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第1話 異世界

初投稿です。

書きたい事を書きたい様に書いていきます。


雑な文章で恐縮ですが、どうぞ宜しくお願いします。




 男が一人、佇んでいた。


 頭髪の(ほとん)どが白髪で、歳は五十代か六十代か。

 そんな男の身体は傷だらけで、至る所から血が流れている。

 一部が鎧のような、着ている服もボロボロだ。



 男の立っている場所には何も無く、ただただ真っ白な景色が広がっている。足元を見ても自分の影すら見えない。

 どこか夢の中のような、曖昧な空間。



 男はぼんやりとした意識の中で思う。

 “この瞬間” を長いこと待ちわびていたと。


 ここにいるのは別におかしな事ではない。

 その為の人生だったのだ、と。


 だから、ここにいるのは必然なんだと。


 (ようや)く辿り着いたんだと。



 ………………


 …………


 ……



 どれくらいの時間が経ったのか。

 変わらず男はぼんやりと正面を見据えている。


 今の男の心の内を理解出来る者は、恐らくいない。


 妻に泣かれ。

 娘に泣かれ。

 友に殴られた。

 それでも男が決断した結果が゛今゛なのだから。


 皆を悲しませてしまったと、申し訳ない事をしたと。

 そう考えもしたが、それでも男は後悔しない。する筈が無い。


 誰にも理解はされなかった。

 だが、誰からも否定されなかった。


 行ってらっしゃい、と最後には送り出してくれた。

 あの時の皆の顔を、男が忘れる事は無いだろう。


 ………………


 …………


 ……



 ふと、声がした。



「――なんで」



 一言。


 それはとても嬉しそうで、悲しそうな少女の声音。

 目の前には何も無く、ただ白い空間が広がっている。声は聞こえたのにその主は姿を見せない。



 聞こえたその声だけの存在に、無表情だった男の表情が緩み始め、安心したような笑顔で、



「あぁ、約束…したからね」


「…………」



 男が言葉を投げるも、少女の声は何も答えない。

 だが男にはわかる。

 見えていない筈の声の主が今、どんな顔をしているのかが。



「泣いているのかい?」



 少女の震える息遣いが聞こえる。



「……あなたを……愛しています……心から」

 


 少女の声が響くと同時、何も無いはずの空間に優しく風が吹き抜ける。


 その風はどこからか香りを運んだ。


 どこか懐かしい香り……

 いつも傍にいてくれた優しい香り……


 そう、これは――



「あぁ……お日様の、良い匂いだなぁ」



 男の表情は満足そうで、寂しそうで。

 そのままゆっくりと、(まぶた)を閉じる。


 その(まなじり)には雫が一粒。





「―――、―――――――――――」


「―――――」





…………………………………





「こっわ! えっ? ここ……どこだ…? 何が起きた?」



 草原の中に、とある男が立っていた。



「あれ? 今、部屋で本を読んでて…部屋が光って……」



 呆然。

 何が起きたのか理解出来ない。

 何度 (まばた)きを繰り返しても、見えるのは草原。


 ふと男に焦りが生まれ、徐々に顔が青ざめていく。

 ほんの数十秒前まで一緒にいた存在。その存在を思い出したのだ。



「……ひな! どこ!?」



 そう叫び男は辺りを見渡すが、そこは草原が広がるのみ。

 自分以外の存在が見当たらない。

 男の焦りは加速し、額から嫌な汗が滴り始める。



「ニャ……」


「……あ、ひな!」



 その声にハッとして下を向くと、宝石の様に綺麗な二つの瞳がじっと男を見つめていた。


 見渡しても見つからないはず、なんせその存在は男の膝よりも低く小さな存在。猫なのだから。



「そっか…良かった。そういえば膝の上にいたもんね」


「ニャ〜」



 猫は前足で男の足をテシテシと叩いている。


 足元からする聞き慣れた声と感触に、男は心底ホッとし胸を撫で下ろす。


 足元の猫…ひなと呼ばれた茶色いトラ柄の猫は、男の足元で男の顔を見上げている。

しっぽを小刻みに震わせながら。



「怖かったね。大丈夫だよ。ひな」



 男はそう言いながら座り込み、ひなを膝の上に乗せて優しく、いつもの様に抱き締める。



「ンニャ〜」



 安心したと同時、男は今の状況を冷静に振り返る。



「部屋でひなを膝に乗せて、いつもの様に本を読んでいた。んで、光ったと思ったら急に外?ワープ?意味わからん…」



 有り得ない状況に結局冷静さは消え去る。当たり前だ。



(アニメじゃあるまいし……)



「いやまてよ…ドッキリか…いや、こんな一般人にこんな大掛かりなドッキリ仕掛けるわけないよなぁ…」



 バラエティ番組でたまに観る、眠ってる間に移動させられる系ドッキリを思い出すが、そこまでする知人に心当たりは無い。



「そもそも、友達いないしな」



 この男、北条(ほうじょう) 善隆(よしたか)は、日本で生きる35歳 独身。一人暮らしをしているただの会社員だ。


 仕事の付き合い以外に殆ど交友関係は無い。

 家でアニメを観るか、漫画や小説(ラノベ)を読む毎日。

 実家の親とは年に数回会うか会わないか。


 下に妹が二人居るが、どちらも自立している為こちらも親以上に会うことは無い。別に仲が悪い訳では無いが。



「ドッキリじゃないとすると、やっぱりあれかなぁ」



 『あれかな』などと曖昧な表現で言ったが。もう殆ど確信している様子で



「異世界、かなぁ……」



 そう呟いた。

 もちろん、異世界とは限らない。地球のどこか別の場所だったり、実は同じ場所の過去に飛ばされていたりと、アニメや漫画だとそんなパターンはあるが…


 ただ、何れにしても危険な状態だという事、魔物的な何かがいるかもしれない。

 考えられる危険なパターンの一つ、異世界だと仮定して考える。



(まじか……いや仮にそうだとしたら嬉しい? 夢にまで見た異世界?やったぁ! と言いたいが、俺にはひながいるし、ひなを危険な目には合わせたくないよなぁ……)



 男、善隆(よしたか)は猫好きである。

 小さい頃から猫が好きで、実家でも家族でずっと猫を飼っていた。


 善隆の生活は、アニメと漫画と、ラノベと猫で出来ている。

 会社と家の往復、そんな平凡な生活でも

 唯一の趣味と、ひなのおかげでそこそこ充実はしていた。


 異世界に憧れはするが、平凡な日常を手放したくも無かった。ひなの為に。


 ちなみに、ひなは愛称で、正式な名前は「ひなた」だ。



「はぁ……どうしよ」



 溜息を吐き空を見上げる。

 青空が広がり、眩しく輝く太陽が一つ。



「ニャ〜」



 膝にいるひなたを見つめる。



「必ず守るからね」



 ひなたの頭を撫でると、善隆の胸にひなたは顔を擦り付け、甘えた声で



「ミ〜」



 そう鳴いた。


 しっぽの震えはもう、治まっていた。



「まずは、付近の安全の確認だな。一旦落ち着ける場所を探そう。………よし!」



 善隆は立ち上がる。



 一人と一匹、冒険への第一歩だ。


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