プーさん 1
このお話は完全に架空であり、現実の人々とは何ら関係はありません。
「長老達はお怒りです。何故に我が国で研究していたウイルス兵器に似たものが流行り出したときに、隠してしまったのか。そのために、完全に我々が作り出したものが外に漏れてしまったものとされてしまった。…その上に、何故このタイミングで、南の島々を占拠して彼等を挑発のか、ご退陣され、後進に道を譲られるべき、とも。プー様。」
ゆったりとした皮張りの応接セットを持つ赤の間と呼ばれる赤を基調とした部屋の中で、渋い顔のおじ様が、背後に立つ厳ついSP達を従えているコワモテぷっくりを諭す。
「何度も暗殺を仕掛けておいて何がお怒りだ、だ!」
「……それは、言わぬが……」
「…………」
暗闘においても、一般人には知り得ぬ何かしらのルールがあるらしい。
「奴らは流行風邪でのわずかな人命損失の可能性を忌避して空母が動かせないのだ。こういう機会に、もともとは我等が領土だったものをより確かにしておくべきだろう?何島も押さえておけば大洋へ出やすくなる。軍事的に優位になる。」
「ウイルスへの対応の件に言及できないのは、罪を認められているということですな。隣の島国を除いたほぼ世界中の国々が我が国に損害賠償を訴えているので、海外権益は見捨てることになりそうです。そして、後者の件ですが、こうもあからさまなことをしていたら、彼等に預けてある人質となっているあなたの子供も危ないのでは?」
「人質を出しているからといって、我が赤帝国を裏切るようなマネは自分にはできない。それに、奴らの国は建前が民主国家なので、我々のようなあからさまなことは出来まい。」
…彼等赤帝国の上層部は、まわりの国々が近代的な民主国家を築く中で、未だに戦国時代のメンタルなのだ。ちなみに、あからさまというやり方は、ロックダウンという状態の外国の目の届かないタイミングで、民主化を求めた属国の若者達を万単位で秘密裏に自国内へ強制連行して獄舎にぶち込み、裁判も無しに臓器を奪い、捨てていくようなやり方のことだ。
「だいたいだ。今回俺達は嵌められたんだ!なのに、なんで老いぼれどもは無実を主張するここともダメだと?…このままだと、何年もかけて国外の有力者達という愚か者達に孫子の兵法やハニトラをかけて築いた我等の富が奴ら詐欺師どもに賠償という名目で盗まれるだけではないか!」
身体は太った熊のようであるが、悪人顔の御仁が喚く。
「プー様、いくら喚かれても、我が国による世界支配計画をいったん保留にするという長老達の決定は覆りませんぞ。彼らは老舗であり、巨大なネットワークです。我等の力が充実しきる前に仕掛けられたのです。ここはあっさり白旗を掲げた方が生き残れるだけ得策と長老達は判断されました。」
「ふん。仕掛けられたからとすぐに引いてしまったら奴らに更なる付け入る隙を与えてしまうことになる。だからだ、ここは、珊瑚環礁ばかりでなく、もっと北の美味そうなステーキもひと飲みで平らげてやる!そのステーキ、もとい、島国の中で戦時皆兵の法を実施して、100万以上いる我が同朋達で一瞬にして占領してしまうのだ!奴らの目の前で従順な奴隷国をかっさらってやる!」
長老達との渋顔通信役は、処置なしと頭を振るのみであった。…いやいや、ここで投げては生き残りどころか命までとられてしまうかもしれない。
「100万人以上の手勢がいるとは言っても、武器もほとんどない状態なので、高性能武器を大量に持って駐屯している彼らの手勢にはかないません。それに、彼らは150年以上前から島国の革命に手を貸し、中央銀行を立ち上げさせ支配し、大戦イベントもさせて、世界支配の深化にも貢献させました。そして、つい最近もバブル崩壊後に銀行の自己資本率規制という世界のルール変更を武器に島国の富を収奪した。精神も経済も全て握っている状態なのですよ。それが分かっていたので、隙だらけにもかかわらず、我が国は、かの島国でマスコミ達へのハニトラレベルでの利益誘導という緩い手法に抑えていたのです。それを、我等の世界支配の機が完全に逃げてしまったこのタイミングで本当にするのですか?頭を冷やすべきです。」
「未だ世界支配の機が完全に逃げたとは限らないだろう。我等には捨てゴマとできる人命が何億といる。しかし、奴らが隠れみのとしている先進国と称するものは、実態はともかく建前上は人命を尊重しなければならん。そこに我等の勝機があるはずだ。その上に、ネットハッカー技術は、今現在おそらく世界一だぞ。」
実質、小学校しか出ていないのに、何年かトップにいたおかげで、多少は説得力のある演説ができるようになったようだ。
「我々は勝率の悪い賭けはしません、プー様。」