2、最初の日曜日
先日の放送から2日、世間はあの放送の話題で持ち切りだった。
特に変わった出来事も無くハジメ達のクラスでも誰かの悪戯だったのではないかと噂になっている。
新学期も始まり今までと変わらない日常だ。
ただ、あの放送があってからは年配者を見かける機会が減ったようだった。。
放送を見た年配者の様子を考えると無理もないと思うが放送があった次の日などは電車内に若者しかいない程だ。
放送当日の夕方から国会が乗っ取られたという事もありメディアのカメラ等で人垣が出来ていて未だに昼夜同じ内容の繰り返しだった。
門は閉められ、電話も通じず、衛星からの映像でも何も捉える事が出来い。
目撃者の話だと沢山の黒い円盤が国会に飛んで行った、という話が多く寄せられている。
自衛隊の話では飛翔体はレーダーに捉えられておらず、国会内部に着陸するほどの距離に飛翔体が飛んできたのであればステルス戦闘機であっても捉える事の出来る技術は既に持ち合わせているという事だった。
そして<社会のゴミの日>と呼ばれた日曜日が訪れた。
「ご馳走様でした。お母さん、私、部活行ってくるね」
抱きしめられ、震える母を目の当たりにしてしまったハジメは日曜日に部活に行くと言い出せずに当日を迎えてしまった。
「ハジメ?!待って頂戴!」
出かける準備をしておいてこっそりと家から出ようと思っていたが好美は柄にもなく小走りで玄関までやってきた。
いつもなら台所でお皿でも洗いながら返事だけをするのだがハジメの予想通り出掛ける事に反対のようだった。
「この前の放送もあるんだから、今日は部活お休みでもいいんじゃない?」
「だめだよ、智恵と約束しちゃったもん、約束は守らなきゃだもんねー」
「そんな事言ったって……」
「大丈夫、ちゃんと気を付けるから、じゃあ行ってきまーす!」
「もう!ハジメったら!」
最後はまくし立てるように玄関を飛び出してエレベータに乗った。
「今日は街中がどうなっているかこの目で確かめてみなきゃ!」
これといって約束はしていなかったが日曜日に集まるのは定例になっていたので満更でもない。
それよりも日曜日が実際にどうなるのか確かめたくて仕方なかった。
自宅から電車までは5分もかからない位距離で駅まではあっという間だ。
その間普段と特に変わった様子はない。
ただ、いつもよりも人出が少なく案の定年配者の姿は殆ど見られない。
ハジメは溢れ出る好奇心に身を任せて足早に駅に向かった。
駅のホームにはいつも人が多く、今日もこれから商業施設へ出勤するであろう若者で溢れている。
ハジメは電車はまだかと左右を見渡しお気に入りのポニーテールをなびかせながら次の電車を待っていた。
ようやく到着した電車に乗り込み吊革を掴む。
いつお年寄りが乗り込んで来ても遠慮なく座席に座れるように吊革を掴むのが習慣になっている。
だが、終点近くというのもあって残り少ない座席はすぐに埋まってしまった。
発車間際、扉が閉まる瞬間に若い男が無理矢理乗り込んできた。
「はぁはぁ」
かなり急いでいたようで肩で息をしている。
「おい!ババア!俺はこれから仕事なんだよ!働いてない老害は席に座るんじゃねぇよ!」
男は座席に座っている老人の前まで行き、暴言を吐きながら足元を蹴り飛ばす。
「ちょっと君!何してるのよ!自分勝手な言い分にも程があるでしょう?!」
ハジメは男の身勝手な行動に腹を立ててつい間に入ってしまう。
「なんだとこのガキ!お前だってこんなババアが居なければ座れるんだろうが!」
「私はいつも座らないからいいの!あなただって後2駅なんだから少しくらい立っていればいいでしょう?!」
「うるせぇ!口答えするな!」
男が拳を振り被ってハジメに殴り掛かろうとしたとき、何者かが男の腕を掴んだ。
「っお?!てめぇ、邪魔するんじゃねぇ!」
男が振り返った先には先日の放送にうつり込んでいた軍服の男だった。
軍服に身を包み両手には手袋、軍人には似つかわしくない細身のサングラスをかけている。
先日の放送ではかなりの大男に見えたが隣に立っていた女性が極端に小さかっただけのようで智恵と同じくらいか少し大きい程度だった。
先程まで車内にいなかった。
それともずっと乗っていたのか隣の車両から移動してきたのかすらわからなかったが身の危険を感じてハジメは大きく後退った。
「お前には教育を施す価値はない」
「おい!放せ!おい……何する気だよ、やめろ!やめ……」
軍服男は腕を掴んだまま右手よりも明らかに大きい左手で暴れまわる男の顔を握りつぶした。
「きゃー!「うわぁー!」
車内は一瞬で阿鼻叫喚の空間に変わり恐怖の悲鳴でひしめき合う。
目の前に座っていた老婆も軍服男を見つめたまま開いた口が塞がらず、降り注ぐ血飛沫を浴びていても微動だにしない。
ハジメも恐怖のあまり暴れまわる自分の膝に負けないよう手すりにしがみ付いた。
「貴様らよく聞け!これが社会のゴミとなったものの末路だ!こうなりたくなければ理性を身に着け善人である事に努める事だ!」
そして軍服男はハジメの方を向き動きを止める。
(やばいやばいやばいやばい!)
次は自分かと覚悟し、手すりを持つ手にも力が入らず座り込むと丁度次の駅に付き、軍服男は死体を引きずり電車を降りて行った。
あまりの出来事に放心するハジメの耳にはようやく押された非常ボタンと駅のホームに鳴り響く非常ベルの音しか聞こえなかった。
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