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Chapter 023_働け!天使様

「…あっ!おはようございます!マイロード!!」

「・・・おはよ。」


「サリエル様!ご機嫌麗しゅうございますか?」

「て、天使っ!?」

「ほ、本当に…」


「な、なんという…」

「こんな事が…」

「くそっ…」


カレント2,182年 星火の月8日。お天気は晴れ。


地上の星を見つけた翌朝。

私はその惨状を確認すべく、ローズさんと共に(カトリーヌちゃんはお仕事!歩く練習も始めるって!)治癒院へ向かい(たとえ跡形もなく吹き飛んでいたとしても・・・)大聖堂を見たいと言うベルナデット様ほか数名の治癒術師さん及びヒナ教会のお偉いさんを連れてカタコンベ下層へと向かった。


ヒナ教会非公認の術師である私が滝洸大聖堂に立入り、(あまつさ)え【書の主権者(特定の属性魔法を全て宿した者をそう呼ぶらしい)】に成り上がった事は、治癒術師を束ね管理していると自負するヒナ教会にとって非常に遺憾な事だろう。

これまでも嫌がらせ(治癒院に入れさせてもらえない。公式にベルナデット様と面談させてもらえない。など)を受けて来たのだし、サリエルを宿して滝洸大聖堂の裏事情を知った今、ヒナ教会関係者なんて無視したい所だけど・・・


成果を上げたこと。そして、これがヒナ教会にとっても利になる事をアピールしないと私に協力してくれたベルナデット様の立場が悪くなってしまう。

そんな大人の事情があって、こうしてここまでやってきた・・・



「・・・サリエル。自己紹介して。」

「…理の堕天使サリエル。ロードの下僕。」


だから・・・

ねぇ、サリエル。

お出迎えしてくれたのは褒めるから。もうちょっと愛想よくしようよ・・・


サリエルは“ただ”の召喚獣では無く治癒魔法全てを司る最高位の精霊・・・本人ヒトじゃないけど・・・曰く、理の守護者・・・である為、私がこれまで感じてきた事や(まだ誰にも・・・イレーヌにすら・・・言っていない事だけど)私が転生者である事も知っている。

このため、ヒナ教会関係者に並々ならぬ敵意を持っており、めちゃくちゃ嫌な顔をしている。

そして消す事も出来るのに、あえて例の鎌を(たずさ)えている。



「わざわざお出迎えいただき、本当にありがとうございますサリエル様!光栄に存じます…」


「ぎ、銀の翼…あ、ありがたき幸せっ!!」


「あぁ…天使様ぁっ!!お会いしとう御座いましたぁ!!」


ベルナデット様はじめ、治癒術師の代表としてやって来た3人の【サリエルの使い】さんたちは銀の瞳に涙を溜めて感無量のご様子。

もしサリエルが、まだ死神の姿だったとしたら・・・その様子は悪魔信仰のソレだろう。

劇的なアフターでよかったよ・・・



「…」


さすがのサリエルも3人の事を無碍にする気は無いらしく、言葉をかけないまでも優しげに見守っている。


一方・・・



「…くっ。」

「ま、まさかそんな…。で、伝承にあるあの道を…と、踏破したというのか!?」

「魔女め…やってくれたな…」


言っちゃいけない事を口走る教会関係者には・・・



『…ッ』


・・・って!?



「メッ!サリエル!」

「「「!??」」」


こ、この子ったら!!



「…で、でもぉ!」

「・・・唱えてないでしょ!」

「むぅ〜…」


「ま、魔女殿…な、何ですかな?」

「・・・何でもありません。」


あ、危ない危ないっ・・・

幸い、サリエルが鎌を振りかぶろうとした瞬間に声をかけたから、気付かれずに済んだけど・・・



「むぅっ…役に立たない天使ですっ」


ローズさんも(あお)らないの!!






「・・・と、とにかく!聖堂までご案内します。・・・サリエル。」

「はぁ〜い…」


このままでは本題に進む前に人斬りが起きてしまいそう・・・

さっさと聖堂に向かう事にした。


・・・う?

聖堂はノヴァされて原子の海に沈んだんじゃないかって?


う、う〜ん・・・

実は私も、人生で2度目の文化財破壊(しかも、王都の地下というクリティカルな座標)に関わった罪で糾弾(きゅうだん)されるんじゃないかって思って

ちょっと身構えていたんだけど・・・



「…こちらです。ロード」


サリエル曰く、聖堂は無事らしい。

しかも・・・



「ま、魔女様!?この扉は…!?」


第1の扉のすぐそばに

ステンドグラスが美しい真新しい扉が付いており・・・



「・・・聖堂へ直通路を通しました。もう、あのダンジョンを通過する必要はありません。」

「「「…」」」


一体何をどうやったのか知らないけど

「・・・教会は素晴らしい施設なんだから、もし無事なら、あの趣味の悪いダンジョンを通らずに行ければいいのに・・・」

という魔女の無理難題を聞きつけた、どっかのお節介天使が一晩でやったらしい。



「…てへっ!」


しゃがんで少女に頭を突き出す天使・・・威厳とは何なのか?



「・・・よしよし。」

「えへへへへっ///」


これはサリエルから聞いた話だけど・・・

召喚獣(龍にしろ竜にしろ天使にしろ・・・存在としては召喚獣で、種としては“精霊”)は、一度倒され召喚されると術者の魔力を元に再構成されるから・・・術者の事を“親”のような親しい存在に感じるんだそうだ。

影響を強く受けるのも、その為とか。


そしてその感情は、逆に私にも流れ込んできている。

だから、あれほど憎かったサリエルとこうして向き合う事が出来る・・・



「・・・サリエル。案内して。」

「イエス!マイロード!ちゃんとお掃除しましたよっ!でも…ずっと下り坂なので、足元には気を付けて下さいね!?」


「・・・皆さんの事も案内してね。」


「………勝手についてくれば…」

「「「「「…」」」」」


誰に似たというのか・・・?


・・・

・・






『ザァァァァーーーーーーッ』


「………な…」

「なんて…」

「美しい………」


「これが…」

「滝洸…大聖堂…」

「………なんという…」



埃1つない坂道を下ると、やがて開けた明るい場所・・・滝洸大聖堂へと辿り着いた。

正面には変わらず滝を透かした巨大なステンドグラスが嵌められており・・・



「はわぁ…綺麗っ…」


床と壁と天井には

黒と銀を基調とした緻密で美しいアラベスクが刻まれ・・・


ここまでは良かったんだけど・・・



「ふふふっ!気に入って頂けましたかっ、ロードぉ?」

「・・・」


正面のステンドグラスにはバラ窓が・・・黒い瞳で黒い服を着た何者かが両手で光球を包み込むようにして立っており、その下に天使が跪いている絵が・・・追加されていた。


アレ・・・なに?

ここでいったい何があったというの?


フォニアわかぁんなぁい・・・






「…おい。」

「へっ?」


色んな意味でヤバイ聖堂を唖然として眺めていると・・・

意外な人物が意外な人物に声をかけていた。



「・・・サ、サリエル!?」


人斬りはメだよ!?

サリエルはかなり特殊な召喚獣で、召喚無しでも自分の意志で私の傍にワープしてくる事が出来るし、治癒魔法も・・・第7階位【上級内科治療魔法(キュア)】までを・・・自己判断(しかも、簡単な治療なら無詠唱)で行使することが出来る。


鎌の即死効果は術者である私が唱えないと付与されないけど・・・鎌自体は出し入れできる。


鋭い巨大鎌を振るわれれば、即死効果なんて無くても即死する。

それが理。



「…大丈夫ですよ、ロード。カタチだけの主教なんて…斬っても、何の意味もないですから。」

「か、かたちだ…」

「3章4項と…5項。…分かるな?」

「「「!?!?」」」


サリエルのその言葉に、教会関係者・・・主教(教会のトップ)と枢機卿(主教の顧問みたいな立場の人らしい・・・)は凍り付いた。



「そ、それは…」

「今更…そ、そんな事を…」

「わ、わしの代で…だとっ…」


「「「「「…?」」」」」


ベルナデット様はじめ、サリエルの使いさんたちは分かってないみたいだけど・・・


「…綴られた事。無下にする気か?」

「「「…」」」


これは・・・あれだ。

血塗られた滝洸大聖堂の歴史がらみの話だ。


なぜ“聖堂とは無関係”のダンジョンが築かれたのか・・・とか。

あの仕来たりの本当の狙い・・・とか。

彼等はどこへ追いやられたのか・・・とか。


私はサリエルを通して、ある程度知っているけど・・・

でも。



「・・・サリエル。」

「イエス。マイロード。」

「・・・合理的に・・・ね。」

「イエス!マイロード。」


リブラリアは綴られた世界だ。

でも、異世界と同じく綴られることなく葬られた真実だってある。

何千年経とうとも、決して許されない罪も・・・ある。



「…よく聞け。」

「っ!?」


けど・・・



「…術師の開放。聖堂の公開。以上が条件だ。」

「えっ…」

「それは…」

「そ、それだけで…」

「なんだ?綴りたいのか?それならそれで…」

「「「滅相もありません!!」」」


けど、忘れる事・・・それも生きるためには必要な事だと思う。


潔さだけが徳じゃない。

真実だけが真理じゃない。

誰も覚えていない大昔の事を今更騒いでも・・・仕方ない。


・・・それが理。



「…術師たちよ。」

「「「は、はいっ!?」」」

「…今日からは此方(ここ)がお前たちの家だ。もう…余計な選別や搾取や接待に付き合う必要はない。」


「っ…」

「そ、それは…」

「えぇと…」


「はぁ…。ロードは私に指導者になれと仰られた。これからは覚書(おぼえがき)ではなく、ここで術を磨けばいい。」

「つまりっ…」

「て、天使様自ら…教えて下さると!?」

「治癒術の…すべてを!?」


治癒術師は教会の食い物にされている。

たとえ自分の故郷に帰りたかったとしても、派遣先以外で働く事は許されない。一生。

治癒費をオマケしたり、ツケてあげることも許されない。(ルボワの巫女長はやっていたけど・・・)

お給料はいいけど、教会の取り分の方が圧倒的に多い。

教会の都合で有力者の領地に派遣されたり、妾まがいの専属にさせられることまであるらしい。


医療に市場原理を持ち込む事が、果たして正しいかどうか・・・?

それは議論の分かれるところだろう。

けど、少なくともこれで“議論を生む”ことは出来たはず。


【合理的】とはこういうことだよ。



「すべては、ロードの理のままに…」

林檎です。


深夜ですが・・・表現の間違え見っけちゃったんで修正!(2022/05/28 02:00)

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