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Chapter 007_アトリエ【紡歌】

林檎です。


一部、ルビの設定がうまくいっていなかったので修正しました!

ごめんなさい…


最近ミスが多いですよね。気を引き締めます!!

・・・よろしくね!

(21/12/05 18:35)

「ご、ごめんください…」


無事にアトリエに辿り着いた私達。


グランドマイスターのアトリエは大きな通り沿いにあるし、壺の入り口からも近いんだけど・・・道端には物乞いや粗末な服を着た人が至る所に座り込んでいるし、路地はゴミだらけ。

売春宿や怪しげなお店も並んでいるし・・・

ローズさんがずっとサーベルに手をかけていたにも(かかわ)らず、私達に近付いて来る子供や獣人も多く、とっても居心地が悪かった。


これが・・・壺。

王都エディステラの陰・・・


ローズさんのおかげで危険を感じる事は無かったけど、長居できる雰囲気じゃなかった・・・






『カッタン…カッタン…』

『タタタタタ…』


すぐ隣に大きなホテル・・・た、たぶん。売春宿・・・があるものの。アトリエは雰囲気の良い、レトロで大きな建物だった。

ローズさんが両開きの大きな扉を片方だけ『ギィ…』と開くと、途端に建物の中から規則正しい機械音が聞こえ始めた。



「わ、わぁ〜…。…お嬢様見てください。凄いですよ…」

「・・・う?」


ローズさんに促されて、中を覗くと・・・



『カッタン…カッタン…』

『タタタタタ…』

『カラカラカラ…』



機織(はたおり)り機に…裁縫(さいほう)機(ミシンの事だよ)に…」

「・・・あっちは紡績(ぼうせき)機・・・初めて見た。」

「私もです…」


グランドマイスターのアトリエ【紡歌(つむぎうた)】は巨大な服飾(ふくしょく)工場だ。


麻や羊毛。繭糸や綿を糸に紡ぎ、

糸を織って布にして、

布を服に裁縫して・・・


服を作るための全工程(因みに、原料の栽培や採集。服のデザインから着付けまでをも含めて“全工程”)をこなすグランドマイスターのアトリエはとても広く、沢山の獣人さんが働いていた。



「すごい…。ここからリブラリアに綴られた服が生まれたのですね…」


グランドマイスター・・・錬金術師【(すい)】様・・・本名:ヴィヴァーチェ・アルケミスト・ノルウェ・サイプレス様・・・

彼女は、錬金術師ギルド創始メンバーの1人で、お歳は軽く500歳を超えているはず。


リブラリアの服飾史をほぼ一人で綴ったレジェンドだ。


絹糸の発見

魔物素材の利用手法の確立

現代装のデザイン

紡績機を始めとした機械の開発・・・などなど。


あげたらキリが無い程の功績を積んでいる。


陛下を始め、高貴な方々の着ている服の多くはココの仕立てだし、歴史書に描かれているお偉いさんの着ている服もグランドマイスターの作品が多い。

そして、私が今着ている魔女服も帽子も・・・アラクネの繭糸をリブラリアで唯一加工できるグランドマイスターの手による



「あのぉ…」


「・・・う?」

「あらっ?」


工房の様子を眺めていた私達に、ふと声がかけられた。

声のした方を見ると・・・



「お客様…でしょうか?」


そこにはスタイル抜群の、背の高い赤毛の女の子が立っていた。

キレイな人・・・



「あ、はい…い、いえ!お客と言うわけではないのですが…」

「?」

「…す、錘様はおられますか?」


ローズさんが、そう尋ねると・・・



「おぉ〜い、リリ!お客はどちら様だい?」


後のドアから、そんな声と共に1人の・・・背が高くて耳の細長い、銀髪の・・・待ち針の刺さったピンクッションを腕に嵌めた、エルフの女性が現れた。



「…マイスター。お客様はお客様では無いそうですよ?」

「はぁ?何だい、それは??君達は…」


【リリ】と呼ばれた女の子が振り返ってそう答えると、その女性は私達に視線を移した。


マイスターと呼ばれるエルフの女性・・・間違いない。



「・・・はじめましてこんにちは。ヴィヴァーチェ・アルケミスト・ノルウェ・サイプレス様・・・錬金術師【錘】様。ご拝顔賜り恐悦至極に存じます。貴女様の弟子であるヴェロニカ・・・錬金術師【嘘】の弟子、フォニア・シェバリエ・ピアニシモ・・・錬金術師【烏】と申します。ご機嫌麗しゅうございますか?」


・・・

・・






「へぇ〜!モニカ(師匠(マイスター)ヴェロニカ様の愛称)の弟子なのかい!?よく来たねぇ!!」


下ろした長い銀髪から細長いお耳を覗かせたエルフ族のこの女性こそ、グランドマイスター:錘様だ。


エルフは物理法則に反した非科学的な種族で、【不老】という受け入れがたい種族特性を持っている。

・・・ま、言葉通り“老いない”という意味。



「ふぅ〜ん…ふふふふふっ!…“あの”嘘つきモニカが弟子を取って、ボクに“よろしく”なんて書いて寄越すとはねぇ…。人族の成長って本当に早いねぇ…」


グランドマイスターは足を組んで頬杖をつき、愉しそうにマイスターの紹介状を眺めた。


マイスターがグランドマイスターの弟子になり、このアトリエで修行を始めたのはマイスターがまだ学園生だった頃・・・と聞いている。

多分、30〜40年・・・もしかしたら、50年近く・・・前の事のはずだ。

人間にとっては長い年月だけど、悠久(ゆうきゅう)の時を生きるグランドマイスターにとっては、あっという間の出来事だったのかもしれない・・・






「孫弟子君。外でもないモニカの願いだからね。工房は好きに使うといい。」


そんな、グランドマイスターを見守っていると、彼女はパッっと顔を上げ、優しい笑顔で私にそう言った



「・・・う!?い、いいの?」

「もちろんさ!…あぁ、それと!来る時間を予め教えてくれれば迎えも出すよ!女2人でここは…こわかったろ?」

「・・・ありがとうございます!」


今日まで畔邸(ほとりてい)の物置を工房にしていたんだけど・・・手狭なのでどうしようかと思っていた所。だからグランドマイスターの提案は大助かり!


しかも私達に気を使って、送迎までしてくれるという!!

さすがマイスターのお師匠様!

尊い・・・



「ふふふ。構わないさ。君の錬金術にも興味があるからね!何も遠慮する事は無いさ!!」

「ありがとうございます錘様!…良かったですね!お嬢様!!」

「・・・ん!」


これも何も、マイスターが紹介状に書いてくれておかげ!

イミテーション・グラスの件も合わせて、帰ったらお礼のお手紙を書かないとね!



「モニカはどうだい?元気にしているかい?…あの子の事だ。趣味の悪い…髑髏(どくろ)やら蜥蜴(とかげ)やらの玩具(おもちゃ)で人を驚かせて、喜んでいるんじゃないのかい?」

「・・・マイスターはいつも元気です。蛇の入ったお酒がその秘訣だと言ってました。」

「ふふふっ…何だいそれは?相変わらずだなぁ!」


蛇入りのお酒を「美味しい」と言いながら美味しくなさそうに飲むマイスターの顔は、いつ見ても可笑しかった・・・



「孫弟子君はどんな魔道具を作ったんだい?…え!?た…た、【卵】?…ほ、本当かい!?なら、ぜひ手伝って欲しいんだ!実は開発中の…」


その後もグランドマイスターと、マイスターや錬金術の話で盛り上がったのだった・・・


・・・

・・






「…よし。2人の依頼は預かった。次に来る時までに仕上げておくから楽しみに待っていてくれ。」

「・・・ありがとうございます。」

「本当にありがとうございます!!錘様!」


折角だから・・・ということで、

リブラリアのファッションリーダーに新しい服の製造を依頼した私とローズさん。

快く引き受けてくれたグランドマイスターに感謝だね!



「あっ…。お嬢様…」


ローズさんに促されて()りガラスの嵌められた窓を見ると、外は真っ赤に染まっていた・・・



「おっと、もう夕方か…。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうねぇ…」


このアトリエは畔邸からは少し離れている。そろそろ帰らないと・・・



「…錘様。本日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。」


ローズさんが辞去(じきょ)の言葉を伝えると・・・



「…うん。そうだね。ここは夜になると“いっそう”危ないから…日があるうちに帰った方が良い。…リリ。ジャナと一緒にこの子達を階段まで送ってあげなさい。」

「はーい…」


リリさんはここの工員さんの1人で、今日は着付けモデルのお仕事をしていたらしい。

獣人ばかりのアトリエで一人だけ人間(グランドマスターもたった一人のエルフ。だけど・・・)で、寂しくないのかなぁ・・・?と思って聞いたところ



「ぜんぜんですよ!みんな同じ仲間ですから!!」


と言っていた。

壺の生活は厳しいと聞いていたけど、グランドマスターの周りには笑顔があるみたい



「・・・お心遣いありがとうございます。グランドマイスター。・・・では、また。ご機嫌麗しゅう・・・」

「錘様。ご機嫌麗しゅう…」

「あぁ!また会おうね孫弟子君!…侍女君も!」



「お二人とも。どうぞこちらへ…」


その後、私たちはリリさんと、アトリエのエントランスで待っていたジャナさんという猫(トラ?)っぽい男性の獣人さんに【階段】(壺と下町を結ぶ通路。文字通り【階段】になっている)まで送ってもらい・・・



「…お見送りありがとうございました。リリさん…ジャナさん…」


「バイバイ!孫弟子様っ」

「また、お越しください!」


「・・・ばいばい。」


夕日を背に仲良く並んで手を振る2人に挨拶をしてから、帰路についた・・・

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