慈愛の魔術師
これ書いたの何時?
え?五月!!――時がたつのは早いですなぁ(張った倒すぞ)
すいませんでした、後2話で完結する予定です。
にしても、酷いパーティーだこと(笑)
早く町に戻ってカイを抱きしめたい。その思いでいっぱいだった。
勇者一行の一員となり、魔王討伐なんて現実離れした行動に出たのも、町にいる少年”カイ”のためであった。
カイは生まれつき身体が弱く外に出れなかった。
男の子は外で大人のお手伝い、女の子は家で家事のお手伝いが一般的な中、カイはどちらも出来ない。家か木影で本を読むくらいしか出来ないのだ。
「ごめんね、私にもう少し実力があれば、貴方を元気にする魔法を唱えてあげたいのだけど……それか大金を手に入れれば身体を良くする薬が買えるのだけど……」
「気持ちだけ受け取っておくよお姉ちゃん、何の取り柄もないボクのためにそこまでしてくれなくてもいいんだから。お姉ちゃんが話し相手になってくれるだけでボクは十分なんだからさ」
カイは虚弱の所為か友達がいない。
同世代の子がやっていることが出来ないのだから仕方ないのかもしれないが、この年で相手を気遣うことの出来る器は素晴らしいと思っている。
そして、なによりも可愛いのだ。白い肌と愛くるしい顔立ちが私の心を掴んで離さない。
「――カイ!!」
私はカイを想いっきり抱きしめた。カイの顔は私の胸に埋まり、苦しそうに私の胸の中で暴れる。
「むーー!!」
至福の瞬間である。
苦しいのは分かっているのだが、顔をどけようとして私の胸を弱い力ではあるが乱暴にこね回す動作、触り方が心地よいのだ。思わず声が漏れてしまうほどに……。
「ごめんごめん、大丈夫」
「はぁ、はあ……苦しいったらお姉ちゃん。や、やめてよね」
そんなことを言いながら、頬を真っ赤にして満更でもない表情も大好きなのだ。
小さいといっても物心が付いてきている。
私の身体にも興味津々なのは知っている。
何人もの男が釘つけになる私の胸を好きにしていいのだ、もっと味わって欲しい……そのためにも魔王討伐なのだ。
魔王討伐に参加する者は英雄の様に扱われる。生死は問わず。
勿論私は死ぬつもりはない。
英雄の地位と財宝を手に入れてカイの虚弱を直すのだ。
そして、二人で幸せに暮らしカイと毎日のように戯れたい。
私の密やかな夢。カイも嫌とは言うまい。カイのために私は頑張ると決心をしたのだ――。
***
「決戦の時はきた!覚悟はいいか!!」
いよいよ魔王幹部との戦いが迫った。……と勇者は思っているだろうが、私と弓使いのライトはそう思ってはいないだろう。
先程、探索士のルイスが命を落とした。
その彼が死に際にゴブリンが魔王幹部だと言い残したのだ。
しかし、どうにも信用出来なかった。彼はよく嘘をつく癖がある。今回も自分の失態を誤魔化すために適当なことを言ったのだろう。
何を信じればよいか分からなかった。というのが、私の考えだった。
勇者は仲間の事を信じていているようだが、実際には自分の発言に自己陶酔しているだけの人間だというのが分かってきたからかもしれない。
古臭い言葉使い、何度も聞いた聖剣の自慢話、敵を倒した時に得意げに私に見せびらかしてくるのだ。そして、何よりも私の身体に興味があるようだが、堂々と見るわけではなくチラチラと横目使いをして見てくるのだ。……彼は勇者ではない。と私は感じてしまった。
ライトは弓の名手ではあるが、弁は達者な割にいざ戦闘となると途端に小心者になるのだ。そして、勇者と同じく私に興味があるのは察していたのだが、単純に目付きがいつもいやらしかった。
異性間の話しを述べるとルイスに関しては一番酷い。
彼の場合は「アーデルン、リュークにはばれない様に財宝をくすねてきた。金が欲しいんだろ?わかるだろ?」と言って、財宝と引き換えに身体を求めてくる始末だ。当然断った。
こんな仲間達といるのは我慢の限界であった。
タイミングを見計らって、町に帰ろう。
城の中で見つけた、高価がどうか分からないが、ある程度の魔法瓶や呪文書は手に入ったのだ。その筋に売ればある程度の値はつくだろう。
後は生きてカイを抱きしめるだけだ……。
***
魔王幹部のいるであろう広場を待っていたのは、まさかのゴブリンであった。……ルイスの言っていたことは本当だった?
彼には”観察眼”と呼ばれる遠くの者を細かく見ることが出来る力を持っていた筈……嘘にはある程度の本当を入れることで成立するとルイスは自慢していたし……。
あのゴブリンが魔王幹部なのは信じられないが、ゴブリンが出てきたのは真実だ。
おそらくゴブリンに、罠にかかった所を見られ、何とか観察眼を使い、ゴブリンの動向を確認したら魔王の幹部がいたのだろう。
ゴブリンを魔王幹部という重要な役割に設定したのには理由があるのではないのか?……もしかしたら本物の魔王幹部は一柱とは限らないのであろうか?
何柱もいると分かり、それを悟られると私やライトが「町へ撤退する」と言うかもしれないと踏んだのかもしれない……流石に考え過ぎだ。根拠も無いし、たまたまだろう。
だが、私の仮説が当たっていたら今すぐにでも逃げるべきだ、この場で突っ立ている必要はない。
私は下に下りられるであろう螺旋階段が眼に留まると、周りの様子など気にせずに駆けだす。
中央の広場では大きな音がしている。勇者が戦っているのだろう。
ゴブリンの邂逅で意識は完全に思考に回っていたので、状況は掴めていない。が、どうでもいいここから逃げよう。
「……アーデルン!?」
声を掛けられ驚いて隣を見ると、並走しているライトがこちらを見て同じ表情をしていた。
「!!――ライト?」
「何をしている?」
見て分からないのか、逃げているに決まっている。ライトも私同様に遠距離での援護をするつもり……がないのが見て取れる。彼は弓、私は杖を肩に掛けているからだ。
「こちらの台詞です!」
貴方は勇者と共にくたばって貰いたいのだ。
何故、私と並走している?
理由は、簡単である。
彼も私と同じ理由だからだ、ここから逃げるという一択だろう。
「早い所逃げるぞ!!」
「ええ!!」
ライトの強い剣幕で勇者とゴブリンとの戦いが拮抗していて、危ない状況だというのが分かる。
私は内心喜んでしまった。無事に逃げれた時の言い訳係が増えた事にだ……。
ルイス程ではないが、口は私より立つ方だ。
間違っても勇者が1人で魔王討伐しないでくれよ。――と、考えたのが悪かったのか、勇者は私達が遠距離攻撃に適した場所に移動したと勘違いをしたのだ。
大声で私達の居場所を伝えてしまう勇者。
勇者を射殺すかのような睨みをするライト――。
私が分かっているが「……どうします?」と尋ねると、やはり援護する、という回答が返ってくる。
ここばっかりはしょうがない。三人で協力してゴブリンを倒し、疲弊しているであろう勇者を……殺す。
ライトがブツブツと愚痴を呟いた瞬間だった。
もの凄い音と共にライトが後ろにぶっ飛んだ!
敵の攻撃が飛んできたのだ!
勇者を一瞥すると、疲労困憊、虫の息なのが遠目でも分かる。
彼はもう駄目だ。予定通り、ライトと共に脱出するのに全力を尽くす!
私はライトの忠告を無視して、彼に治癒魔法を施す。
これは酷い、顔がぐちゃぐちゃだ。生きているのが不思議なくらい。
治癒魔法は癒す相手の事を考えなければ威力が弱まる。
とどのつまり、彼を癒せなかった。
命を懸けて仲間を癒そうとした。という、自己満足な考えだった。
私はこんなにも汚れた人間だったのか。
魔王を討伐するつもりが、自分の非道な浅ましさを感じながら、私は逃げる事に精一杯だった。
それでもいい!カイに会いたい!!
ゴブリンがもの凄い勢いで迫ってくる……!
「――逃げろ……!」
ライトは弱弱しい声で私に逃げる様に促す。
私にそんな慈愛に満ちた眼で見つめないでほしい。
私は階段に向けて走り出す!
後ろは振り向かない!振り向けない……!
嫌な音が耳に入ってくる。ライトがやられたのだ。
次は私か!――だがもう階段を下りている!!
下りている?……足が動かない、どうして?
ゆっくりと視線を下げると、胸に矢が突き刺さっている。
そうか、そうか……。ライトの弓を使ったのか。
馬鹿だな、私は。ライトを治療した後、矢を持っていけばよかったのか。
どこまでも非道な私の考え。
罰が今あたったのだ。――――カイ、愛してる……。
私は念願の階段を下りていく。
いや、転がっていくのだった……。
間違えて違う作品に乗せてました(笑)
消えたと思ってあせったあせった