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第2話 異邦人の憂鬱

 そうして、異世界転生を果たして、数日経った俺だが、正直なところ憂鬱だ。


 異世界転生者専用の職業斡旋所というのは、一言でいえばお役所のようなもので、事務的に、書類を書かされて終わり。就労までの給付金ということで、この世界の貨幣を、2ヶ月食っていくのに困らない程度渡してくれたのは幸いだろうか。就労先については、時間が経てばわかるので、1週間後に来てくださいとのことだ。なんとも事務的なことだ。いや、人道的とは言えるかもしれない。


 それまでは何もすることがないので、はっきり言ってニートのようなものだ。幸い、大衆労働者向け食堂はあるらしく、硬貨を持っていけば食事はできるものの、味気なくて硬いパンに薄いスープ、少しの肉と言った様だ。松屋とか吉野家の食事がどれだけ美味しかったのか身にしみる。自炊をするにしても、自宅にはそんな設備すらない。


 それはいいとしても、娯楽がない。転生先の街は、大都市なのだが、それでもカラオケボックスもないし、ゲーセンもない。ショッピングセンターなんてものもないし、オタク向けの本屋さんなんてものも当然無い。人類最古の職業と言われるだけあって、娼館はあるみたいだけど、ちょっとハードルが高い。それに、残してきた《《アイツ》》にも申し訳ないし。ネットもSNSもないから、ちょっとした暇つぶしにも困る。


 せめてもの救いは、酒場があって、そこで酒を飲めることだろうか。酒で気を紛らわせられるのは、世界が違っても変わらないらしい。日々の労働に疲れた人たちや何やら怪しげな取引をしている人たち、様々な人達が集っている。


 そして、今の俺はといえば、固いベッドに横たわって、ぼーっと天井を見上げている。用意された家は、日本でいえば1Rに近い感じで、一箇所にしか窓がないので風通しも悪い。トイレが水洗式だったのは幸いだけど、お尻を拭く紙も、トイレットペーパーなどという高級なものはなく、余った紙を使うことになっている。その上、風呂もないし、蛇口をひねればいつでも水が出てくる水道もない。近くの川で水を汲んで来て、身体を水に浸した布で拭うのが精一杯だ。


 考えるのは、日本での生活。本当に楽しかった。事故にあう直前の徹夜麻雀では大勝ちしてホクホクだったし、そうじゃなくても、徹夜のテンションで麻雀をするのが楽しい。サークルの仲間と旅行に行くのも楽しかった。京都とか広島とか色々行ったっけ。難しい授業はあっても、初めて学ぶことがたくさんあった。あんな日々は二度と戻ってこない。


 そして、何より最愛の人。《《彼女》》は、ちょっぴりおっちょこちょいな所があって、それでもいつでも前向きで元気な女性だった。「暗い顔してちゃだめだよ、孝介君」なんて言葉を思い出す。人より小さめの身長を気にしていて、「子ども扱いしないで」なんて事も言ってたっけ。それでいて感動ものの映画を見たときにはボロ泣きで、その後には俺が慰めているくらい感情豊かだった。


 彼女とは、小学校の頃から一緒だったのだけど、高校生の頃に業を煮やした彼女に告白されて付き合うことになった。俺が死ぬ前には、付き合って6年目を祝ったっけ。来年は就活だからと、色々将来の事について語り合ったことも思い出してしまう。俺の死んだ後、彼女はどうしてるだろう。悲しんでいるだろうか。でも、あまり引きずられると困るから、早めに立ち直ってほしい。


 そんな事を考えていると、自然と目から雫がぽたぽたと落ちているのに気がつく。


「つらいなあ」


 拾った命を粗末にしてはいけない、と思うけど、どうやって前向きになればいいかわからない。せめて、苦労を分かち合うことをできる人がいればと思うけど、職業斡旋所の人は事務的な回答しかしてくれなくて、悩み相談などできる雰囲気ではない。

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