契約
MainCharacter:神風連夜
「それで、柚子を助ける方法っていうのは?」
「まぁまぁ、落ち着いてよ。言ったでしょ?まだ時間はあるって」
開放されている病院の屋上(三階程度)のベンチの一角で連夜はつい数分前に出会ったばかりの「死界の住人」だと名乗る奇妙な生命体を目の前に話しをし始めていた。
「分かった。なら始めにあんたは何者で何処からきたんだ?」
「死界だよ。死界。死界に住むただの死神もどきさ」
「死界って?死神もどきってことはやっぱり死神じゃあねーのか」
「うん。死界っていうのは死者の魂を天国か地獄かに送るのを判断する所さ。死神というのはその魂を現世からダイレクトに送れる上級の住人なんだ。簡単に言えば、昔の武士と農民ぐらいの差があるね」
「ギリギリ理解出来るな、まぁ常識が通用してないけど。でも、そんな箇所に気を取られてる時間も無いし。ここからが本題だ。柚子はどうして事故に遭ったのかとその救出方法を教えてくれ」
「そうだねぇ。あ!ほら現世にも人間の他に沢山の動物がいるだろ?あれが死界にもいるのさ。彼らの餌は人の魂なんだ。だから今回みたいに現世の人に干渉してくるんだよ」
「でも、干渉されても柚子はまだ大丈夫なのか?」
「うん。人っていうのはさ見えてないだけで自分を守ってくれる守護がいるんだよ。ほら、守護霊とか守護神とか言われてる。彼らが抵抗するんだよ。しかも、死界は夜ばかりだから死界の動物は日が出ている間は本領を発揮出来ない」
「守護っていうことは今は柚子の守護がその死界の住人ってヤツを食い止めているのか?」
「そういう事だね。多分柚子ちゃんの守護は弱い部類に入るんだろう。だから狙われたんだ」
「なっ!」
「でも、さっき言った通り本来の力を発揮していない死界の動物ならその弱い守護でも日没までは耐えれるはずだ。だからその日没になったら君が倒すんだ」
「え?オレが?」
「あぁ。ここなはボクがいるからね。ボクと契約することで君は柚子を助ける力を得ることが出来るって寸法さ」
「け、契約?」
「うん。これから高校卒業までの約二年間、柚子ちゃんのような人間を助けるのを手伝って欲しいんだ。ボクのようなただの死界の住人では現世に直接関与出来ないからね」
「それで柚子が救えるなら契約してやる!だが、あんたに人間を救って何のメリットがあるんだ?」
ニヤッ
その瞬間、連夜は正確に見えるはずもない黒いモヤの口の部分の端が大きく吊り上がるように見えたが、やはりその口元もただの黒いモヤだ。
「内緒さ。ボクにも色々と事情があるんだよ」
「そ……そうか」
「契約は成立だね。なら、この指輪をはめてみてくれるかい?どの指でもいいからさ」
「あ、あぁ」
連夜は立ち上がると、その指輪を右手の薬指にはめ込んだ。
「よし、行くね!」
死界の住人の合図と共に指輪から発せられた光がまとわりつくように連夜の身体を覆っていく。
「くっ!眩しい!」
それから数秒、目が開けられないほどの光が止むと連夜は自分の腕がさっきまで着ていたはずの制服ではない事に気付く。
「へ?どういう事だ?」
「ほら、君の左手を見るんだ」
「左手?おわ!」
連夜の左手に握られていたのはよく漫画や大河ドラマなどで見たことのある日本刀のような刀。死界の住人の言葉によると、その容姿は彼ら同様に黒いローブを着ているらしい。
「救出方法は簡単だよ。その刀で死界の動物をぶった斬ればいいんだ」
「え?まじかよ」
「ほら、さっさと行くよ!」
病院内へと走り出す連夜達。彼らを背に辺りは一気に暗くなる。そう、日没が始まるのだ。