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死界の住人  作者: トモ
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死界の住人


MainCharacter:神風連夜






「くそ、どうしてこんなことに……」


 

七月十七日、午後の四時を過ぎた頃ー神風連夜(かみかぜれんや)は、いつも買い物をしているスーパーを通り過ぎてこの街で最も大きいとされる病院へと全力で疾走していた。


 つい、先程の事だった。妹である柚子(ゆず)の友達から、柚子が事故に遭ったという連絡をもらったのは。

 丁度高校から帰宅したばかりの家の固定電話に珍しく呼び出し音が鳴ったときに連夜が感じてた悪寒は完全に当たってしまっていた。


 病院までの距離はおよそ六百メートル。自転車の鍵を何処に置いたか忘れてしまった連夜は直ぐに家を飛び出して来たのだ。



「はぁはぁ……明梨(あかり)ちゃん、柚子は?」



 連夜は病院に必死の思いで辿り着くと、入り口付近にいた連夜を待っていた様子で周りを見渡していた明梨に声をかける。



「連夜さん、こっちです」



「あぁ…」


 明梨に先導されるがままに連夜は病院の南側、入り口から反対側に向かうように奥へと進んでいった。


 やがて、赤くランプが光っている手術中という文字が連夜の視界に入ってくる。どうやら、一箇所だけでないようだ。それぞれの家族らしき人が目に入ってくる。



「ここで待っているように言われました」



「そうか、ありがとう…明梨ちゃん」



 すこぶる気分が悪かった。手術室の手前にある待合場所みたいなソファーが数カ所に置かれている所に明梨と一緒に座ると、柚子が運ばれたと教えてもらった手術室へと目を向ける。

 が、まともにその手術室を見ることが出来ずに顔を床に向けてしまう。色々なことを考えてしまい吐き気が収まらないようだった。



「悪い、明梨ちゃん。気分が悪いから外の空気を吸ってくるよ」



「大丈夫ですか?顔が真っ青ですけど」



「大丈夫だ……」



 ここに座ってから数分だろうか。ここに来て数分しか経っていないがその場を立つことを決めた。入り口から出ようとしたが、運ばれてくるタンカーを見るたびに柚子への最悪が事態が脳裏に浮かんでくるので、耐えられず階段で屋上まで出た。


 この病棟は三階までしかなく、屋上は出入りする事が可能だが、一応屋上の管理人に許可は取っておいた。



「はぁー、ダメだ。あの場に戻れる気がしないが……柚子が心配だ」



 屋上に出ると、中とは違って誰一人いなかった。

外の景色をよく見れるように柵のところまでいくと、手をついて深呼吸をする。

 数回すると、気分が大分和らいできた。次にあの場に行くときに気分が悪くならないように覚悟を決める。そして、自分を落ち着かせるために自身に声をかける。



「よし、柚子は大丈夫……大丈夫」



ペチペチと、頬を数回叩いてから病院内に戻る為に扉へ向かって歩き出す。



「柚子ちゃんは今のままだと大丈夫じゃないかも知れないよ、神風連夜くん」



 バッ!



 その声に反応した連夜は柵の方へと振り返った。



「なっ!誰だ!」



 そこにいたのは、柵の向こう側に空中に立たずむ人の形をした大きな鎌を持った黒いモヤだった。


「いきなり失礼だなぁ、連夜くん。ボクは死界の住人さ」



「し…死界の住人…」



「うん、そうだよ。あ!今死神とか思ったでしょ?違うんだよなぁ」



「今はどうでもいい!柚子が心配だから戻らないと」



 再び連夜が扉に向けて走り出すと死界の住人だと言い張る黒いモヤは追い討ちをかけるように言葉を放つ。



「柚子ちゃんなら今から四十分なら大丈夫だよ。まだ、日没までそれくらい時間があるから」



「なんだと?」



 その奇妙な発言に連夜はまたも立ち止まり黒いモヤの方へと向き直る。



「だからお話ししようよ!安心して!君の判断次第では柚子ちゃんを助ける事ができるからさ!」



「でも、そんな保証!」



「なら、その姿を捉える事が出来ない空に浮いたりするさ、鎌を持った人の言葉を喋る奇妙な物体をどう考える?君の名前も知っているんだよ。更に言えば柚子ちゃんが事故に遭った原因もね」



「確かにオレの生きてきた十七年間でそんな生命体見たことが無いない……。分かった、信じよう。お前の言う通りなら柚子を助けてるんだろ?」



「ふふふ、さっきまでの動揺が消えたね。じゃあ話を始めよっか」



 そう言うと、死界の住人は連夜の近くへと飛んで来るのだった。




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