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ブロイラーマン  作者: 小膳
1.怪物の末裔
3/103

ブロイラーマン(2/2)

* * *




 市内某所、とある倉庫。


 そこに五人の血族たちが集められていた。いずれもまちで武装強盗などをしている腕自慢の悪漢たちだ。


 遅れて中国礼服姿の男が倉庫にやってきた。血族たちを見回し、男は言った。


「集まったな。始めるぞ」


 うちの一人があたりを見回して言った。


「スティールマンとキルドーザーが来てないぜ」


「あいつらなら今朝殺られたと報告があった。抜け駆けしようとしたらしい」


 男は冷淡に言った。

 それを聞いた血族たちは特に意外そうでもなく、ただ鼻で笑った。


「ま、そのうち死ぬと思ってたぜ」


「スティールマンもマヌケだよな、あのバカと組むとは」


「静まれ」


 男が言った。その声色は静かだが、恐れ知らずのならず者たちでも肝を冷やすような威圧感があった。


 男はタブレット端末を起動し、モニタを五人のほうに向けて言った。


「血盟会ナンバーツーの九楼くろう殿から報告がある。どうぞ」


「よし、繋がった。見えてるぞ」


 ビデオチャットが繋がった。もっとも九楼のほうは暗くてよく顔が見えないが、向こうはこちらが見えているようだ。


「さて諸君。連絡した通り、今日はブロイラーマンの件で集まってもらった。ヤツはすでに血盟会メンバー数人を殺している。我らの面子にかけてこのまま放置しておくわけにはいかん」


「俺らにあのニワトリ野郎を殺せってんでしょ?」


 血族の一人が言うと、九楼は頷いた。


「そうだ。手段は問わん。街をどれだけ壊そうが人間を何人巻き込もうがだ。殺せ! ブロイラーマン討伐に貢献した者には、破格の報酬と血盟会正式メンバー入りを約束しよう」


 血族たちはにんまりとした。実においしい話だ。


 血盟会は天外を事実上支配している悪逆非道の血族組織である。その一員となれば手に入らないものはなく、逆らえる者もいない。


 九楼は続けた。


「そちらにいる俺の部下がお前たちをバックアップする。名乗れ」


 タブレット端末を持っていた男が、龍のような恐ろしい目と牙を持つ顔を彼らに向けた。


龍口りゅうく家のドラゴンブレスだ」


 集められた血族たちのあいだに緊張が走った。

 龍口家のドラゴンブレス! 元は彼らと同じまちのチンピラでありながら、血盟会の目に留まってのし上がった男だ!


 その腕前と冷酷さは裏社会の誰もが知るところであり、今では血盟会の猟犬として組織に逆らう者を殺している。


 ドラゴンブレスが誰かを殺すと宣言すれば、それは死神が宣言したも同然であり、誰であろうがいずれ必ず死ぬ。


「俺がブロイラーマンを殺す」


 ドラゴンブレスは言った。


「お前たちはブロイラーマンをおびき出せ。それから俺を呼べ。いいな?」


「お、おう……」


 血族たちはごくりと唾を飲み込み、この不吉な影を纏う男に頷いた。


「貢献者は九楼殿に推挙してやろう。抜け駆けして死ぬようなバカなマネはするな、あのキルドーザーや、あともう一人……何と言ったか……」


 ドラゴンブレスがその名を言いかけたそのとき!

 ガシャン!


 窓を突き破り、外から工場に何かが投げ込まれた。それは六人の前にグシャリと音を立てて落ちた。


 血族の一人が目を見開いて言った。


「ス……スティールマン?!」


 スティールマンの死体であった。頭を潰されているが、腰に下げた鞘と時代錯誤な着物姿は間違いない。


 一同に動揺が走る。


 コツコツと革靴の音を立てて男がやってきた。


 ブロイラーマンであった。彼は肩をぐるりと回してストレッチし、一同に目をやった。


「そいつが全部吐いた。血羽家のブロイラーマンだ。お前らを殺しに来た」


 血族たちは殺気立って身構えた!


「ハハハーッ! 飛んで火に入るニワトリだぜ!」


 一方、ドラゴンブレスは木箱の上にそっとタブレット端末を立てかけた。


 ドラゴンブレスは血が沸くような表情をしていた。上着を脱ぎ捨てて鍛え上げた肉体をさらすと、タブレット端末に言った。


「九楼殿、ご覧あれ」



――数分後。


「はあああああ! ああ……! あああああああ!」


 仰向けに倒れたドラゴンブレスは絶叫していた。

 その表情は恐怖と、そしてそれ以上の驚愕に歪み切っていた。目の前で起きていることを理解できず、怪物を目の当たりにした子どものように混乱していた。


 ブロイラーマンはドラゴンブレスを無慈悲に見下ろした。

 その鶏冠とさかと同じく真っ赤な鮮血に全身まみれている。だが彼自身はほとんど傷を負っていない。


 彼の周囲には五人の血族が――血族だったものの肉片が飛び散っていたドラゴンブレスは両腕を引きちぎられ、顔中を殴られて半ば潰されている。


 ドラゴンブレスは口をパクパクさせながらかすれ声で言った。


「な、何なんだ……お前は……なんなんだ……!?」


「俺は俺だ」


 ブロイラーマンは言った。

 そして地獄のような声色で言った。


「お前に聞くぞ。霧雨病をバラまいている血族は誰だ」


 唐突な質問に、ドラゴンブレスは呆けたような顔をした。


「し……知らない」


「霧雨病の治療方法は?」


「知らない!」


 ブロイラーマンは片足を高々と上げた。


「そうかい。じゃあ用はねえ」


 グシャアア!

 ドラゴンブレスは悲鳴すら上げる間もなく、ブロイラーマンに頭を踏み潰されて死んだ。


 ブロイラーマンはちらりとタブレット端末に目をやった。モニタの暗がりの中で、九楼は親しげに笑った。


「やあ、ブロイラーマン。探している血族は見つかったかい?」


 ブロイラーマンはモニタの男を睨んだ。


「霧雨病をバラまいているヤツは殺す! お前も殺す! 血盟会は全員殺す! この世からテメエらの全存在を消し去ってやるぞォォ―――ッ!」


 ブロイラーマンはタブレット端末を拳で叩き割った。

 ガシャアア!




* * *




 ――血族。

 血族とは魔女、妖怪、獣人といった怪物たちの末裔である。


 かつては超常の存在として人々に恐れられた彼らだったが、文明が発展するとともに姿を消した。科学が万能の神となった現代では迷信の類として扱われている。


 だが血族は絶えてはいなかった。彼らは人間に成りすまし、今も社会の影に潜んで悪行を働いているのだ。


 だが自らも血族でありながら同じ血族を誅殺し続けている男がいた!

 その名は……










挿絵(By みてみん)










(続く……)

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