Chapter 011_憧れの冒険者
「も、もう!いい加減にしてくださいよぉ!くださいよぉ!!」
「ふ、2人ともぉ…!」
「ほいぃ!えっと…アランジェヴィ?の…」
「あ…は、はい!ペチュカです。…ほ、ほらっ。アリョーシャ君もポタ君も!…2人も!!私達呼ばれたよ!!」
待つこと数分。
パーティーの名が呼ばれたのは、再びからかい始めたアリョーシャ君にポタ君がいよいよ怒り始めた時だった…
「はいはい。ペチュカちゃん。あと、エリザヴェータちゃん。アレクセイ君。ポタ君…で、最後はヴァルラム君…さん…だね?」
「…あぁ。」
「冒険者パーティー:アランジェヴィ…登録完了だよ!新人冒険者諸君、ようこそルボワへ!!」
「「「はいっ!!」」」「おうっ!」「あぁ…」
名前を呼ばれた私達は興奮して大きな声でそう答えた。
ついにっ!ついに、ついに!!!
私達5人は夢にまで見たはじまりの街で、夢にまで見た冒険者になった!
そう思うともう、もうもうっ!!嬉しくって!!
「ははっ…君たちの活躍を期待しているよ。…それじゃあ、えぇと…冒険者登録は王都でしたみたいだから、基本的な説明は省略するよ。でも、このギルドには独自の大事なルールがあるんだ。それについて説明するぞ。…いいかい?初級ダンジョンルボワの森は…」
嬉しくて…
『ここの魔物は基本的に…』
「やった!ついにやったな!」
「いやっほー!」
「やりましたね!やりましたねぇ!」
『ダンジョンの階層は…』
「お前ら…まだ何もやってないだろう?」
「そうよ!私達はまだ、スタートラインに立ったばかりよ!」
ついつい…
「…おーい、新人!説明中だぞー!」
「「「「はーい!」」」」
デュランさんの説明を…
「まず何の依頼を受ける!?」
「そりゃぁー討伐依頼でしょ!マモノ、コロス!」
『注意して貰いたいんだが…』
「怖い!リーザちゃん怖いよ!」
「無難に採集依頼だろう?」
『…には手を出すなよ…』
「えぇ~…ヴァル兄の臆病者。私も討伐がいいなぁ…」
「おーい!ホントに大丈夫か?」
「「「「大丈夫でーす!!」」」」
誰一人、聞いていなかった………
………
……
…
「はぁ~…。こいつら全然聞いてねぇでやんの。ま、周りも騒がしいし…初日だしな。仕方ない。…ほらお前ら!次来た時にもう一回説明してやるから、今日はもう帰れ!」
「「「「はーい!」」」」
見かねたデュランさんはため息交じりにそう言うと、私達を開放してくれた。
ノイズが消えたのを良い事に、話はさらに盛り上がり…
「じゃあ…せめてプルーナッツ(木の実型の劣級魔物。地面に落ちるとピョンと飛び跳ねて攻撃してくるけど、動きは鈍いので良く見ていれば避けられる。倒して皮をはぎ、焙煎すると香ばしいおやつになる。プルーナッツには目も鼻も耳も無いのに、敵を見つけられるなんて凄いよね…)30体の捕獲と採集!せめて!」
「え~っ!?…プルーナッツじゃ剣使えないじゃんか。ここは順当に、ツリーカプラ(木の幹の様な角を持つ、森にすむ山羊型の下級魔物。単独か、せいぜい家族単位でしか行動しない。比較的おとなしいけど、怒ると角を振りかぶりながら突進してきて危険。適正ランクは4級からなので私達にはまだ早いような…)の討伐を…」
「どっちも4級クエストじゃないですか!?無理だから!無理だから!…なんで2人はそんなに血気盛んなんですかっ!?ですかっ!?!?」
「う~ん…そもそも5級じゃ討伐クエストはほとんど無し…か…」
「…アーバンラット(ネズミ型の劣級魔物。臆病で弱いけどすばしっこい。穀物を荒らすので何処へ行っても嫌われている。)討伐があるじゃないk「むうっ…」…ペチカ。なんだその目は?」
「…ヴァル兄。私がネズミ大嫌いって…知ってるよね?」
「あ…」
「サイッテ―!!」
「す、すまん!」
「「「あ~ぁ~…」」」
「ほらっ。おしゃべりは向こうでやれ!…邪魔だぞ?お前ら!」
「お前らもう終わりだろう!?」
「早く退けよ!」
期待に胸を膨らませて話し合う私たちを、デュランさんと後ろ並んでいた冒険者たちが注意した…その時だった。
「・・・う?あ・・・こんばんは。アルフレッドさん。ドローテさん。私も元気。・・・んふふっ。今日も仲良しだね。」
それは小さな声だった。
ギルドに入ってきた小さな女の子が、すぐそばのテーブルでエールを楽しんでいた男女のペアに声をかけられ、挨拶を返した…それだけだった。
「えっ…フォニアちゃん!?」
「あっ!フォニアちゃんだ!!」
「なにっ!?」
「こんばんはフォニアちゃん!!」
けれどその声はギルドに響き渡り、一瞬で全員の視線を…会話を…心を奪った。
それはまさに、魔法のひと唱えだった…
「・・・う?・・・みなさん。こんばんは。ご機嫌麗しゅうございますか?」
周囲の声と視線に気付いた彼女が小さくカーテシーをすると…
「「「「「うぉぉぉーーー!!!」」」」」
歓声が鳴り、そこかしこから…
「きゃーきゃー!挨拶してくれたー!…こんばんはぁ!フォニアちゃん!」
「おうっ!元気だぜェ!」
「バッチリだ!」
「こんな時間に珍しいねぇ!?どうしたんだい?」
「フォニアちゃんこそ、ご機嫌ようございますか!?」
彼女の来訪を祝う言葉が上がった。
「え?…なに?なになに!?」
「あの子…何者?」
困惑する私達をよそに
「こ、こんな時間に会えるなんて…ついてる!」
「今日は逢えないと思ってたのに!?やったやった!!あぁ…私にも声をかけてくれないかなぁ…「・・・アルメルさん。」…って呼ばれたい!きゃー///」
「よーし、今日はイケる!…おいお前ら!これから狩りに行けばいい成果になると思わないか?な?」
「「「「それは止めとけ!!」」」」
冒険者たちは沸きに沸いていた。
しかも、彼等の声には、ただ可愛い女の子に会えて嬉しいというだけではない…憧れの色が…含まれている…?
「あ~…すまん。ちょっといいか?」
「もちろん!…早く行ってやってくれ。」
「もうすぐ夜だもんなぁ…」
カウンターにいたデュランさんは…呼ばれた訳でもないのに…順番待ちをしていた冒険者に一声かけて、あの子のもとへ急いだ。どうしてそこまで…?
それに…早く行ってやれ?もうすぐ夜?
私達には荒っぽく「退け!」と言った冒険者たちなのに。随分態度が違うなぁ…
「・・・こんばんはデュランさん。えっと・・・」
「こんばんはフォニアちゃん。何か用があるんだろう?ここで聞くよ。」
デュランさんに挨拶をした彼女は冒険者が並ぶ受付を見て
「・・・そうだけど。でも・・・」
躊躇いの言葉を口にした。
割り込みをしてしまうことに抵抗があるのだろう。けれど…
「あはは…オレ達の事は気にしないで。先に済ませてくれ!」
「オレ達のは…失敗…の。報告だしな…」
「・・・ご、ごめんね。ありがと。」
苦笑いしながら順番を譲った2人の冒険者に頭を下げたその子供は、再びデュランさんに向き直り
「・・・・・を・・・」
ここからでは聞き取れないほどの小声で話し始めた。
あんな小さな子供がギルドに何をしに?それ以前に、どうしてこんなにも冒険者たちに思われているの?
その横顔を見ながら、そんな事を考え始めたのだけど…
「…っな、なんだってぇ!?」
私の思考はデュランさんの驚きの声でかき消されてしまった。
「「「な、なんだ!?」」」
「おい、どうしたデュランさん!」
「なになに!?フォニアちゃんがまた何かやったの!?」
「今度はいったいなにを…」
「言えっ!言えぇぇ!白状しろデュラン!!」
「ギルド員だからって…抜け駆けはズルいぞ!?」
「・・・ここじゃ・・・」
「よ、よし!外で見よう!…エドモンさーん!来て下さーい!!フォニアちゃんがまた大物仕留めたってー」
「「「「「なんだってぇ!」」」」」
さらに続いたデュランさんの言葉でギルドはパニック状態。そこかしこから…
「おい、聞いたか!」
「大物っ!?見たいっ!!」
「今度は何だぁ!ジャイアントグールー(グール―という飛べない鳥のボス的存在となる、飛べない鳥型の大きな中級魔物。とても足が速い。森のダンジョンにはいない筈じゃ…?)か?」
「プルーツリー(プルーナッツを生み出す木型の劣級魔物。成長が早く大きいけど、プルーツリー自体は動けないし…おいしいナッツを生み出す以外、普通の木と変わらないから放置されることが多い。栽培している農家もいる。)でもたたっ切って来たんじゃねーか?」
といった、まことしやかな話が聞こえる。
みんな…混乱している?
「よし行こう!!」
「・・・ん。」
「おっし、お前ら行くぞ!」「「へい!親方」」
デュランさんと共にその子が外へ向かうと、片手を着いてカウンターを華麗に跳び越えたガタイの良いお爺様…たぶん。デュランさんが呼んだエドモンさん…が2人の筋骨隆々のマッチョ様を引きつれて走っていった。さらに…
「オレ達も行くぞ!」
「「「「もちっ!」」」」
「見る―!フォニアちゃんの獲物、みーたーいー!!」
「「「私達も行くわよ!!」」」
「オレも!」
「当然わしも…」
「わ、私も…」
「おい。どうする?」
「呑気に並んでる場合じゃ…ないよな?行くぞっ!」
「うぃ!」
ギルドに溢れるほど居た冒険者は、一斉に外へと走り出した。
「「「「「…」」」」」
ガラーン…としたギルドに残っているのは私達パーティーとカウンターの向こうで淡々と書類を書いているギルド員1人だけ…
「オ、オレ達も…行くか?」
「そう…ね…」
「こ、ここにいても仕方ありませんしねぇ…ですしねぇ…」
「…うん。」
「行くか…」
ギルドに入った時から書類に向かい続けているギルド員…見た目にそぐわぬ事務作業をしている逞しいオジサマ…を横目に、私達も外へ向かったのだった…
林檎です。
1st Theory に関して。
投稿の目途が立ちましたので、今日から 1日2話 のペースでアップしていきたいと思います。
頑張ります!
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