会心の一撃 前編
次でラスト!!
やったるぜ!(時間かかりすぎだろ……)
「リューク一行が全員やられちまった!!」
町の話題はそればっかりだ。
勇者リューク達4人の遺体が、町の外れ、魔王の城へと通ずる道に黒い棺に入れられていたそうだ。
4人とも無残な最期だったのが、遺体の状態で分かったそうだ。
「お姉ちゃんもやられてしまったんだね」
ボクの独り言を聞く人は誰もいない。いない場所に来ているからだ。――もっとも、みんなはボクなんて相手にもしてくれないのだけどね。
ボクは一人、町の外れの森で大木に身体を預けていた。
ここまでくるのに体力を使い果たしてしまった。
「……嫌になるな、弱っちい身体」
生まれた時から病弱で、背も体力も同い年の中でも一番下だ。
家事も大人の手伝いも出来ない子供。ひたすら本を読んでいた影響で知識だけは一人前。頭でっかちな少年。それがボク、カイである。
今日も、周りの嫌な視線から逃げる様に森に向かい本を読む。
この森は安全で、人を襲うような動物や魔物はいない。そのかわり、何もない。美味しい果実や食料は実らないしいない。だから、誰もこない。――ボクの好きな場所だ。
『何をしている、人間』
どこからか声が聞こえたと周りを見回した瞬間、雲が黒く染まっていく。
そして、眼の前に大きな黒い雲が飛び出してきた!
『答えろ、人間』
それは雲ではなかった。――とてつもなく大きい黒龍だったのだ。
「……本を読んでいました。貴方の様な神獣がでる本を」
悲鳴を上げる以上の恐怖が急に襲った所為か、頭が混乱してボクは普通に返事をすることが出来たのだ。
『ほう、面白い。我を見て倒れないとは中々の精神を持っている……名を何と言う?』
「カイといいます。貴方は……魔王様ではありませんか?」
『……何故、我が魔王だと分かった?』
「ボクの本による知識によると、龍はこの世を統べる王だと書いてありました。黒い龍となれば、魔王とも呼べるのではないかと考えました。……まさか当たっていたとは思いませんでしたが」
『ふ、ふははははは!!!よい、気にいった!我にかまをかける人間がいるとはな、それもこの姿の我を』
魔王様は上機嫌に笑う。
魔王様の凄まじい威圧感が身体全体に響き、ボクの身体では耐えられるはずもなく、力尽きる様にその場に倒れる。
『どうした?……ふむ、やはりこの姿では精神的に参ってしまうか。よかろう、人間の身体まで魔力を落とすか……』
魔王様の独り言が段々と小さくなり、ボクの意識は途切れた――。
***
『……起きろ、カイよ』
低いズシリとした声でボクは目を覚ます。
起き上がると、そこには白髪白衣の老人が切り株に腰を下ろし、こちらを冷たく見下ろす。
「あ、貴方は……?」
『お主で言うところの魔王だ。本来の姿ではお主の体力が持たないだろうからな、人の姿になったのだ』
「お気遣い頂きありがとうございます。黒龍の姿とは全く違うのですね」
僕は魔王様の長い白髪を見て感想を述べる。
魔王相手に普通に会話出来ていることに多少の疑問が浮かんだが、話し相手が出来たことは嬉しい。
『ふむ、膨大な魔力を抑えた代償だな、老人姿は我の年齢によるものだろうな』
「なるほど……」
『――して、カイよ。何故このような所で一人本を読んでいた?』
魔王様は口調こそ厳しい声だが、敵意を向けることなく話してくれた。
嬉しいな……ボクは自分の生い立ちや現状を包み隠さず話した――。
***
『――そうか。身体が弱く何も出来ない、お主を可愛がっていた女は我の部下に命を絶たれたか……』
「はい――。ですが、正直お姉ちゃんのことは煩わしいと感じていました。いつまでも子供扱いをされ、胸を無理やり押し付けられ、怒っているのにそう思われたりしていなかったのです」
『命を落として清々したか?』
「とんでもない!悲しいですけれど、生死を覚悟して向かったのですからしょうがないと思っています」
『ふはは、幼く見えるが知力は中々あるようだな。考え方も面白い。褒美をやろうか?』
「褒美……ですか?生憎、財宝など頂いても宝の持ち腐れになります」
『財宝ではない。お主の身体、強くしてやろうというのだ』
心臓が跳ね上がるのを感じた。
「で、出来るのですか?」
『ああ、死ぬかもしれんがな。何せお主の身体は弱いからな。だが、精神力は凄まじい。自分自身では気づいていないだろうがな』
魔王様の言う通り、そんな力がボクにあるなんて知るわけがない。
『普通の人間なら、我の姿を見ただけで心臓が止まる』
たしかに、あの姿は恐ろしく怖かったが、心臓が止まるほどではなかった。
『少し前、お主と同じ様なひ弱な人間にあってな。我の爪から創った剣を渡したら、勇者気取りになって我の城に来れるくらいのことがあったのだ』
「その勇者はどうなったのです?」
『幹部の一柱が退治したと聞いている。我の所まで来てくれるかと期待はしていたのだがな。がっかりだ』
「退治されるかもしれないのに、がっかりされるのですか?」
ボクが目を丸くさせると、魔王様は薄く笑い「暇なのだ、他退屈なのだ」と溜息交じりに吐き捨てる。
「……ボクが力を得て、魔王上に乗り込むと言ったら?」
『その為に力を与えるのだ。――いや、我も乗り込みたくなったな 』
「ど、どういうことですか?」
自らの城に乗り込む?訳が分からない。
『たまに城から出て、人間の姿になったりして、暇つぶしを探していたのだ。今のようにな。お主……いや、カイには我の力を受け止めれる素質がある。カイと我が合体したら魔王討伐も夢ではないとは思わんか?』
魔王様はニヤリと笑う。
ドクンとまた一段と胸が熱くなる。
本の中だけだと思っていた、勇敢なる勇者の冒険譚。それがボクにも出来るのか……!!
『決まりだな。今日からお前の名は"カイ・シン"と名乗れ』
「"カイ・シン"?」
『"シン"は我の真名の一部だ。臣下どもにも名前にシンがついている。力を与えたり、信頼できる者に真名を与えることで力の恩寵を賜ることが出来るのだ』
「そうなんですか……。人間の決まり事ではそういったことがないですね。取り入れるべき文化ですね」
『御託はいい。――始めるぞ』
膨大な黒い魔力がボクを包み込む――!
***
数年後、一人の少年が魔王城に単独で攻めることを決意する。
名をカイ・シン。
町の者は笑い、カイ・シンと剣を合わせた者は納得の顔をして、真の勇者の後ろ姿を見つめるのだった――。