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第29話 森でのひとときと猫



「この森って結構でかいの?」


「そうだな。以前見た地図だと、歩いてあと二日もすれば抜けるはずだが……」


「ひぇ……。まだ日本の感覚が抜けないな……。森を何日も歩くとか経験無いからなぁ」



 二人と一匹は暗くなり始めた森を進む。

 時刻で言えば十八時といったところか。


 ホーンボアの素材は持てる物は持ったが、持ちきれないものは地面を掘って埋めてある。

 いくら捌いたとはいえ、肉などをそのまま放置する事は、たまたま通って触れてしまった旅人や野生動物、付近への感染症の原因となってしまうからだ。


 日本人であるヨシタカも、テレビで見た事のある程度の知識しかないが、その辺は気を付けている。

 サティナもそれには同意し、作業を手伝った。



「それにしても、ヨシタカのそれは本当に……便利だな……」


「ね! これはマジで嬉しい」



 サティナが羨ましそうに見つめる先、ヨシタカが目の前に上げた掌の上には光の玉がフヨフヨと空中に浮いている。

 

 あれからヨシタカは、歩きながら魔力の訓練を続けていた。

 サティナに魔力を渡したり、武器に込めるのはもちろんの事だが、どうやら人や物にだけではなく、イメージさえすれば魔力の光そのものを自在に操れることがわかったのだ。


 目の前の光の玉は、そんな魔力を球体状にイメージし、そのまま浮かせて照明代わりにしている状態である。

 よく見ると、彼の掌から細い光の紐が出ており、光の玉へと繋がっているのがわかる。



「初級の光魔法――ライトと同じ事が出来ていると……」



 そう言いながら、サティナもヨシタカから貰った魔力で初級光魔法のライトを掌の上に浮かせていた。

 ヨシタカの光の玉と違うところは、彼女の掌からは光の紐は出ておらず、完全に独立している。

 更に言えば、ヨシタカの魔力の玉は温かさも感じるが、サティナの出すライトには温かさや冷たさといった温度の違いは感じられない。ただの光である。


 その辺が魔法のライトと、魔力の玉との明確な違いだろう。


 彼女はそんな自分の光の玉を見つめ、頬を染めながら口元を緩めていた。



「ふふ」


「サティもなんか嬉しそうじゃん?」


「うっ……。ヨシタカのお陰だが、気軽に魔法を使えるのが嬉しくて……その……ふふふ」

 

「そっか。そりゃ良かった。あはは」


「ふふふふ」



 二人の笑い声が、薄暗くなった森へと響く。

 昼間とは違う森の雰囲気。

 暗くなり始めると同時に鳥の声はしなくなり、虫の声も別の種類に変わったように感じる。


 森がそんな夜の顔へと変化を遂げていく中、歩みを進めていた二人と一匹はそろそろ夜営の準備をしようと、適当な場所を探していた。



「この辺でいいか――」


「――よしサティ、すぐ火を炊いてすぐ休もう」



 サティナが声を上げた途端、一瞬の隙もなくヨシタカが反応を示した。



「ヨシタカは何をそんなに焦っている?」


「いやぁ? べ、別に焦ってないよ?」



 誰が見ても嘘だとバレるような焦った表情に、サティナが追い打ちをかける。



「そうか? それなら――ん? 後ろに人が……」



 ヨシタカの後ろを指差すサティナ、そんな彼女の仕草にヨシタカはサーッと血の気が引く音を聞いた。

 そのまま震える声で、



「ななな、何もいませんよ!」


「……冗談だ」


「……むっ! サティ! 君はそんな冗談を言う子だったかな!? そんな子に育てた覚えはありません!」


「育てられた覚えもないわっ!」



 そんな他愛の無いやり取りをしながらも、ヨシタカは不思議に思っていた。

 ホラー映画を観た後には暗闇が少し怖くなる、程度の自覚はあったが、ここまで怖がりではなかったはずだ、と。



(たぶん、森の入口で見たアレと、たまに濡れる肩のせいなんだよなぁ。濡れるのも素直に怖いし、寒いからやめて欲しい)




 ………………


 …………




「ニャ! ニャ!」



 二人が焚き火を前に腰を下ろして休む中、ヒナタは光の玉を右へ左へと追い掛けている。

 ヨシタカは魔力で作った玉を自在に動かしながら、ヒナタをじゃらして遊んでいた。

 

 つぶらな瞳を揺らしながら、猫らしく俊敏に、猫らしく音も出さず――その姿は正に狩猟動物だった。



「ヒナタ様……すごい……。猫様の動きは本当に素晴らしいな……」


「うちのヒナを見て、可愛い以外にそんな感想を漏らす人は日本にはいなかったよ」



 サティナの反応にヨシタカが微笑みながら答えていた。


 猫が遊んでいる姿を見て『素晴らしい』とはあまり言わないだろう。

 大多数の人が『かわいい』という感想を漏らすからだ。

 それはヨシタカ本人や、その家族や知人も例外ではなく。



「いやよく見てほしい……あのしなやかな身体の動き……俊敏性……行動を起こす際には既に次の行動の先へと視線を動かす――未来予知にさえ思えるあの瞳の動き……素晴らしい……。……これが……猫様……」



 金色の瞳をキラキラと輝かせながら、一心にヒナタを見つめているサティナ。

 そんな彼女の視線など気にも留めない様子で、ヒナタはヒナタで一心不乱に魔力の玉を追いかけ回している。



「まぁ、ストレス発散にもなるし、そのうち鳥とかなら狩ってもらってもいいのかもな。……日本にいた頃のヒナはあまり遊ぶことをしなかったんだけど、ここまで遊んでくれると俺も嬉しいし、運動になって身体にもいいしね」


「そうなのか。大人しい御方だったのだな」

 

「ぷっ。……そろそろそのヒナタ様とか御方とか仰々しく言うのやめればいいのに。ヒナとかヒナちゃんで良いと思うよ?」


「そんな馬鹿なっ! ヒ、ヒナつぁ……ヒナちぁ……ヒナちゃ……などと……っ!」


「そんな噛む?」


「ニャ〜」



 真っ赤になったサティナに、遊ぶのを中断したヒナタが声を掛けるように鳴いた。



「たぶん。ヒナもそれでいいよって言ってるんだよ」


「う……。 ひ、ヒナちゃま……」


「あはは。混ざった」


「くぅ……慣れるまでは無理だ……」


「ニャ」



 ヒナタは満足そうに一言鳴くと、また魔力の玉を追いかけ始めた。

 右へ左へ、縦横無尽に駆け回りながら光の玉を追い……

 


 そのまま……パクッと――



「あれ!? いま食べた!? 俺の魔力っ!」


「なんとっ!」


「魔力って、魔力を持たない生き物に害とかない!?」


「無い……はずだ。ただ神獣様――猫様の生体にはさすがに詳しくないのでな……」



 焦ったヨシタカは立ち上がり、ヒナタへと駆け寄る。

 そのまますぐに魔力の放出は止めたが、一度体内に入った魔力がどうなるのかがわからなかった。


 ヒナタを抱き上げた彼は、その顔を見つめながら、



「ヒナっ! 大丈夫? なんともない!?」


「ニャ〜」



 ヒナタはヨシタカの腕の中で一度鳴き、そのまま地面へと飛び降りた。



「体の動きに異変は無さそう……かな」


「ニャ」



 彼の言葉に短く鳴いて返事をしたと同時――



 ヒナタの身体が淡く輝き始めた。



 

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