Chapter 017_ダンジョン【カタコンベ】-第2層- ②
『…!!』
「・・・」
ゾンビの次はスケルトン。
リブラリアのカタコンベは基本に忠実なようだ。
最初のゾンビもそうなんだけど・・・スケルトンは、実はリブラリアにはよくいる魔物・・・というか精霊・・・の1種だ。
ダンジョンの奥地や人里離れた秘境で人や、魔力が多い魔物が死んじゃうと・・・通常は野生動物や魔物に食べられちゃうんだけど・・・場所や状況によって食べられること無く、その場で朽ちてしまう事がある。
ここまでは自然の摂理だからいいんだけど・・・どういう訳かその時、魔力がその遺体に残ったままになるんだそうだ。するとどうなるかというと・・・
・・・精霊が宿る。
『…』
スケルトンは細身の剣を手にしたまま、『スッ…』っと、通路の真ん中に立っていた。
その足元には・・・ボロボロに朽ちた巫女服(?)の残骸が・・・
周囲で飛び交う炎舞蝶の事は気にも留めないようで、ただ、私には背を向けて通路の先に頭蓋を向けていた。
「・・・」
そりゃあ・・・過去にも第2の扉を開けた人が居たのかもしれない。
ベルナデット様から預かったこのダンジョンの鍵は、持ち主がダンジョン内に持ち込んでも数日か数カ月もするといつの間にか最初の扉の前に置かれているのだそうだ。
しかも、その状態になるとオートロック宜しく扉の鍵が再びかけられている・・・という心折設計。
つまり、仮に生き残っても時間をかけ過ぎると閉じ込められるという事。
治癒術師は無力な人が多いとは言ったけど全員が全員、そうとは限らない。
徒党を組んで攻略を目指した人だって居たはずだ。
この身に代えても救いたい命があるのなら・・・救う手立てがあるというのなら・・・
閉じ込められると分かっていても、きっと先を目指す。それが治癒術師という者だ。
「・・・蝶さん。お願い。」
スケルトンは決して弱い魔物じゃない。冒険者ギルドによると、その危険度は中級。
魔力量が多い人や魔物から生み出される存在だから武術や魔術に優れ、人のスケルトンは声帯が無いのに魔法を唱える。
けど・・・所詮はタンパク質で結合された、カルシウムだ。
『…!』
『ボフゥンッ!!』
3,000℃の熱を秘めた空色の炎舞蝶の敵じゃない。
骨の隙間を縫って胸腔に入り込んだ炎舞蝶が火加減を強くすると、スケルトンはボロボロと崩れ・・・
『カシャァン!』という剣の落下音と
『カサカサッ…』という灰の軽い落下音を立て、
『ササッ…ザザッ…』と小さな燃焼音を響かせ・・・
『…』
白い灰の山になったのだった・・・
・・・
・・
・
「・・・お願い。」
『…!!』
『ボフヮゥンッ!!』
その後も時折スケルトンは現れ、中にはこちらに気付くと襲ってくるものもいた。
異世界ゲームと同じ様に、ただ、切っただけでは復活してしまうスケルトンだけど、完全燃焼させられればひとたまりもない。
炎舞蝶の活躍のおかげで、ここまで私自身が手を下すことは無かった・・・
「・・・この子も先輩・・・どうか、安らかに。」
スケルトン・・・と一口に言っても、どうやらこのダンジョンには2種類のスケルトンがいるらしい。
1つ目は最初に現れたのと同じ“元巫女”と思しきスケルトン。
もう1つは、もともとこのダンジョンにいたのか・・・完全武装したモンスターとしてのスケルトン。
前者は武器を持っていることもあるけど、無手の事が多い。そして、蝶や私が視界(本当に見えているのかは不明。とりあえず、頭蓋骨の正面方向)に入っても反応を示さない。
一方後者は、積極的に攻めてくる。数としては後者の方が圧倒的に多かった。
「・・・」
モンスターとしてのスケルトン・・・とはいえ、それだって元を辿れば人間だ。
扉の前のゾンビも同じ。
確認は出来なかったけど・・・おそらくあの場所には、少なくない“巫女ゾンビ”がいたのだろう。
何百何千年もの間、朽ちる事も休む事も許されず、希望を胸に訪れた同胞を襲わなければならない彼女等は何を思うだろう?
きっと・・・
『…』
「・・・蝶さん・・・慰めてくれるのね。ありがとう・・・」
『『『『『!…!!…』』』』』
「・・・みんなの無念は・・・晴らすよ。」
・・・
・・
・
歩く事、さらに2時間
「・・・着い・・・・・・」
先行させている鬼火を明るくしてみると迷路の先は広い空間になっていて、その先には青銅色の大きな扉が待ち構えていた。
第3の扉だ・・・
『…!!』『!…』
「・・・ん。」
そして蝶たちは私の周りを忙しなく飛び交い、全力で警戒するように訴えてきた。
『『『『『『…』』』』』』
蝶たちは・・・あの。扉の前に整列した、甲冑を着たスケルトンを警戒している。
数は6体
体は大きく、身長2m以上はある
全員が武器を構えている。
左から、弓矢。メイスと盾。グレートソード。剣と盾。ショーテル2丁。ランスと盾。
全員甲から覗く瞳の位置に光を宿している。
左から、緑。栗。青。赤。琥珀。金。
「・・・すー・・・」
まだ距離があるせいか、私と蝶たちの姿を捉えても動くことはなかった。
けど、このまま進めば間違いなく・・・
「・・・はぁ〜」
やるしかない!
「・・・ん!」
唱えようとしたその瞬間
『バシュ!!』
ショーテルを手にしたスケルトンが猛スピードで突っ込んできた!
更に、弓矢のスケルトンも矢を放ち、他のスケルトンも駆け出した!
は、速い!!
『…!!』
『!』
けど、蝶たちの動きはそれ以上に早かった!
『『『ドドドゴォォォッンン!!』』』
2頭がショーテルを持ったスケルトンに特攻して大爆発を起こし、もう1頭が身を呈して飛来してきた矢に突っ込んだ。
「っ」
爆風に顔を覆いつつ、
私を守ってくれた蝶たちに、心の中で感謝を伝え・・・
「『茨の願い 花の森を這う』ニードルニードルニードルニードル!!」
迫る4体のスケルトンに指パッチンして、棘魔法を行使!
この棘魔法では、体が隙間だらけのスケルトンを倒す事は出来ない・・・けど!!
『ガタッ…カカカカッ…』
先端が無数に枝分かれした棘を生み出すことで、スケルトンの隙間だらけの身体を縫い留める!!
「お願いッ!!」
『『『『『!!!』』』』』
足止めされたスケルトンたちに蝶が殺到し・・・
『ドドドドドドドドドドドドゴオオオォォォゥンンン!!!』
ダンジョンを震わす程の猛烈な爆発を引き起こす!!
「きゃうっ・・・」
身構えていた・・・とはいえ、あまりの光と熱と衝撃に顔を逸らしてしまう。
『ヒュ!』
でも、物怖じしている暇もない!
弓を手にしたスケルトンが、炎の上がる爆心地を越えて矢を放ってきた!
けどっ!
「ニードル!!」
すかさず指を鳴らして天井から下に向けてカーボンの棘を生み出し、矢を受け留める!
そして・・・
『ドドドドドグォォォー――ンン!!』
炎の隙間から微かに見えたその弓兵スケルトンに空色をした炎の嵐が吹き荒れた!!
「・・・・・・ふぅ。」
これで終わり・・・
そう思って気持ちを緩めた私は、ため息を一つ
その瞬間だった。
『ヒュンッ!』
耳に届いた風切り音
「!?」
瞳に映ったのは、炎を切り裂く・・・ショーテル!?
「っ!!」
棘魔法は切ってしまった。蝶達は炎のせいでどこにいるのか分からない
・・・ダメ。間に合わない!!
咄嗟に左手を突き出した私は・・・
「ヒュドラっ!!」
唱えた!!
『ゴポンッ…』
次に聞こえたのは・・・重い水音。
『ドドドドドグォォォー――ンン!!』
炎の向こうで最後のスケルトンに殺到する・・・声無き蝶の叫び
『カラァン…』
ギュッと目蓋を閉じた私の耳に届いたのは・・・勢いを失ったショーテルの乾いた落下音。
そして・・・
『シュルルルルッ…』
「・・・んはぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ~・・・・・・ありがと。ヒュドラ。」
『ブシュルルルゥッ!』
普段は左手の中指に絡まっている・・・私の最強の盾。
全身が水銀で出来ている変幻自在の召喚獣【汞竜ヒュドラ】の声だけだった・・・




