17、総統府襲撃
麗子の話が一区切りしたのか、麗子の話す気力がなくなったのか急遽討論会は打ち切りとなり次の日に総統と話してみると良いとの事で対談の予定と取り付けてもらう事ができた。
と言うより総統と話すよう半ば強引に手引きされた様に感じたが一度総統と話そうとしていた手前断わる理由も無かった。
「ハジメ、明日総統に会ったら何て言おう?」
ハジメと智恵、ヒーローは一度ヒーローの部屋に集まって作戦会議を行う事になった。
「私は麗子さんに言った事と同じ。強制的に連れて行くのは違うって言わなきゃ」
「でもきっと麗子さんと同じような話になって決着が付かないんじゃないかな。僕は麗子さんよりも総統の方が強い意志で動いていると思うよ」
「ヒーロー、珍しくまともな意見だね。ワシもそう思う。せっかくの機会だから手を貸すふりをして内部から壊してしまうのが手っ取り早いんじゃない?」
「僕は一度総統の話を聞いてみてからで良い気がする。国会を武力で制圧するほど行動力がある人なんだから一応警戒しておかないと」
「私は思い切ってちゃんと聞いてみたい。どうしてこんなことをするのかって。麗子さんが送り出してくれるんだから危ない目には会わないでしょう?」
「ワシはもうわからないから、明日総統の態度を見て決めたらどう?相手が威嚇してくるならよけいな事は聞かない。友好的に接してくるなら色々聞いてみようよ」
それぞれの意見が平行線を辿った頃智恵の一言で作戦会議は終わり、総統との話し合いの内容は本番へと持ち越される事となった。
翌朝、麗子に見送られて3機のドローンによって総統府へ降り立った3人は軍服男に案内されて総統の待つ応接室へ向かった。
扉を開けると総統が椅子の前に立ち、ハジメ立を歓迎する。
「よく来てくれました。麗子さんから話は聞いています。どうぞ座ってください」
3人は総統に促されるまま長椅子に並んで座り、総統は正面、軍服男は総統の斜め後ろに立ったままだ。
「何か話したいことがあるようですね」
総統は椅子に深く腰掛けて背筋をぴんと伸ばし膝に手を重ねてハジメ達をゆっくりと見つめる。
その目は瞬き一つもせず、顔の動きもハジメから智恵、ヒーローへとゆっくりと動いていく。
「もう、人を連れ去るのをやめてもらえませんか?」
ハジメが先日言っていた様に口火を切る。
ハジメの声に反応してヒーローに向いていた総統の顔がハジメの方を向く。
不気味だった。
顔の動作が以上に早く、ハジメに目を合わせてぱちぱちと2度瞬きをしたがまるで瞼だけでハジメを威嚇しているかのように見えた。
「なぜですか?」
総統は表情も変えずにハジメに聞き返す。
「総統の言う様に理性が足りていない人がいるのは確かだと思います。でも、進化はゆっくりと進行していくもので私達が強制的に促す事は出来ないんです。もう少し長い目で見て人の進化を促せるような政策に転向すべきだと思います」
「それは既に検討済みです」
一瞬ハジメの顔が晴れやかになる。
「ですが、不可能だと既に結論付けられています」
「何故ですか?」
再びハジメの眉尻が下がり、総統へ食い下がる。
「理性の無い個体の繁殖力が異常な為、理性を持った人間が理性の無い人間に食い殺される世の中になります。戦争が起こらないのは平和になったからではありません。皆武器を持ったからです。犯罪が増えるのは監視する者がいないからです。資本主義で経済が回るのは理性が足りない人間の方が多いからです。わかりますか?」
「わかります。でも、あなたのやり方も理性が無い行動と言えるのではないでしょうか?あなたの考えを全ての人に押し付けるようなやり方、私が止めてみせる!」
「ちょっとハジメ!」
熱くなって立ち上がるハジメを智恵がなだめて再び椅子に押し込む。
「止めてみせてください。あなたが止めようとすることを私は止めません。だからと言って私は止められるまで止まる気はありません」
総統の思いがけない言葉にハジメは顔が熱くなった。
<まるで相手にされていない>
そう感じたからだ。
馬鹿にされているような感覚とどうしようもできないという感覚が入り交じり、怒りにも悲しみにもならない感情に支配された。
「あなた方は恐らく私を止められるでしょう。私はあなた達を手にかける事はしませんし、止められたいんですよ。子供の反抗期に向き合うのも親の楽しみですからね」
「「「えっ?!」」」
総統の衝撃的な発言に3人は声をそろえる。
「どういう事?!」
今まで静観していた智恵も声を荒げて総統を問い詰める。
「お願いします」
総統が後ろに立つ軍服男に一言かけるとハジメ達は総統と軍服男の2人によって国会の外へと放り出される。
「ミサイルが飛んできています。今すぐにここから遠くに離れなさい!」
「え、なんて?!」
ハジメは先程の総統の発言とミサイルが来るという話、何より人の域を超えたスピードで屋外まで振り回されて来た事で現在の状況を把握できていないでいた。
普段から運動不足な智恵やヒーローは目を回している。
「お願いします」
総統は軍服男に一言声を掛けると人の域を超えた大きな跳躍をして国会の一番高い先端部分に降り立った。
軍服男は両脇に智恵とヒーローを抱えている。
「ねぇ!どういう事?!」
「走れ!」
訳も分からずに先程とは一変して人並に走る軍服男を追った。
ハジメは国会の建物から離れるように真っ直ぐ軍服男の背中を頼りに走りながら総統の言っていたミサイルが来るという言葉が気になり時折後ろを振り返った。
すると上空で大きな爆発が起き、熱風と地面が震えるほどの衝撃が走る。
まだ死んでいないと気付いた時、軍服男がハジメと智恵、ヒーローを衝撃から守るように抱え込んでいた。
体調不良と共に落ちてたので更新が遅くなりました……