第35話 独り
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間を置く意味で、今回少し短めです。
光の渦に入り込んだヨシタカは、回転しながら落下していくような感覚で渦の奥へと吸い込まれていった。
周りはカラフルな光が有るのみで、壁も無ければ地面も無い。そんな空間をただひたすらに落ちていき――。
そうして辿り着いた場所は。
「森……? って、皆いないし! ……俺だけ入った?」
立ち尽くし、頭を抑えたままのヨシタカが状況を整理する。
「怪我はとりあえず無い。ヒナは大丈夫だろうか……。いや、あの二人がしっかり見ててくれることを信じよう。……問題は俺だな」
彼の目の前には森が広がっていた。
ただ、先程まで居た森とは違う森だということは、目の前の光景を見れば一目瞭然である。
草や樹などの植物は全て数倍ほども大きく、その葉の色が青や紫の色をしており、ヨシタカとヒナタが最初に入ったエルフの森と同じく鳥や虫の声は一切聞こえない。
そして一番の違いは、顔を上げると見える空が、
――虹色をしていた。
「巨大な青い草木に虹色の空……すごいな……。ここが精霊界なのかな」
あくまで推測の範囲だが、ヨシタカはそう仮定した。
「他の精霊はとりあえず見当たらないけど。ウンディーネがいない以上は、これが正常なのか異常なのかはわからないな」
(どうしよう。一人ってすごく不安だ……。今までどれだけヒナとサティに助けられていたかわかるな)
現状、不思議な景色の他には特段取り立てる程の異常は見当たらない。
だが、頼みの綱であるウンディーネがいない以上は下手に動くことが出来ないのも事実である。
「ん〜……。どうするか。っていうかどうすんのこれ。俺に出来ることを探して当てずっぽうに探すか? 他の精霊を見つけて、戻れる方法を探すか……? 光の渦は消えちゃったしな……。え? 詰み? いやいや……。まだ進んでもいないしそんな簡単に詰むわけないじゃん。はは……まだ冒険序盤だぜ? ははは……」
ヨシタカは早口でそう自分に言い聞かせると、改めて辺りを見渡す。
だがそこは何度見直しても変わらず。
青や紫の森が広がり、幻想的な虹色の空が有るのみだった。
「……歩くか……」
ウンディーネがゲートに入れないと言っていた以上、待っていても彼女らが来る事は無いと判断したヨシタカ。
彼は異世界で、『初めて』一人で歩き出した。
「……迷わないように木に印を付けていこう」
………………
…………
……
その頃、元の森では――。
「ニャ〜! ニャ〜!」
「ヒナタ様……」
「ワタシはどうしたラ……」
ヨシタカがゲートに入っていった後、彼が居なくなった事に気付いたヒナタは一心不乱にゲートへ爪を立て、ガリガリと爪研ぎのような動作を繰り返していた。
それをサティナが不安そうに見つめ、ウンディーネはゲートを見つめたまま放心している。
ヒナタの爪でも傷一つ付かない光の渦は、二人が入ろうとしても変わらず壁のように塞がっているだけだった。
「ニャ〜!」
不安げに鳴くヒナタに対し、サティナがしゃがみこんで声を掛ける。
「ヒナタ様……。大丈夫です。大丈夫。ヨシタカは絶対に無事です。今は帰りを待ってみましょう」
「ニャウ…………」
サティナの言葉が伝わったのか、ヒナタは彼女の顔を見据えた後、その膝へと飛び乗ってきた。
「んっ……ヒナタ様……っ! モフモフぅ……。でんせ……はッ! 今はそんな場合ではない……」
「なんでス?」
「いえ……ッ!」
「サティナ。ご主人様ガいつ戻ってもいいように、ワタシはゲートノ維持に魔力を使いまス」
「かしこまりました」
ウンディーネが手を構えたままそう提案し、サティナがそれを了承するが、
――ヨシタカがその日、戻ることは無かった。
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