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Chapter 021_天使と魔女

「・・・ひゃっ!?」


息を整え、薄暗い聖堂を見回していると、不意にヒュドラが『ヌルッ…』と動いたものだから・・・思わず声を上げて驚いてしまった!



『ルルル…』

「も、もうっ///・・・なに?」


襟口からひょいと顔を出したヒュドラに

そう訊ねると・・・



『シュルゥ…』

「・・・う?」


気を付け・・・ろ?



















『ザァァァァーーーーーヒュッ…――――ッ………』

「!?」


滝の音に紛れて聞こえたのは・・・

風切り音!?


『ザァァァァーーーーー…キンッ…』

「ャッ!?」

『ザァァァァーーーーー………ドサッ………』

『ザァァァァーーーーーーッァーーーーーーッァーーーーーーッァーーーーーーッ』






「なんだとっ!?」


っ・・・


「っお、堕ちろ!」『ドグォォッン!』

「ぐはっ!?」


よっ・・・



「・・・っ・・・お、堕ちろ!」

『ドゴォッン!』

「がっ!」


「堕ちろ!!」

『ドグォァッンッ!!』

「ぐはっ…」


よくも・・・よくもっ!!



「・・・ふー・・・『岩よ 誰が為に(そび)える』


凶刃から私を守ってくれたのは・・・ヒュドラだった・・・



『天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ』


“術者には無害”という特性を利用してヒュドラは、私と刃の間に素早く回り込み刃の側は固体に、私の側は気体になって膨張。刃が固体水銀に触れて即死効果が発動する寸前の、僅かな時間を利用して、気体水銀のガスで私を押し倒し、逃してくれたのだった・・・



『貫け』


ヒュドラは召喚獣だ。

どんな攻撃を受けたとしても・・・たとえ、それに即死効果があったとしても・・・それは一時的な逆召喚で。再行使して魔力を食べさせれば必ず再召喚出来る。


これはリブラリアの理だ。

絶対に覆らない。


でも・・・




「オベリスク!!!」


許せない!!



『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』

「がっ…!!!」


私のっ・・・私のモノを!!



「・・・『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


よくもっ!!



「『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


よくも、よくも、よくもっっ!!



「『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


よくも奪ったな!!!



「『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』





「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」


土属性第5階位 尖塔魔法(オベリスク)は・・・

その名の通り地面から岩の尖塔(せんとう)を突き上げて対象を突き貫く強力な魔法だ。


人間相手なら一撃で即死する。



『カタッ…』

「!・・・はぁ〜・・・んっ!!すーっ『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


尖塔魔法にて天井まで突き上げ、同じ場所を今度は天井から地面に向けて突き降ろし、再び天井へ・・・

というピストンを繰り返す



『タッ…ゴッ……』

「っ・・・すーっ!『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


なにが・・・なにが天使だ!!

さっさと死ね!!死ね死ね死ね!!!



『………ッ』


っそ!

まだ動くか!!

い、いい加減に・・・



「すぅーっ!!『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスクゥ!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


「死ねぇぇぇーーー!!!」


・・・

・・
















「・・・はぁ、はぁ。はぁ・・・」


何時間・・・続けただろうか・・・?

細い月も西の空に沈み、滝とステンドグラスを越えて微かな街の灯りが届くだけの暗い聖堂の中

私は・・・



『……………、』


「くっ・・・『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


変わらず。サリエルを貫き続けていた。


なのに・・・

何十回繰り返しても。もはや骨の形も残っていない・・・カルシウムの粉になっている筈なのに・・・



『…………………ッ』


・・・それでも。

止まらなかった・・・



「『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


でも、諦めるつもりも無い!



「はぁ、はぁ、はぁ・・・んっ。・・・『岩よ 誰が為に聳える 天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ 貫け』オベリスク!!」

『ドガガガァァァァーーーンッッッ!!!』


絶対に・・・絶対に倒してみせる!!

これはもう・・・意地だ。

治癒魔法の事なんてどうでもいい!!真理なんてクソくらえだ!!!

あの理不尽なカルシウムを必ず消し去って・・・



「・・・」


カルシウムを・・・消し・・・
















「・・・・・・そうか。」


右手の人差し指に嵌めている、2つの・・・


黒い指輪と

青銀色の指輪を


見つめ・・・



「・・・っ」


ギュッと握る!!


そうか・・・そうだ!その手がある!!

今の私なら・・・やれる!!



「・・・ふふっ・・・んふふふっ・・・ふふふふふっ!!」


覚悟しろ



「・・・すー」


【煉獄】を継いだ魔女の力・・・



「・・・はぁ〜・・・」


見せてやる



「・・・ん!」


大きく深呼吸をした私はカルシウムに向けて右腕を伸ばし、指パッチンの姿勢で構える!

そして唱える!!



「・・・『リブラリアの理第1原理』


理のままに!!



『綴られし定理を今ここに


煉獄よ


万物に死を


万事に終焉を


万感に忘却を


炎と

炎と

炎の檻で


永久をも熔かす絶縁の劫火』


・・・ふー・・・」


いくぞっ



「すーっ!・・・()()プロージョン!!!」



・・・

・・
















……

………



『ズズゥンッ!!』

「「「!!!!」」」


午後9:04。



「な、なに!?」

「フォ、フォニア様は!?」

「お嬢様っ、お嬢様ぁあ!!」


突然の地鳴りに揺り動かされた私は驚き、そして彼女達は自分より先に彼女の身を案じた。

ブレ無いというか、何というか…


いや。それよりもっ



「い、今のは!?」


エディアラ王国は広大な平原の上に築かれた国だ。

周辺国のように火山も無ければ地震も無い。少なくとも、ここ2,000年の間は…

だから地鳴りがするなんて普通の事じゃない!!


まして今は彼女が…魔女様がこの下に…


一体何が!?






すると



「…?」


音も無く



「えっ!?」

「へっ?」

「あ…」


目の前に…



「・・・くー・・・すー・・・」


小さな黒い魔女を抱いた…



「…」


銀の天使が立ち尽くしていた…






「あ、貴女は…貴女様はっ!?ま、まさかっ!?」


艶やかなブロンドの髪

血色のいい肌に、血の通った唇

中性的な顔立ち

それらを際立たせる黒い正装と、

頭の上に浮かぶ、複雑で多重の黒と銀が絡まるリング…


そして、何より。


薄暗い洞窟でも輝く



銀の翼と…瞳………



「天使っ…サリエル……さまぁ…」






間違い…間違いない……っ



「っ…やっとっ…やっと逢えたっ……っっ…」


何年。何十年。何百年。何千年…この日を待ちわびた事だろう………



「魔女様っ…ほ、本当にっ…本当にありがとうっ…ありがとうっ。ありがとうっ………っっ…ぁっ…」


天使との邂逅(かいこう)…それは数千年前から続く治癒術師の…ひいては人類の夢だった



「…っっ…これで…これでやっと…」


この日をどれだけ夢見たか知れない…

そして、何百何千人という治癒術師が諦めたか知れない。


目の前にあるとわかっていたのに、決して触れることが出来なかったそれを。魔女様が…



「お嬢様!?」

「フォニアさまっ!!」


憧れの天使との逢瀬にむせび泣いていた私の隣では、彼女達がその腕に抱かれ穏やかな寝息をたてる魔女様を心配そうに見つめ、同時に剥き出しの敵意を天使へと向けていた…



「返せ!!私のお嬢様を返せ!!」


ローズちゃんに関しては…敵意というより、もはや殺意を向けていた。

そのサーベルを銀の瞳に突き付けていた



「フォニア様っ!!フォニアさまぁぁぁ!!」


カトリーヌちゃんは動かない足に…それでもいっぱいの力を込めて、彼女だけを瞳に入れて、一心に腕を伸ばしていた。



「…」


その様子を、無言で眺めていた天使は…ふと。



「…クリストフとノエル…とかいう者はいるか?」

「「「…?」」」


クリストフ?ノエル?

…誰?



「…ふ、2人とも…お屋敷にいますが?」

「それが何か!?」


お屋敷??

…彼女のお屋敷の事…よね?


私と違って2人はある程度、事情を掴んでいるようだ。

この状況で天使が言うからには天使か…あるいは魔女様にとって重要な人物に違いない。

すると天使は静かに…唱えた。






「…マイロードは食事を所望だ。…連れて来い。」


………は?



「・・・くー」


………へ?

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