン君
ジル先輩(エミー先輩の彼!)
・・・の8人。大所帯だ。
「やー…ごめんね。8人はちょっと…茶葉の残りも少ないし。む、難しいかなぁ…」
先輩達が張り切って例年以上に茶葉を入荷してくれたけど・・・予想を上回る人出で、入場制限をしないといけない程。
大人数だと座席も開かないから、お断りしているんだけど・・・
「・・・せんぱい、センパイ。みんなは私が予約しているから入れてあげて。」
「予約?」
「・・・これ。」
紅茶研究会の純喫茶は、会員なら自分の名義で家族やお友達の予約を入れられるのだ。
先輩に予約表を見せると・・・
「フォニアちゃんの名前で2時から、8名…」
「・・・ね。」
「…ホントだ。疑ってごめんよ。」
「・・・んーん。」
すぐに分かってくれたようだ。
すると、そんな私達の会話を見ていたこの人が・・・
「分かればいいのだよ!分かれば!!…さぁ、分かったならサッサと案内したまえ、チミィ!」
「…ちょ、ちょっとターニャ!?」
相変わらずのターニャ先輩である。
ナゼール先輩は4年生で、ターニャ先輩より年上なんだけど・・・
「えっと…」
けれど、そこは流石の紅茶研究会副会長殿。
「ここはボクが変わるから、フォニアちゃんが案内してあげて。」
「・・・う?いいの?」
「もちろん!実はそろそろ交代の時間なんだよ。それに…案内してあげたいだろ?」
「・・・ありがと!さすがセンパイ!」
「ははは!行っておいで!」
「・・・ん!」
先輩のゴーが出たので、皆を中に案内しようと振り返り・・・
「・・・それでは皆様。ご案内させていただきます。」
と。カーテシーをきめて・・・
「うむうむ!良きに計らえー!!」
「ははは…よろしくね。フォニアちゃん。」
「うふふっ。お願いね。かわいいメイドちゃん!」
「はは…確かに、これなら人気が出るな。」
「さぁフォニア!馬車馬のように働きなさい!!」
「…ナターシャちゃん。何でそんな態度を?」
「ふふふっ、お願いします…ね!」
「魔女様に給仕されるって…す、凄い経験かも!?」
・・・などとお喋りする火魔法研究会ご一行様を招いた・・・
・・・
・・
・
「はぁ~…着いたぁ!どっこらせー…」
「ターニャ…オバっ…」
席まで案内したので、皆に見えるようにメニュー表を開こうとすると・・・
「ねぇ、可愛いメイドさ…ん。おすすめは何か…な?」
おすすめか・・・
「・・・一番人気は【メリーザ】のセカンド。ファーストが有名な茶園だけど、今年は気温が低くてハイシーズンがセカンドにずれ込んだの。その分、いつもより味も香りもシッカリ出てて・・・芯があって美味しいよ!ストレートでもいいけど、私のお勧めは温めたミルクとハーフかなぁ。・・・茶器は素朴な【ラ・クレミカ】。お茶請けは王道のスコーン・・・2コのうち1コは、私が選んだチョコチップスコーンだよっ。」
紅茶研究会の純喫茶はかなりガチで・・・茶葉の買い付けから食器の手配、お茶請けの選定まで全員で徹底的に選りすぐる。内装は業者を入れる。
私もお茶と茶器の提案をしたんだけど、そっちは不採用・・・残念。
でも代わりに、チョコチップスコーンを採用してもらったのだ!
「美味しそうだ…ね!私はそれで!!」
「はいはーい!ターニャちゃんもソレにするよぉ!!ミルクたっぷりぃ!!」
「ボクもそれを貰おうかな!…あ、ミルクは2杯目からにしたいんだけど…別で貰える?」
「・・・ん!頃合いを見て、温めて持って来るね。」
コレットちゃん、ターニャ先輩。それにルクス君が選んでくれた!
「フォニアちゃん!私は…本格的なのがいいわっ!ここはいつも本気だし!!」
「・・・んふふっ。さすがエミー先輩。お目が高い。今年の一押しは【シーグマ】のファースト。シルバーチップ入りの特級品!茶器は【セントジェルマ】。お茶請けはシンプルにリーフパイ。・・・当研究会の本命です!」
シーグマはアンキに並ぶ超々高級銘柄だ。
専売店にしか卸さないこのお茶を学園祭に引っ張ってきたナゼール先輩は只者じゃない。本人が告白した通り、あの人なら・・・毎日10回は口付けを交わす、お気に入りのティーカップと結婚できるかもしれない・・・
「うわぁっ…ホントに本気だ!私それっ!!」
「それじゃ。オレもそれで…シーグマって何だ?」
「シ、シーグマ!?ジル先輩。シーグマは幻と言っても過言じゃないデュクサヌの名園ですよ!…ボ、ボクもソレをもらうよフォニアちゃん。これを逃すともう、2度と飲めないかもしれない…」
「・・・ん!ちょっとお値段しちゃうけど・・・大丈夫?」
「もっちろぉん!もし足りなくても…体で払うわ!!ジルが!」
「は?」
「せ、先輩!ゴチになります!!」
「をぃ…」
ガチなチョイスはエミー先輩、ジル先輩、アラン君・・・っと
「ねぇ、フォニア!あたしは、こう…『ググゥッ!』と飲めるのがいいわ!歩き回って喉乾いちゃったのよ!」
「・・・いいのがあるよ!【テューニー】のエスプレッソに蜂蜜レモンと炭酸を入れたレモンティーソーダ。茶器は【ヴァトゥラ】のタンブラー。お茶受けは変わり種で・・・野菜チップス。」
テューニーは庶民的な茶園なんだけど、とっても濃いお茶を淹れられるからソーダやお酒で割って使う事が出来るのだ!偶にはこういうのも美味しいでしょ!?
「レモンティーソーダ!?何それ美味しいそう!!私それー!!」
「…【ヴァトゥラ】使ってくれてるんだ。ボクもそれ…」
因みにヴァトゥラはチコ君の出身地であるエパーニャ・リアナ王国のガラスメーカーだ。
「・・・では、しばらくお待ちください・・・」
注文が出揃ったので厨房に向けて真直ぐ・・・・・・
「はいはーい!!そこの可愛いおじょお…じゃなくて!メイドちゃ~ん!!」
「・・・」
真直ぐ・・・
「あ、あれ!?ちょ、ちょっと…お嬢様!?」
「・・・」
まっすぐっ・・・
「わぁっ!?待って!振り向いて!!あなたの薔薇が泣いちゃいますよ!!」
「・・・いい加減にしてローズさん。」
厨房に行かせてよっ!!
「えへへへぇ~…おじょぉしゃまぁ~…メ・イ・ドちゃん!」
「・・・・・・用が無いなr」
「あります!ありますとも!!ご用命ですよ!?お給仕ちゃん!」
ローズさんは、もう・・・3日間ずっとこんな感じで入り浸っている。
何かにつけて私に絡んでくるし・・・いい迷惑である。
だいたい、プロのメイドが素人の真似事を見て何が楽しいというのか?バカにしてるのか?
「えっとぉ…えっと…じゃあ、ディキャンで。」
「・・・ディキャンは無いってば。」
メニューを見て言えー!!
「ぶーっ…お嬢様のお気に入りなのにぃ…。品ぞろえが悪いですねぇ…」
何て事を!
「・・・そんなことない。どれも素晴らしい一品。」
「えぇ~…じゃあ、お嬢様が選んでください…」
普通ならこんな客は初日に出禁である。
それでもこうして座っていられるのは、ひとえに同好会のみんなが気を使ってくれているからで・・・
「・・・じゃあ選んであげるから。飲んだら帰ってね。」
「はーい!」
はぁ・・・
ローズさんといい、
従業員総出で現れたうえ、経営指南までしようとしたカトリーヌちゃんといい、
お店の衛生管理に口を挟むサリエルを先頭にした、ベルナデット様含む治癒術師様ご一行といい・・・
私の周りには“本気”の大人が多過ぎる。
金領祭は十代の子供がやっている文化祭だよ?
林檎です。
フォニアたんのメイド服・・・み、見たい!
キュンです XD
さてさて。それはともかく・・・
今の投稿頻度では執筆活動の継続が苦しいので
投稿頻度を減らさせていただきます・・・
詳しくは活動報告をご覧ください。
・・・よろしくね。




