君に届け、弓使いの最期
ライト編です。
次回はアーデルン編。
そろそろ佳境です。
逃げてやる。
そう心に強く留めたのは、仲間のルイスが命を落とした時である。
ルイスは俺達を鼓舞して息を引き取った。
俺達に闘志を燃やせる為だというのは分かってはいるが、心と身体が拒否を起こす。
俺はこんな馬鹿と同じになりたくないと心から願うのだ。
それもそうだろう。奴のポケットや鞄から、どこからくすねてきたか分からん財宝が見え隠れしているのだ!
それに、奴は根っからの嘘つきだ。さっきの話も半分以上嘘で誤魔化したに違いない。
「死んだ友を馬鹿にするのも、亡くなった者に触れてもいけない!勇敢に闘った痕跡をそのまま残すのが私達が定めている規則だ、いいな?」
頭の固い勇者様は、面倒くさいことを言い出す。
こいつは毎回自分の言った言葉に酔いしれる傾向がある。だからなのか、昔ながらの規則を重んじる癖があった。
……こいつを身代わりにしよう。俺の中で魔王討伐よりも固い決意が芽生える。
この後の戦闘――いや、強敵と出くわした時に遠距離攻撃をする振りをして、とんずらしてしまおう!
俺は弓使いだ。敵と離れることに違和感はない。今までだって援護射撃で貢献している。勇者が剣を一心不乱に振り回している間にここから脱出を試みることにしよう……。
***
「決戦の時はきた!覚悟はいいか!!」
勇者は大声で俺達に問いかける。
俺とアーデルンは当たり障りのない言葉で返す。
大丈夫、逃げる覚悟は出来ている。
暫くして、大きな広場で俺達を待っていたのは意外なことにルイスが言っていたゴブリンであった……。
ルイスの嘘ではなかった!?……いや、それよりもゴブリンの服装って……清掃服じゃないのか!?
「くっ!……流石は魔王幹部。禍々しい力を放っている!!」
確かに、もの凄い力を感じるが、こいつは間違いなく幹部ではない。……どこからどう見たってこの城の掃除係のゴブリンではないのか?
「はああああぁぁぁぁ!!!」
勇者はゴブリンの身なりなぞ気にしていないのか、霊験あらたかと勇者が毎回の様に謳っている聖剣を使い、戦闘をし始めた。
これでは逃げれないな、相手は幹部ですらないのだ。勇者の剣で一刀両断だろう。おそらく、奥に見える階段の先に本物の魔王の幹部がいるのだろう。
そこで逃げよう。……そう思ったが、事態は急変する!
「……やるな!だが、負けん!!」
実力が拮抗しているのだ。
嘘だろ。相手は掃除係だぞ?本物がこの先にいて、更に本物、つまり魔王が控えていることになる?――冗談じゃない!!
気付くと、俺は足音をなるべく立てない様にして、この広場にある、下に下りられる螺旋階段に向かって走っていた。
俺は走りながら後ろを振り返る。
奴らはまだ接近して剣を交えている。大丈夫だ。
「……アーデルン!?」
「!!――ライト?」
首を前に戻そうとした時に、俺の視線に入ったのは、俺と同じ様に足音を殺しながら走っているアーデルンだった。
走るのに夢中でアーデルンの存在に気づかなかったのだ。
「何をしている?」
「こちらの台詞です!」
後ろの馬鹿どもに気付かれない様に小さい声で会話をする。
俺はアーデルンの瞳と、踊る様に揺れている乳房を見つめる。
走りながらではあるが、アーデルンの眼を覗くと俺と同じ考えだというのが、なんとなくだが分かった。
「……早い所逃げるぞ!!」
「ええ!!」
俺達はお互いの言葉に頷き、螺旋階段へと近づく。
――もう少し!!
その時だ、悪魔の声が聞こえた。
「良くやった、二人とも!援護を頼む!」
疲弊した顔で勇者は大声で俺達を呼びやがった!
「――!!」
ビクッと身体を震わせ足を止める。
俺達は声のする方へと身体を反転させ勇者を殺す勢いで睨むのだった。
あと少しだったのに、ゴブリンにも気取られたじゃないか!何が「良くやった」だ、喧嘩を売っているのか!
「……どうします?」
「しょうがない!̠援護するしかないだろう、言い訳は後で考えるぞ。大丈夫だ、あいつは頭でっかちだから――」
ビュオン!!!
「――頭でっかちだから、何とでも言いくるめられる」と、言おうとした瞬間だった。
風を切る音が聞こえたと思ったら、俺は後ろに吹き飛んでいた。
「――――!!!」
何が起こったのかわからない。
呼吸が出来ない。
俺は死んだのか――いや、死んでいない。
顔が焼ける様に熱いのだ。
眼だけは何とか動かせれる。辺りを可能な範囲で見渡すと、ゴブリンの持っていた棍棒が転がっていた。
……そうか、棍棒を投擲したのか。ベッタリと付いている血は俺のか。
「――ラ、ライトーーーー!!!」
遠くから勇者の馬鹿でかい声が聞こえる。
「畜生……お前の所為だ、お前の……」
「ライト!今治療します、喋らないで!」
「……すまない、恩に着る」
アーデルンの両手が蛍色の様に光だし、俺の顔を治癒してくれる。……お湯に浸かっている様な心地よさが顔じゅうに満ちてくる。
痛みが大分消えてきた。どうやら鼻が折れ、頬骨もやられていたみたいだ。
もう少し治癒して貰えば動けるようになるだろう。と安易な考えはゴブリンがこちらに向かってくることで一蹴された。
「――ライト!動けれますか?」
アーデルンが必死の形相で俺に問いかける。
「……身体が思う様に動かない。――逃げろ」
折角アーデルンが治療してくれたのに申し訳ないが、身体が動かないのだ。寝起きの時みたいな気怠さに似た、身体と床を縫い付けられた様な感覚に陥っている。
「くっ……!!」
アーデルンは悔しそうな表情を見せ、俺の視界から消えていった。
同時にゴブリンがこちらに近づいてくるのが分かる。分かるが動けない、悲しい事態だ。
「――!!」
遠くから何かを叫んでいる勇者の声が聞こえる。どうやら、やられてはいないようだ。では何故、こちらに来る?
「勇者を騙そうとした罰だな、まったく」
自傷を込めてポツリと空に向けて語りだす。
「あいつの強さを信じていた、町であった時にこいつとなら魔王討伐も夢ではないと確信していた。……筈だけどな、こなければ良かった。……アーデルン、こんな窮地の中でも俺を助けてくれたお前を愛している。お前こそ真の勇者だ、絶対に生き延びてくれよ……」
ゴブリンが眼の前まで来ていた。アーデルンは螺旋階段に向けて一心不乱に駆けている……よし、いいぞ頑張れ。
ゴブリンが手を振り上げているのが分かる。
俺は眼を瞑り、最後に言い残したことを言い遂げる。
これを言わなければ、死んでも死にきれない。
「……勇者リュークよ、……お前はくたばれ!」とゴブリンに向けてそう言い放つのだ。
頑張れアーデルン、負けるなゴブリン。
ゴブリンの強靭な腕が振り下ろされた瞬間から、俺の意識は消えていった……。
後書きの内容を考えるより本文を書こう。
……何でしょう、WANDSの曲みたいですね(笑)
愛を語るより口づけをかわそう。みたいなね。
分かる人いるのかな?