Chapter 014_ダンジョン【カタコンベ】
カレント2,182年。星火の月7日。お天気は薄曇り。
星月夜祭最終日は風の強い・・・しかし静かな・・・朝で始まった。
「…お待ちしておりました。お嬢様。」
時刻は午前6時。
お祭りで夜更かしした街の朝は遅く。カトリーヌちゃんのお屋敷の前にはローズさんと私を乗せてくれる馬車のほかは誰もおらず、何も無かった。
「・・・ローズさん。わざわざありがとう。今日は・・・よろしくね。」
「はいです。」
「・・・カトリーヌちゃんも、お見送り・・・」
「ち、治癒院までご一緒しますわ!」
「・・・・・・ありがと。それじゃ・・・いこっか。」
「はい!」「はい…」
【星月夜祭】は紛れもないヒナ教の祭事だ。
けれどこのお祭り。もともと(2,000年以上昔)は先祖のお墓にお参りするような厳かなお祭りだったらしく、その謂れは【死者の魂を偲び今の生を慶ぶ】事にあるそうだ。
それを聞くと「死んじゃったら仕方ないね!肥料にな〜れっ!糧となれ〜!!」・・・などと言いたげなヒナ様の教えとはミスマッチ。そう感じるのは私だけじゃないはず。
そもそもヒナ教では死者を母なる大地に還すため、【お墓】を作らないしね・・・
「…お嬢様。付いたようです。」
「・・・ん。」
過去に偉い歴史家が調べてたところ、どうやらこのお祭りはヒナ教が出来るより更に昔。今ではヒナ教に取り込まれてしまった別の宗教のお祭りだったらしい。
「…来たわね。おはよう魔女様。カトリーヌちゃんもようこそ…。ご機嫌麗しゅうございますか?」
「・・・おはようございます。ベルナデット・ラフォン様。・・・元気です。」
「お、おはようございますベルナデット様…わ、私も元気…です…」
「…さ。ここでは人目についてしまうわ。中で話しましょう?」
「「(・・・)はい。」」
その宗教・・・宗教と呼んでいいのかすら分からない。ある一定の思想を持った集団組織・・・の正確な名前は分かっていない。経典などの資料も残っていない。誰が信仰し、どれほどの規模だったのかさえ分からない。
でも、いくつか明らかになっていることがある。
まず【星月夜祭】の本来の意義。
そして、ヒナ教に取り込まれたという事実。
あと、そのお祭り・・・儀式・・・の仕来り
「…以前説明した通り。治癒院の地下墓所…通称【カタコンベ】の下層の…さらに先に入るための鍵は私の手にあるわ。今は祭事の最中だからいいけど…教皇への返却期限は明日の朝。…ごめんなさいね。本当ならもっと時間をあげたかったんだけど、最終日以外は他の術師の出入りを制限できなくて…」
王都エディステラのヒナ教会大聖堂。その脇にある付属の治癒院には大昔に作られた地下墓所【カタコンベ】が存在する。
中は骨と棺でいっぱいだけど魔物が出るわけじゃないからダンジョンと言うわけでも無い。
だから、お墓を見慣れていないヒナ教徒にとっては・・・エディステラふしぎ発見!・・・感覚の、人気の観光スポットだ。平時はお布施を払えば誰でも見学できる。ただ、星月夜祭の間は祭事が行われ、全期間、立ち入り禁止とされる。
その間、カタコンベには交代で治癒術師が入り、昼夜ぶっ通しでお祈りが捧げられるらしい。
そして最終日の今日。
サリエルの使いに1つの課題が言い渡される。それが・・・
「綴られた通りだとすれば…滝洸大聖堂までは1日で往復できるはずよ。これまで、それを成した人がいないだけで…。ダ、ダメそうなら途中で引き返してね!お願いよっ!!………これでダメなら…きっと。それが理なのよ。貴女でダメなら………諦め…られる…から………」
「ベルナデット様。本当に…いるのでしょうか?」
「さぁ…無責任な事を言って申し訳ないけど、“そう綴られているから”としか言えないわ。でも、魔女様は…」
「・・・いるよ。間違いない。」
その課題とは・・・
「・・・堕天使サリエル・・・逢って来るね。」
王都エディステラの地下には【滝洸大聖堂】という地下聖堂があるという。
サリエルの使いは年に1度、星月夜祭の最終日だけ。カタコンベの下層から大聖堂に向かう事が許される。
聖堂の中には治癒魔法を司る【堕天使サリエル】が在り、辿り着く事ができれば治癒術の極意を伝授してくれるという・・・
記録が残っている3,000年前から1人の成功者も生んでいないこの儀式が、今も脈々と受け継がれているのは「さすが、リブラリア」と言わざるを得ない。
けれどカタコンベ下層の鍵付きの扉の先がどうなっているのか?については、殆ど分かっていない。
分かっている事といば・・・
①鍵が4つあるのだから、扉は全部で4つだろう。という事。
②【滝洸の記憶】という魔導書がある以上、滝洸大聖堂はおそらく“在る”のだろう。という事。
③同じく、【滝洸の記憶】という魔導書がある以上、過去に誰かが間違いなく。そこに辿り着いたはず・・・という事。
そしてこの【滝洸の記憶】。私もベルナデット様に原書を見せてもらったことがあるけど・・・最終ページに厄介な事が書いてある。それは・・・
「治癒魔法はまだある。私は全てを宿せなかった…」
という。一言。
そして・・・
④少なくとも、1つめの扉の先にはアンデッドがウヨウヨいて、扉を開けた者を襲うという事・・・
これまで何百人というサリエルの使いが挑戦し・・・1つ目の扉を開けて、すぐに閉じた者を除いて・・・誰一人、戻らなかったそうだ。
過去には騎士を引き連れて中に入ろうとした治癒術師もいたけど、治癒魔法を宿していないと1つ目の扉を潜る事は出来ない。とか・・・
ベルナデット様も使いになって最初の当番になった時。1つ目の扉を開けて・・・すぐに閉じた・・・らしい。
治癒術師は、ほとんどの人が幼いころから“治癒術師”として大切に育てられるため、戦いの術を知らない事が多い。純粋な銀色の瞳でないと高位の治癒術師にはなれない・・・と言われるくらいなのだから、当然、他属性の魔法も苦手だ。
そんな治癒術師にモンスターがウヨウヨいる道を進め!なんて・・・ムリゲーもいいとこ。
残念ながらリブラリアにはセーブポイントもリセット機能も無い。全員が残機ゼロで頑張っているんだよ!異世界と同じように!
「本当にごめんなさいね。私も…」
「・・・それはもう聞いた。・・・もう、唱えた。」
「そう…ね。」
「・・・待っているのも辛いとは思うけど・・・」
「分かっているわ。足手まとい…だものね…」
だいたい・・・だいたいだ。
人を助ける術を学ぶために、どうして危険を冒さねばならないというのか?
堕ちても天使だというのなら穴倉に引き籠ってないで「お前が来い」という話。
生者を救う時しか役に立たない治癒魔法の技を、死者が眠る墓地のさらに下に納めるなんて悪趣味もいいとこ。
フォニアは怒っているのだよ!
そんな仕来りも。そんな儀式も・・・物理をもって滅してやる!
「お預かりしていたストレージバッグの中にいろいろとアイテムを入れておきました。使って下さいね…」
「・・・準備をありがとう。ローズさん。」
「…ご飯も、クリストフさんが腕によりをかけて造ってくれたお弁当が30食分も入っていますから…たんと食べて下さいね。」
「・・・ん。・・・頑張るね。」
「お嬢様っ。…帰って…来て、下さいね。絶対ですよ!」
「・・・もちろん。」
「フォニア様…」
「・・・約束したでしょ?」
「魔女様。どうか…」
「・・・必ず。」
「・・・行ってきます!」
林檎です。
さぁー始まりましたぁ!!
ダンジョン【カタコンベ】パート!!
夏祭りのさ中、死者の眠る地下墓所へと進むフォニアたんの冒険!!
どうぞお楽しみください!!
・・・よろしくね ;)




