Chapter 010_魔女のぴーえむ
学園のお昼休みはちょっと長くて、2時間もある。
この時間を使って寮に帰り自炊する人も居るんだけど、大体の生徒は園内のリストランテかカフェで食事を摂る。
そんな中、お弁当持参の私は持ち込みオッケーなカフェで皆とご飯を食べることにしているんだけど・・・
「・・・いい加減にして下さい!お兄様。」
今日はちょっと、邪魔者が紛れ込んだ・・・
「…んだよ!別に良いじゃねーか?」
私達1年生6人組に紛れ込んだ大きいお兄様・・・4年22組のこの人は、レオン・ピアニシモという。
ジャン伯父様の息子・・・つまり、私の従兄弟(公式には【甥っ子】になる。あぁ、ややこしいなぁ!もうっ!)。
「フ、フォニアちゃん!わ、私は別…に…」
「ほら!この子もこう言ってるし…」
「・・・そんな事言って・・・・リーゼさんはどうしたのですか?」
「そ、そんな女の事なんか…よ、よく覚えてるな!?お前…」
「・・・やっぱり・・・そんな事だろうと思っていました!・・・女性を不幸にするお兄様に紹介するお友達などおりません!」
お兄様の要求は至って単純。「女の子を紹介しろ」・・・だ。
でも、品行も成績も悪く放蕩癖まであるこの人を紹介なんてできない!
「ちょっ、ばっ!?こ、声抑えろよ…ったく!…んだよ。関係ないだろ!?」
「・・・えぇ!関係ありません!!だから紹介などしないのです!」
「…」
お兄様はアホで鍛えてないポチャだけど、無駄に顔と素性が良いから・・・けっこうモテると思う。
なのに、何で私に紹介しろなんて言うんだろう?ロリコンか?
「フォニア。誰よコイツ?お兄様って…あんた、男の兄弟は居ないって言って無かった?」
「フォニアちゃんの…知り合いかい?」
「…従兄妹じゃない?」
「…」
隣でワッフルを食べていたナターシャちゃんと、斜め前でタマゴサンドを頬張るアラン君。私の正面でサラダをシャクシャクしていたチコ君がそう聞いてきた。
お茶を飲むルクス君は・・・無言。
「・・・それは」
答えようとすると・・・
「うはっ!君、可愛いねぇ!!」
「…?」
お兄様は急に・・・チ、チコ君に!?迫った。
へ・・・?
「ねぇ、君!フォニアと一緒ってことは…1年1組だよね?」
「…そうだけど。」
「名前は?どこ出身!?」
「…チコ・デ・ペドロ。エパーニャ出身だけど。」
「はぁ〜っ!エパーニャかぁ!!珍しい名前だねぇ!!」
「…そうでも無いけど。」
「「「「…」」」」「・・・」
お、お兄様・・・
まさか、そんな・・・そんなに手広い(リーゼさんはちょっとボーイッシュなだけの、普通の女の子)なんて・・・
チコ君は男の子にしては小さいし見た目も可愛い。それに声も高い。オマケに今はセーラー服を着ている・・・ぶっちゃけ“男の娘”だから・・・偶に女の子と間違えられてナンパされる。
でも、名前は完全に男性名だから当然、名乗れば男の子だと認識できるはずで・・・
「あぁ!名乗るのが遅れたね!?…俺はレオン。レオン・ピアニシモと言うんだ!君が言っていた通り、フォニアの従兄妹さ!」
「…そう。」
にも関わらずナンパが続くと言うことは・・・
つ、つまり!?
「きゃーきゃー!!」
「はわわわっ…///」
ナターシャちゃんとコレットちゃん始め、周囲で聞き耳を立てていた女子からは摂氏3,000℃超えのギラギラとした眼差しが。
一方・・・
「「…」」
アラン君とルクス君始め、男性陣の華氏-460F°の冷め切った・・・汚いモノを見るような視線が・・・
その温度差に耐えられなくなった私は・・・
「・・・お兄様。ご機嫌麗しゅう。」
「…ん?あぁ…まだ居たのかお前?サッサとどっか行けよ!…それでね、チコちゃん…」
「…」
辞去の言葉を述べて早々に退散したのだった・・・
ゴメンよみんな・・・フォニアは急に胸が苦しくなっちゃったから、チェスに慰めて貰ってきます・・・
ランチをストレージバッグに詰めた私は、そそそ・・・と席を立ち・・・
「…あ。フォニアちゃん。朝、説明した騎乗戦闘。教えてあげるよ。」
「ボ、ボクも見学させてもらおうかなぁ…」
そう言って席を立ったルクス君とアラン君と共に、厩へ向かったのだった。
後でお話聞かせてね・・・
・・・
・・
・
「か、烏ちゃん!ボクを弟子にして下さい!!」
そして放課後。
古めかしくて、いかにも魔法学園の図書館!という雰囲気がある、お気に入りの学園リブラリア(図書館)で予習復習していた私に、別のクラスの男の子が声をかけてきた。
「・・・ヤ。」
「そ、そんなぁ…そこをナンとか!?」
「・・・何ともならない。」
「そ、それをどうにかぁ…」
はぁ〜・・・折角ノってきた所だったのに・・・
「・・・しつこい」
「だ、だって…」
彼・・・ヴァーレル君は1年3組に所属する人間とドワーフの、ハーフの男の子だ。
ま。ハーフと言っても、オレンジ髪以外、見た目は人間と変わらないんだけどね・・・
それはともかく。
彼はこうして、事ある毎に弟子にしてくれと言ってくる“しつこい”男の子である。
何度も断っているんだけど・・・
「・・・いい加減にしないと燃やす」
「ぐぅ…そ、そう言わずにお願いしますよ!烏ちゃ…いえ、烏様!!」
彼はどうやら・・・錬金術師の弟子になりたいらしい。
魔女の方はともかく錬金術師であることは公開してないのに、どうして知っているのか・・・気になるけど
「・・・3秒以内に去らないと唱える。」
会話の中から糸口を掴ませるようなヘマはしない。
「え゛っ…」
「・・・さん・・・にー」
「わぁ~!?」
彼は何度も燃やされた経験がある。
そういう人に指パッチンの姿勢で構えれば、すぐに逃げ出して・・・
「・・・いち・・・」
「っ…」
逃げ出し・・・
「・・・」
「…って、あれ?」
「・・・なんで逃げないの?」
彼は・・・瞼をギュッと閉じたものの、私の前から動こうとはしなかった。
点火魔法はただの脅しで、大して痛くも熱くもない・・・とはいえ火だるまにするから、命の危機を感じる・・・トラウマ級の経験となるはずだ。
今まで、これで撃退できなかった事は無かったのに・・・
「な、なんでって…そりゃぁ…か、烏様の弟子になりたいからですっ!!」
「・・・」
・・・根性というヤツだろうか?
「・・・錬金術師なんて幾らでもいる。ギルドに行けば修行もできる。・・・他を当たって。」
錬金術師ギルドは、ただ錬金術師を“まとめている”だけじゃ無くて、仕事の斡旋や、原材料や製品の流通、工房のレンタルや術の訓練までしてくれる。
私はいきなりマイスターの下で修業を始めたけど・・・ギルドに登録して下積み(規模の差はあるけど、錬金術師ギルドには工房が付属している。)を経験したり、工房を紹介してもらう(師匠になってくれる人の紹介と同義)人も多いらしい。
だから、忙しくて・・・人の錬金術なんて見る余裕がない私の下に着くのは非合理的。
「ボクは烏様の弟子になりたいんですー!!他じゃダメなんですー!!」
「・・・なんで?」
「卵!あれ、凄いですよねぇ!!ボクもあんな革新的な魔道具を作ってみたいんです!」
「・・・なんで?」
「なんでって…あ、憧れるじゃないですか?人が出来ない事をするって!?」
「・・・なんで?」
「…な、なんでって……え、えーと…す、凄い……か、カッコいい…から…」
「・・・なんで?だからなんで・・・なんで“私の弟子”になりたいの?」
「え、えぇと………」
「・・・今言ったそれ。“私の弟子”じゃなくても・・・出来るよね?」
「………」
「・・・」
「…」
はぁ・・・
「・・・ご機嫌麗しゅう。」
「…」
・・・仕方ない。
続きは、おうちで・・・
・・・
・・
・
「…あらいけない!…お嬢様っ。そろそろお休みくださいませ。」
「・・・う?」
夜。
リリー(スズラン型照明の魔道具)の灯りを頼りに、歴史の参考書に付箋(ちなみに、【付箋】という道具はリブラリアに存在しなかったので、エマール商会と一緒に発明(発明と呼んでいいのか・・・?)した。・・・もっとも、開発したのは【貼って剥がせる糊】を・・・だけどね。)を貼っていた私にローズさんが声をかけてきた。
「もう…10時過ぎですよ?よい子は寝る時間ですよ?」
10時過ぎ・・・あれ?もうそんな時間?
体感的にはまだ、8時くらいで・・・リブラリアに来てからというもの、時計が無い生活を続けてきた私は体内時計の精度に自信がある・・・流石にまだ10時は過ぎてないと思うんだけど・・・
でも、ま。
「・・・ん。」
いいか。
「はい!お休みのお支度をしましょうね!」
「・・・お願い。」
「願われました!!」
参考書を閉じた私は素直に彼女に従うことにした
「…では、髪を解きますね。」
「・・・ん。」
・・・ローズさんは私の為なら平気で人も斬るし嘘もつく。
だから、もしかしたら・・・
昨夜夜更しして、今朝はいつもより早かった私を心配して早く寝かせようと考えているのかもしれない・・・
「…はい。お終い。…次は、お着替えしましょうね…」
「・・・ん。」
私はそんな・・・
私の為に何でも出来て、何でも・・・家臣の矜持すら・・・捨てる事ができる彼女の事が好き・・・
「…さ。お嬢様。お休みしましょうね。今夜のお供は…キツネさんにします?それとも…ネコさん?…ヘビさんもお呼ばれされるのを待っていますよ?」
「・・・んぅー・・・」
・・・だから
「・・・きょうは・・・薔薇にする」
最後まで魔女のわがままに付き合ってもらわないと・・・
「………は、はいっ///………んぅ///」