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第26話 いる。




 村を飛び出し、草原を走るヨシタカ一行。

 次の行先は村よりも大きな人の集まり――街である。



「ディークさんに聞いた話では、北の森を抜けた先に街があるそうだね! まずはそこへ向かおうか、サティ?」



 二人とも先程までの暗い雰囲気は置き去りにして、今は前を向いている。



「そうだな。目標はこの世界の旅と、ヒナタ様との安定した暮らし。ついでにニホンへの帰り方がわかればラッキー……だったか」



 ヨシタカの言葉にサティナが答える。

 彼女のその瞳は輝きを放ち、まだ見ぬ世界へと夢を馳せていた。

 家族への心残りはあるだろう。それでも彼女はヨシタカとヒナタとの旅を選んだ。

 またいつか、前向きな気持ちで家族との再会を果たすために。



「その通り! 村から動かずじっとしてた方が安全かもしれないけどね」


「せっかくならこの世界を旅したい……か」


「さすがサティ。わかってるね」


「フフ。何を隠そう、私もそれには大賛成だからなっ! 仲間と共に冒険……ワクワクしないはずが無い!」


「おっ! いいね! ――サティは里を出た事は無かったんだっけ?」


「まぁ、先日のジッポ村と、エルフの狩りを見学した時に少し……と言ったところだな」


「なら、せっかくだし楽しむしかないな。ユティナちゃんへのお土産話を沢山作ろうぜ!」


「そうだな!」



 今後の事を確認しその足を進めていると、ふとヨシタカが思い出したように、



「そういえば、アイスウォール? よく別の魔法をすぐに使えたね。前は詠唱してたのに」


「あぁ、ワイバーン戦の時、ヨシタカが詠唱しなくていいと言っていたのでな、信じてみたら……出来た」


「あれぶっつけ本番かよっ! すげぇな!」



 ヨシタカは改めてサティナのスキルについて説明をした。

 彼女のスキル欄にあった『王級魔法(全属性)』と『魔法理解(詠唱省略)』についてだ。


 恐らくスキルとは身につけた技術のこと。

 もちろん、才能により先天的に持っている者もいるだろうが、サティナのそれは間違いなく努力の証だ。

 彼女が幼い頃から努力し積み重ねた知識、それに元々の才能も加わったのだろう。

 魔力が少ないが故に使うことは出来なかった。だが使えるようになろうと努力し続けた結果だ。


 ――姉妹の中で一番の天才はサティナだった。


 彼女がそれに自ら気付くことは無いだろう。

 ちなみに、王級魔法しか使えない訳ではなく、王級までの全ての魔法が使えるのだ。

 初級から中級、中級から上級、そして王級へと、順を追って習得をしないと魔法は使えない。

 サティナは、いつか使えるようになると信じ、ずっと魔法の勉強をしてきた。

 それ故の王級魔法、それ故の魔法理解だ。



「――ありがとうヨシタカ。本当に。努力が無駄じゃなかっただけでも嬉しい。それに、これからの旅に役に立てるのが今は一番嬉しい」


「良かった」



 サティナが前を向いてくれて、と。

 同時に、ヨシタカも自分の能力である魔力譲渡や鑑定、更にはその膨大な魔力量の活用方法を今後も模索していくつもりだ。



 ――と、二人が話しつつ進んでいると、前方から何かが見えてきた。

 ドコドコと大きな音を立てながら近付いてくるそれを見て、眼の良いサティナが先に気付く。



「あれは……商人か! それもそうか! 商人は王都の方から来るのだから、北に向けて進んでいれば会うはずだ。完全に忘れていた!」


「そっか! そういえばそうだね! じゃあもしかしたらカバンとか!」


「ああ!」



 どうして二人とも気付かなかったんだなどと、そう突っ込める者はこの場には居らず。――いや、突っ込めるとしたら猫のヒナタくらいなものだ。

 だがその肝心のヒナタはサティナのカバンの中であるし、そもそも猫なので喋れない。



「しかも、よくよく考えると……あのアイスウォールのせいで商人……村に入れなくない?」


「…………………………っ!」



 ヨシタカの言葉に、サティナが絶望した顔で青ざめている。



「あ……いや……あの時は……その……目の前の事にいっぱいいっぱいで……」



 意外とポンコツ要素があるのかもしれないと、ヨシタカは思いつつ、



「俺とヒナのためでしょ。大丈夫! それに炎で燃やしたり、風で切りつけたり? しない様に考えてるあたり、さすがだなって思うよ。――商人には……一緒に謝ろ?」


「ふぐぅ……」


「もしかしたら、村長やサティのお姉さんやユティナちゃんが、何とかしてくれてるかもしれないし!」


「そう……だな。商人に謝っとこう」



 村長たちの話題を話し、少し下を向いたヨシタカは、ディーク達のことを思い出していた。



「結局、ディークさん達にお別れは出来なかったな。……持ってこれたのはナイフと火打石くらいか」



 服と靴については、貰ったものに既に村で着替えていた。

 足の裏がチクチクしない事、日本に居た時振りのその快適さに感動を抑えきれないヨシタカだった。



「ヨシタカ、それも同じだ。――いつかまた、村へ行こう」


「そうだね」


「ニャ〜」



 ヨシタカと、カバンの中からの返事にサティナがクスッと笑うと、商人の乗っているであろう馬車がもう目の前まで迫っていた。



 ……………………


 ………………


 …………


 ……




 結果、商人とは無事に取引が出来た。

 初めこそ不審に思われたが、サティナがハイエルフであることが功を奏し、信用してもらえたようだ。

 本来は村で待つ予定だったが、急ぎの旅に出る事になり、先を急いでいる。必要な物だけ取引させて貰えないか、といった具合に。


 ヒナタ用 兼ヨシタカの荷物入れに大きめのカバンを手に入れることが出来た。

 サティナからは剣を買っておく事を勧められたが、慣れない武器で怪我をするなら、慣れてから買うと言いヨシタカは断った。それまではククリナイフの様な、ディークナイフ一本だ。


 ワイバーンの素材も換金出来たのだが、ヨシタカは通貨について学ぶ必要があった。

 その辺を全てサティナ任せだったからだ。

 軽く聞いた話と日本での知識を照らし合わせると、どうやら


 鉄貨が十円

 銅貨は百円

 銀貨は一万円

 金貨は十万円

 大金貨は百万円

 

 一番の高値である白金貨は一千万円だ。



 アニメやラノベでは良くある相場だなと、しみじみ異世界へ来た事を考えるヨシタカ。その手元には彼の取り分として銀貨三枚が渡されていた。


 ワイバーン一体の素材丸々全て換金していれば金貨四枚。

 一部を持っていたヨシタカ達は全て換金をした。

 金貨一枚と銀貨三枚――日本円で言う十三万円程となった。


 功労者のサティナへと全て渡すつもりでいたが、サティナがそれに頷くはずもなく、ヨシタカは銀貨だけ頂くことにした。その代わり、サティナが買い物代は持ってくれたのだ。



 そしてそのまま商人とは別れ、また先へと進み始めた。

 

 少し急いでいるのは、ラティナやユティナが追ってきている可能性が無いとも言えないためだ。

 サティナ曰く、家族だしそこまではしないだろうとの事だが、念の為だ。何よりヒナタの事があり、追ってこないとはサティナも断言は出来ない様子。

 


「スムーズに取引出来て良かったねサティ」


「そうだな。アイスウォールの件は本当に申し訳なかったがな」


「謝ったし大丈夫でしょ! ……ぷっ。あはは」


「何故笑う?」


「何かね。焦ったり笑ったり泣いたり、冒険は始まったばかり……いや始まってもいなかったのかも知れないけど。サティのお陰で、もう楽しいなってね」


「ほう……? 私を見て楽しんでいる……と?」


「違うって! いやちょっとそうだけど! なんかもう全部がさ、段々と夢の中から冷めてきたような、現実なんだなと実感させられるような感覚と言えばいいのかな」


「なるほ……今、ちょっとそうって言ったな!?」



 サティナが顔を赤くしプンスコとしているが、そんな顔も可愛いと思いつつヨシタカは再度前を向く。



「……冒険、しよう!」


「話を変えるなっ!」


「ごめんって――」



 笑い合いながら、森の入口へと進む。



「ヨシタカ……ここからは気を付けよう。エルフの森や草原と違い、普通に野生の獣やモンスターも出てくるからな。気を引き締めよう」


「わかった。なるべくすぐ魔力をサティに流せるようにしておくのと、時間がある時は剣術を教えて貰いつつ……ヒナタ保護が最優先!」


「それでいい。剣は夜営の時などだな。明るいうちは進もう。ただ、極端に弱い敵の場合はヨシタカが倒せ。訓練だ」


「わ、わかった!」



 サティナからの言葉に腰のナイフを確認するヨシタカ。


 肩から提げるカバンにはヒナタが入っている。

 ヒナタはカバンの外に出たり中に入ったりと気分によって変えているようだ。



 ヨシタカの懸念は、生き物を殺せるのか? だ。

 ワイバーンの様に極端に凶暴で襲われたり、更には日本には存在しないモンスターであればその罪悪感もまだ薄いだろうが、

 もし見た目が子犬だったら? ウサギだったら? 生きるためにその命を断つことが出来るのか。

 日本で食べていた牛は? 豚は? 誰かが殺してるんだと、考えたこともある。だからこれは言う資格はない、が――それでも自らの手で生き物を殺した事など無いのだ。

 悩みもするというもの。



 今考えても仕方ないとかぶりを振り、森を見据えたところで、ヨシタカが何かに気づいた。



「ねぇサティ……なんか……森の入口らへん……」



 気付いたヨシタカがサティナへ確認する。

 勿論、ヨシタカよりも眼が良いサティナには見えているものと思ったが。



「ん? どうした? ただの森にしか見えんが……」



 どうやらサティナには見えていない『それ』に、ヨシタカだけが、



「なんか……樹の影に…………いきゃああああぁぁぁっ!!」



 目を細め見据えたままのヨシタカが、『それ』を遂に捉え悲鳴を上げた。何故「きゃああ」なのかは置いておき。


 森の入口に立つ樹、そこへ半身を隠すようにして――居るものを視界に捉えたのだ。

 


 日本にいる頃に何度か見てきた事が有る。

 見たというと語弊があるだろう。なんせそれは全て作り物なのだから。

 作り物――映画、それもホラー映画で見たことのある容姿。


 ホラー映画といっても、海外産やジャパニーズホラーなど、そのジャンルは様々だろう。

 ヨシタカが特に怖いと感じるもの、それはもう言わずもがな、ジャパニーズホラーである。

 呪いのビデオなど観た日には三日は眠れなくなる程に。


 異世界というこの憧れの場所に、そんな要素は不要だと思っていたヨシタカ。そも、その存在すら頭になかった。


 だが、居るのだ。


 正面、森の入口の樹の脇。


 長い髪、白っぽいワンピース――




 ――半透明。




 そう……幽霊が。


読んで頂きありがとうございます!

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