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第3話 探索開始



「落ち着ける場所と言っても見渡す限り草原だし、下手に動いて変な生き物に遭遇も怖いな…」



 だが動かないことには何も進まないのは善隆もわかっている。安全の確保と同じくらい食料や飲水の確保も大切だ。



「少し怖いけど、ちょっとだけ移動してみようか、ひな?」



 胸に抱いたひなたを見ると、ひなたはずっと善隆よしたかの顔を見つめていたようだ。

 周りの景色よりも善隆の顔を凝視している。



「ん? 怖がって逃げないのは嬉しいけど…ひな、外怖くないの? ずっと室内飼いだったのに」



 日本で生活していた頃、と言っても三十分も経っていないが、ひなたはいつも外を怖がる。

 もしかすると公園に捨てられていた頃のトラウマが有るのか、窓や玄関を開けると反対側へ逃げてしまうのだ。

 飼い主側としてはその方が安心は出来るが、だからこそ今の状態が善隆は不思議でならない。



「逃げ場が無いからかな? 俺のところが安心できる?」


「ニャ」



 まるで返事をするかのように短く鳴くと、仰向けで抱かれていたひなたが身体を(よじ)り、善隆の肩口から首の後ろへ顔を出すような形に態勢を変えた。

 正面から見ると善隆に抱きついてるように見える。


 善隆は片腕を下にL字型に曲げ、ひなたの足場を作る。

 これならこのまま長時間歩けるだろうと。



「返事したの? 何を言ってるかはわからないけど。それならそれで良いか」



 善隆は歩き始めた。



(一先ず、水辺に行きたいな。川か何かを探そうか……いやもし危険な生き物がいるとしたら水辺は危険か?)



 状況が状況なため、善隆は色々と考えてしまうが足は止めない。結論が出ても出なくても、何も分からないので進むしかない。



「とりあえず、少しでも景色に変化が出来たら考えよう。時間が勿体無い。このまま変化無しで夜になるのだけは避けたい」



 善隆にはサバイバルの知識は無いので、自分なりに考えられる範囲で安全アンドひなた第一で考える。



「それにしても……これは無いよなぁ……」



 歩きながら自分の格好を見下ろす。



「いや、ハーフパンツにTシャツて……。ちょっとコンビニ行ってくるねの格好なんだよなぁ」



 そう、善隆は部屋着のままだった。



「おまけに裸足だしね。足の裏チクチクするしね。なんでこう……もっと違うタイミング無かったの?女神様?かはわからないけど、転移させた人さん」



 直後、もしタイミングが違えばひなたと別れてたかもしれないと善隆は考える。



「あ、やっぱりタイミンググッジョブかも。ありがとうございます。ありがとうございますじゃねえわ!」



 結局、この状況になった理由はわかるはずもないので、何の説明も無くただ理不尽に連れてこられたという事実だけが残る。



(異世界もののアニメや漫画の主人公たちは、よく独り言が増えるけど、めっちゃわかる。たぶん不安から来るものも有るんだよね)



 例えば、目が覚めるとお城の中で、目の前にいる王様から世界を救ってくれと言われたり。

 例えば、女神様の前で目が覚めて、世界を救ってくれと言われたり。

 そんな説明が有ってもいいんじゃないかと、善隆は心の中で愚痴る。

 せめてそういった状況であったなら、周りからサポートして貰えたり、サポートは無くとも今よりは幾分かマシのはずだと。



(とりあえず、モンスターよりも先に人に会いたい……)



……………………


………………


…………




 歩き続けてどれくらいだろうか。

 二十分は経過しただろう頃、唐突に変化が訪れた。



「おっ! ひな見て! 森! …………………いや森かぁ……賭けだなぁ」



 前方二百メートル有るか無いかの位置に、横に広がるように樹々が並んでいるのが見えた。


 そう、森である。

 善隆の少ない知識の中で、食料はもちろん森には湖や川などがあるイメージが有るため、飲水も確保出来そうだなと、ただし森の場合は遭難や、他の怖い生き物が居る可能性が高い。

 ハイリスクハイリターンの賭けにも近い。


 前方を指差しひなたに声を掛けるも、ひなたは横から善隆の顔をずっと見つめている。



「なんか、どうしたの? 俺の顔ばっか見るね」



 不思議には感じるが、その見つめる姿がまたかわいいので、善隆の不安も薄れる。


 森のような場所を見つけて素直に喜べないのには理由が有る。

 先程善隆も考えた通り、魔物的な存在や、単純にライオンや虎等の野生動物だ。

 襲われたらそこで人生が終了する。ひなただけは逃げて欲しいが、間違いなく善隆は逃げきれないだろう。



 考えているうちも足は止めず、徐々に森らしき場所へと近付いてきた。

 近付いてみて初めて気付いた事が有る。


 そこまで大きくない森だったのだ。

 森だと思っていたが、いや森かもしれないが、恐らく直径で二百メートルも無いかも知れない。


 草原の中にポツンとある不思議な森。

 樹の高さはそれぞれ十メートルくらいだろう、それでいて枝葉が多いので森の中は薄暗そうだが、そこまで深くない事に善隆は安堵する。


 それでもそのまま進入するのには勇気が要る。

 何が起こるか分からないからだ。


 森の外周を平行に、森を中心として外側を周るように歩く。



(だめか……樹が邪魔で良く見えないな)



 森から数メートル離れた位置から目を凝らし、樹と樹の間、なるべく奥の方を見ようとするがそれでもあまり見えない。



(草が生い茂っていて、樹がやたら多いって感じか……とりあえず危険は無さそう、かな?)



「ひな、今だけはそのまま鳴かずに静かにしててね」



 ひなたの背中を少し撫でながら声を掛ける。

 相変わらず返事は無いが、ひなたが逃げ出さないので、ひなたという猫の危険察知能力を信じ善隆はゆっくりと森の中へ進んだ。





 ガサッ、ガサッと、歩く際に踏みしめる草の音だけが響く。



「なんか、静かすぎるね」



 小声で独り言のように、ひなたに声を掛ける。


 森林と言えば鳥や虫等の生き物が鳴いてるイメージが有るが、そういった生物的な音は一切せず静まり返っている。

 風すら無い森の中で、善隆は歩を進める。



「なんか、不思議な森だなぁ」



 キョロキョロと、周りをお上りさんの如く観察する。

 静かすぎる森に対して、異世界だからかなと付け加えて呟いた。



「ん?」



 先程から善隆は樹と樹の間、間隔で言うと一メートル有るか無いかだが、その間を抜けて真っ直ぐ森を突っ切るように歩いている。

 樹の横を通り過ぎる際に、たまたま目に入った樹の表面。

 間近でまじまじ見ないと気付かない程度に小さいが、青い何かが5センチメートルくらいの間隔で無数に煌めいている。

 一粒の大きさで言うと1ミリメートル有るかどうかだ。



「なんだこれ? ただの樹じゃないのか」


「ニャ〜」


「ん?」



 ずっと善隆の独り言になっていた状況に、黙っていたひなたが久しぶりに鳴いた。

 同時に、ひなたが善隆の腕の中から下に飛び降りる。

 猫らしく、音を最小限に控えた着地。



「なんかあった? どうしたの?」



 地面に降りたひなたは一目散に樹に駆け寄ると、そのまま樹で爪研ぎをし始めた。

 背伸びをするように樹に前足を伸ばし、上下に激しく爪を動かしている。


 ガリガリ、ガリガリ、と。



「あぁ……それがしたかったのね」



 日本の部屋に居る時ぶりにその姿を見て、少し涙が込み上げる。


 ああ……ひなだな、と。


 この世界に来て未だ一時間も経っていないが、ずっと気を張っているせいか、その姿に善隆は安堵した。



(ひなが居てくれるだけで、少しは心が落ち着けてるんだなぁ。もし完全に独りだったら……)



 ひなたと別れるのも、ひなたを危険に晒すのも、どちらも善隆にとっては耐え難い。大切な存在だ。

 危険な異世界へに連れてきてしまった、と。

 あの時、膝に乗せていなければ、と考えもしたが、

 だがそれでも、やっぱり一緒に居られて良かったと思う気持ちが強い。



(一緒に居られて良かった、とか。……完全に自分本意な考え方だな)



 本当にひなたの事を想うのならば、そんな考え方ではないはずだ。



(俺だけがいなくなっても、無断欠勤になった会社から緊急連絡先にしてある実家に連絡が行き、母親が俺の部屋に来るのはわかるし、それでひなは無事に保護されるんだ)



「ひな、ごめんね。ありがとね」



 一緒に居てくれて、と。


 中腰になりながら、未だ爪研ぎに夢中なひなたに謝罪と、感謝を伝えた。伝わってはいないだろうが。



「あれ?」



 その時、ひなたの周りの地面が青く煌めいている事に気付く。

 先程 樹の表面に見えていた青く煌めく何かが、ひなたの爪研ぎに合わせてボロボロと落ちているのだ。



「え? これ取れるの?」



 自分でも取れるか試そうと、樹の表面に向かって爪を立ててみるが…



「硬っっった! 硬い! 痛ぇ……」



 表面が少しくらいポロポロと取れても良さそうだが、ビクともしない事に指を抑えながら驚愕する。

 普通の樹の感覚で爪を立てた為に爪が捲れそうになり、先程とは別の理由で涙ぐむ。


 ガリガリ……ガリガリ……



「ひなすげぇ……」



 人間の爪と猫の爪では形状が違えば強度も違う。

 当たり前の事だが、ここまでの違いが出るとは善隆は想像もしていなかった。



「じゃあひな、それはまかせるね。俺は……っと」



 落ちている青い粒のような何か。


 石にしては透き通ってるように見えるが、何せ小さすぎて中身がわからない。

 1ミリメートル程なので、青い砂と言われればそうも見えるが、宝石を見ているような、綺麗な粒。明らかに光を少し反射している。


 いくら光を反射していても、小さすぎて遠くからではわからなかった。増して森の中は薄暗い。



「青い宝石が埋め込まれた樹木……異世界感出てきたなぁ」


(宝石かどうかはわからないけど。この世界じゃただのゴミだったり)



 善隆は今後の事を考え、少しでもお金になりそうだと判断したものは極力手に入れていこうと考えた。



(価値が無いとわかったら捨てればいいし)



「ひなの爪研ぎが終わったらこの青い石は全て回収するとして。あとは……何とか歩いてきたけど、そろそろ靴が欲しいな」



 現状、多少チクチクとはしていたものの、大きな怪我はしていない。

 ただ今後もそうはいかないと考え、善隆は身近な物で足に捲ける物を探す。



(改めて考えると、小枝とか踏んで刺さらなくて良かったな……)



「とりあえずやる事は……」



 〇探索をスムーズにする為、履物を手に入れる。

 〇ひなたの爪研ぎが終わり次第、青い石の回収。

 〇武器になりそうなものを探し、無ければ最悪作る。

 〇探索しなから、少し森の奥に進む。

 〇道中で食料を可能な限り調達し、水場があるか探す。

 〇水場付近で休む。



「よし、これでいこう」


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