20、支持をするのか、しないのか
「ハジメ、ヒーロー、もう外に戻っても大丈夫そうだよ」
外の様子を逐一調べ続けていた智恵が立ち上がった。
「もう決着が付いたのかな?」
「いいや、連合軍が撤退したそうだよ」
「そう……」
「安心した?」
「うん、総統がむやみに戦争をする人じゃなくて良かった」
「ハジメちゃんらしいね」
「お、ヒーローももう歩けそうかい?」
「うん、大分よくなったよ」
「じゃあ、帰ろうか」
普段の流れだとこういう時はハジメが指揮を執って行動を決める事が多いのだが、今日は智恵が2人を促した。
「皆さーん!もう大丈夫みたいなので帰りましょう!」
そして、ハジメ周りの人々に智恵の得た情報を元に帰宅を促す。
こういった時のハジメの行動力は智恵には真似できない事だった。
人込みに揉まれながらようやく地上へ辿り着いた頃には外は既に暗くなっていた。
タクシーを待つ人が列を作り、帰る手段の無くなった人は地面に座ってうなだれている。
「ハジメちゃん、家まで送っていくよ」
「ヒーロー、わしも送ってくれてもいいんだけど?」
「あ、ごめん。智恵ちゃんの家はすぐ近くだからと思ったけど、皆で智恵ちゃんの家に寄ってから次はハジメちゃんの家に送ってくね」
「全く、さっきまで倒れていたくせに元気なもんだ」
「もう、せっかく無事だったんだから皆で仲良く、ね?」
「わかったわかった、じゃあ行くよ」
意気消沈した人々を縫うように3人は手を取りながら智恵の家へ向かう。
道路には明るい間に避難が終わったのか車の影は無く、路面店の明かりも無く静寂に包まれていた。
「おばあちゃん、ただいま」
智恵が玄関の戸を開くと祖母の優子が横たわっている。
「優子さん?!」
ハジメが靴を脱ぐ間もなく優子に駆け寄ると大声で目が覚めたのか、ハジメに食いかかってきた。
「ハジメちゃん?!智恵は?!」
両肩をワシ掴みにされたハジメは目に涙を浮かべて優子に抱き着いた。
ハジメの背中に智恵の姿を見た優子も目に涙を浮かべてハジメを抱き、笑顔になる。
「智恵、おかえりなさい」
「おばあちゃん、ただいま」
智恵も力が抜けた様に玄関に座り込みくすくすと笑い出した。
「優子さん、冗談がキツイですよぉ」
ヒーローも優子が生きていた事に安心して頭を抱えて壁にもたれかかる。
状況が状況なだけに優子が死んでしまったのではないかと勘違いした一同は苦笑いをしながら顔を見合わせてそれぞれの無事を確かめ合った。
智恵を送り届けたハジメとヒーローはどちらかという事も無く手を繋いでハジメの家へ向かっていた。
携帯電話で時刻を確認すると既に深夜を超えているようで、当然地下鉄も動いておらず、所々で立ち寄った駅前にもタクシーを待つ人が長蛇の列を作っていて一向に動く気配がない。
ハジメの家までは智恵の家からは歩いても30分程で辿り着くことが出来るため2人は疲れ切った足を引きずるように歩いていた。
無言で歩く二人の足音に交じって携帯電話の震える音が鳴る。
「ハジメちゃん、携帯鳴ってない?」
「あれ、ヒーローじゃない?」
同時に携帯電話を取り出した2人の画面には見慣れない案内が表示されている。
〈政府からの要請でアプリケーションが強制インストールされました〉
「ハジメちゃん、これって」
携帯電話の画面には〈国勢調査アプリ〉という文字が刻まれたアイコンが表示されていた。
「あっ……」
強制的にインストールされたアプリケーションは強制的に起動し携帯電話の画面に一つの文章を表示させる。
<あなたは、現総統の行っている社会のゴミの日についてどう感じますか?>
短くも明確な問いの下には<支持><不支持>の選択肢が用意されていてどのような操作を行ってもこの画面から離れられず、一度画面を暗転させても再びこの画面に戻るだけだ。
「なんなのこれ……」
「ハジメちゃん、どうしよう?」
「こんなもの、もちろん不支持に決まってるじゃん!」
躊躇なく不支持を押したハジメの画面は次の画面に映り、
<不支持を押したあなたは社会のゴミとして回収される心当たりのあるようです この結果は国勢調査アプリの不支持者リストに掲載されます>
「何これ……なんなの?!」
「ハジメちゃん!これ!」
ヒーローの携帯画面には不支持者リストという表題と共にハジメの顔写真と本名と距離が示されていて顔写真の下には要注意人物という注意書きまで添えられている。
「なんなのこれ?!超ムカつく!」