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第9話 サティナ・スー

テンポあまり上がらなかった件



「本当にすごいな。……ん?どうした? そんなボーッと一点を見つめて」



 サティナが不思議そうに尋ねてくる。

 ヨシタカは先程から視界に出ている文字の羅列を見たまま固まっている。



「………………」



――――――――――――

 名前:ヨシタカ

 種族:人

 称号:世界を渡る者

 スキル:無し

――――――――――――



 サティナの問いかけに気付かないまま、無視をする形となったヨシタカは、その表示を見て脳内のオタク知識を更に漁り始めた。

 額からは『魔法が使えないかも』という焦りから来ているであろう汗が滴り始めている。


 スキルと魔法は別物で、スキルは無いけど魔法は使えるのか。

 それともスキル無しというのは、魔法も使えないのか。



(いや、魔力さえあれば使えるとサティも言ってたし……。魔力だけ魔導師並だけど、魔法は使えない凡人です……? い、いやだ!)



「あ、あの、サティ。……スキルと魔法って、同じものですか?」



 ヨシタカが質問をすると、彼の足元にいるひなたに恐る恐る手を伸ばしていたサティナが、急いで手を引っ込めていた。



「あうっ、あ……、なんだ? スキル? なんだそれは」



 顔を赤くし焦りながらサティナが答える。



(ん? スキルが分からない? もしかして、この視界の表示は周りには見えていない? しかも他の人は自分の情報をこうやって見る事が出来ない?) 



「あ、何でもないです。……色々教えてもらってばかりで申し訳ないですが、魔法の使い方を教えてくれませんか? もしくは他の魔法も見せて貰えると……真似してみるので」



 下手な事は言うまいとし、ヨシタカは話題をすぐに変えた。

 先程のヒールを真似してみても良いのだが、治すような傷が無いと試しようが無い。



(スキルについては隠す訳じゃないけど、今はいいだろう。技能とか技術とか、言葉が違うだけかもしれないし)



「ふむ……」



 サティナは、少し思案している様子だ。



「難しければ、またの機会で大丈夫です」


「ああ、いや。何と言えばいいのか……。ん〜……」

 

(ん? どうしたんだろう? さっきまでと違って歯切れが悪い感じ。面倒とか嫌だとかそういう雰囲気ではなさそうだけど)



 ヨシタカは黙って次の言葉を待つが、目の前の少女を困らせたくはない。自分のワガママのために、話したくない事を無理に話させるつもりは毛頭無い。

 ただそれだけだ。これはヨシタカの本心である。

 だから、もし何か、彼女にとって辛そうに話す事であれば、途中で止めるつもりでいる。



「まぁ……いいか。短い時間だが、私はお前を少なからず信用している。お前が素直に接していてくれてる事が分かるしな」



「大丈夫ですか?」



 サティナは首肯した。



「実は……教えると言っても……使えないのだ」


「へ?」


「……今日は、もう使えない。それに、使えたとしてもさっきの初級回復魔法以外は一切……私は使えないのだ……」


「そうなんですか」



 恐らく、サティナはヨシタカと出会う前から、ずっとその事を気にして生きてきたのだ。

 彼女の今の言葉と雰囲気だけで気付くだろう。



「すまない」



 謝る理由なんて何一つ無いサティナが、ヨシタカに向けて謝罪する。



(なんでサティが謝るんだ)



 ヨシタカは理解した。


 目の前のハイエルフの少女――サティナの落ち込んでいる姿を見て



「サティが謝る必要なんか無いですよ。そもそも魔法が使えるだけでもすごいのに。本当に。寧ろ感謝しかしてません」


「情けないとは、思ってるんだがな。ハイエルフの癖にな。すごく恥ずかしい事なんだ。だから、里でも……あ、いや今のは忘れてくれ」



 サティナは今にも泣き出しそうな顔をしている。

 恐らく、そのせいで昔から里では何か、彼女の落ち込むような事が日常的に有ったのだろう。


 そしてそれを打ち消すように作り笑いを浮かべた。下手くそな作り笑いだった。



(あぁ、まずいなこれは。こんな顔、俺が耐えられない)



「サティ、ひなを抱いてみませんか?」



 この話は今聞くべきじゃない。自分のワガママの為にサティナにこんな顔をさせたくない。今は少しでもこの子に笑っていて欲しい。

 焦ったヨシタカは、気付いた時にはそう提案した。

 ヨシタカは足元でずっと毛繕いをしているひなたを抱き上げる。



(ひなごめん! 協力して!)


 

「ニャ〜」



 ひなたはまるで、「いいよ〜」とでも言うかのように、のんびりと鳴いた。そのままサティナの方を見続けている。


(なんか最近のひな、本当に物分りがいいな。お陰で助かるけど。 ありがとうね)




 ヨシタカはひなたを腕に抱いたまま、サティナの前に優しく差し出した。

 瞬間、サティナの表情は喜怒哀楽が全て混ざったように、複雑に歪んだ。



「なっ! 急になんだ! ぐっ、今私は……」


 急になんだと言いつつも、その目と耳は嬉しそうだが。

 


(それは言うまい)


「いいからいいから」



 サティナは葛藤している様だが、一向にひなたを受け取ろうとはしない。ただ、手はワキワキしている。

 そのままジリジリと、ヨシタカは抱いたひなたを彼女に近付ける。


 とその時、差し出されたヨシタカの腕の中から、ひなたが跳んだ。目の前で複雑な表情でプルプルしているサティナに向かって。


 

「ニャ」

 


 咄嗟にサティナはひなたを抱き留める。



「あっ……」


(ひなナイス!)



 ヨシタカはガッツポーズをした。



「ふわあああああぁぁぁ……」


(あ、トロけた)



 先程、みっともない姿を見せた、と散々落ち込んで正座していたサティナが、またトロけている。


 それを見ていたヨシタカは



「ぷっ。あはははははっ」



 この世界に来て初めて笑った。心からの爆笑である。



 そんなヨシタカの笑い声と態度に、少し我に返ったサティナが、顔を強制的に正し彼に向き直る。



「おおお、お前! 謀ったな! ひなた様をこんにゃ……こんな事に巻き込むな!」


「噛んでるし……あははははっ」


「く〜〜!!」



 サティナは羞恥を含む様々な感情により、耳まで赤くして怒っているようだが、トロけが直りきっていない。口と目が微妙に緩んだままだ。


 ヨシタカに掴み掛かりたいが、ひなたを抱いているのでそれも出来ない。


 ひなたはサティナの腕の中、前足で彼女の綺麗な銀髪をペシペシとじゃれるように叩いている。

 そもそもサティナに向かって飛び込んだのも、プルプルと震える彼女の頭に揺れる銀髪が気になっただけだったのかもしれない。



「俺はねサティ。本当に感謝してるんですよ。だから、そんな辛そうな顔をして話すくらいなら、今は少し落ち着きましょう? 話してくれて、ありがとう」



 自分から頼っておいて何ですが、と付け加えた。



「むぅ。なんだ!」

 


 不機嫌なのか上機嫌なのかよく分からない状態のサティナが反応する。



「サティの抱える過去とか、魔法の事とか、勝手な事は言えないし、大丈夫だよなんて無責任な事は言えないけど、サティがずっと悩んできた事だろうからね」



 でもね、と付け足しヨシタカは続ける。



 ひなたが居てくれて、ヨシタカの心は少しは落ち着いていたかも知れないが、この世界でこれからどうしよう、ひなたを守らないと、と不安で仕方が無かった。

 そんな心境の時にサティナと出会えて、まだ出会って間も無いのに、自分も怖かったはずなのに、得体の知れない男なのに、まだ短い時間だがここまで一緒に過ごしてくれてる。


 それだけでヨシタカの心がすごく救われていた事。



 ヨシタカは、この世界に来てからの事を振り返りながら更に続ける。



「俺はサティに感謝してる。魔法の事はまぁ、詳しくはわからないし無責任な事は言えないけど、あの回復魔法に感動したのは事実だし、すげぇ! って思ったよ! でも他の魔法が使えないとか関係無く、一緒に居られて良かったというか……いや言いたい事はそれじゃなくて! この世界に来て不安だったけど、サティに救われたというか……えっと……まとまらねぇ!」



 必死になって、まとまらない話をするヨシタカを見て、サティナは目を見開く。そしてその(まなじり)を下げると



「あはは」



 笑った。



「大丈夫だ。ありがとうヨシタカ。まぁ、魔法の事はもうとっくに殆ど諦めてるんだ。火や水魔法の詠唱も、一通りは覚えたんだが、どう頑張っても初級回復魔法以外は使えなかった」



 いいか? とサティナは続けてヨシタカに言った。



「魔法の使い方は、さっきの……魔力を手に集中させてから詠唱をする。そこでその魔法、火なら火が燃え盛るイメージを作り、魔法名を唱えながら手の先を光らせた時の感覚で放つ。それだけだ。回復以外使えなくても、人に教えることは出来るな」



 そう言ってサティナはまた笑った。


 サティナが補足した話だと、魔法の威力には初級や中級などのランクがあり、そのランクによって魔法の名前が変わるらしい。あとは込める魔力の量、詠唱の長さも違うとか。



(一重に魔法を使うと言っても、色々あるんだなぁ。アニメだと簡単に使ってるのになぁ)


「ありがとう。話を聞くに、魔力が有っても適性が無ければ魔法は使えないんだよね。俺も使えないかもしれないってことだよね」


「まぁ、あれだけの魔力量だ、使えるとは思うが、ふむ、そうだな。使えなかったら、お揃いだな」



 お互いの目と目を合わせて、互いに笑った。



「いやまぁ、使えなかった場合。回復魔法が使えるサティの方がすごいけども。とりあえず、サティの良い時に一通りの魔法詠唱を教えて欲しい。試すだけ試したい!」

 


「良かろう。このハイエルフ様が教えてやる」



 胸にひなたを抱き、サティナは微妙にトロけた笑顔でそう答えた。





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