宝箱の隣で英雄は眠る
もっとサクサク書くつもりだったんですよ、奥さん?
本当ですって、奥さん!!
……何だよ、この昼ドラみたいな文章(笑)
――もう少し、続きます。
次はライト・アーデルン編です!
内容は……書かなくてもわかるよね♪(書いてください)
やってしまった。
俺は自分の食い千切られた身体を、冷や汗を流しながら悲しく見つめる。
先程、俺は阿保みたいな罠に引っかかった。宝箱からとても希少な宝石類が見えていた。それを取ろうと思ったら、バクリと宝箱から牙が出てきやがった!
ここまできてこんな簡単な罠用意しておくなよ!と魔王の城の者に心中で怒りをぶつける。
探索士が初めに習う教えは『宝箱には触れるべからず』だ。だが、それはあくまでダンジョンの中に限る。と俺は思っていた。
死ぬ思いでやっと来た魔王の城。このフロアに来るまでの道中、様々な巧妙な罠が設置されていた。こんな初心者向けの罠、用意しないだろうと誰だって思うだろ……ちくしょう。
「……これはもう駄目だな」
食われた瞬間の激痛で神経がいかれてしまったのだろう。
痛みは何故かない。そして、もう助からないという事実が俺の頭にこびり付く。酒樽をこぼした様な出血だからな。……ふと、虚ろな瞼で周りを見渡すと動く物陰が見えた。
前掛けをしたゴブリンが少し離れた所で俺の姿を傍観し、笑いながら走り去っていく。
「――!!」
俺は右目に魔力を溜め、探索士の力”観察眼”をゴブリンに合わせる。
これで右目を瞑っている間はゴブリンの言動がわかる。
俺の持っている最大の武器だ。――だが、この能力を使わなければ良かった。
ゴブリンと凄まじい魔力をもった数体の魔物が集まって俺の話をしているのだ。
話題は「ちんけな罠に引っかかった人間がいる」という話。恥ずかしくても息を引き取りたくてしょうがない。
だが、問題はそこではなかった。
この凄まじい魔王と思っていた魔物達が魔王の幹部という事実だ。
これで幹部というのなら、魔王討伐なんて天地がひっくり返っても無理である。”観察眼”で見てこの魔力と禍々しさなのだ、直視なぞ出来るはずもない。
「……俺達の手に負える相手ではない」
ゴブリンは俺のお粗末な行動を見て、自分が勇者達を始末すると鋭い歯を光らせる。
魔王の幹部は「相手の事を考えて、大広間で正々堂々と戦ってやれ」と紳士感溢れる発言をしていた。
そこで俺の魔力は切れ、”観察眼”の効力は失われた。
「なんてことだ――あれで幹部なのか」
嘆いていてもしょうがない。正直、俺の命は空前の灯。ここで俺がやることは一つだけだ――そう、一つだけ。
「――ル、ルイス!!大丈夫か!!」
遠くから勇者一行が俺の方へ駆けてくる。
この勇者様一行を騙すことだ。”巧妙な罠に引っかかり、勇敢にも命を落とした英雄”として!!
それが俺の名誉の為でもあり、こいつらの希望を無くさない為の最善手なのだ!!
なんとかして俺の失態を誤魔化すのだ!!
「――ルイス!!何があった!?早く治療を」
勇者のリュークは耳が痛くなるくらいの声量で命令を出す。やかましいんだよ、こいつは。
「……無理だ。もう助からない。アーデルン、無駄な魔力を使う必要はないぞ……これからの戦いに備えて温存しておくんだ」
もう血は流れてはいない。神が与えてくれた少ない時間で、この状況を誤魔化すのだ。
「……俺としたことが罠に引っかかっちまったよ、笑いたければ笑えよ」
自虐気味に発言することで、油断してしまった感を醸し出す。
「……まさか、あの宝箱に手を出したんじゃないよな?」
「――!!」
弓使いのライトが例の宝箱を指差す。
「そんな馬鹿な!!」
リュークがすぐさま反論する。……すまない、馬鹿なんだ。
「……宝箱から凄く血が垂れてますよ?壁に寄り掛かっているルイスまで血が続いてますし……」
三人は俺と目を合わせようとする。早速窮地である。
「……俺があんな見え見えの宝箱に手を出した。なんて言うんじゃないだろうな?」
「違うんですか?」
アーデルンは呆けた表情を作る。……まあ、その通りなんだけどね。
「……いや、間違ってはないさ。ただ、自分から手を差し伸べたわけではない。ってだけでな……」
「どういうことだ、ルイス」
「なに、簡単なことだ。――実はな、ここで魔王の幹部と見られるゴブリンと対峙したんだ」
「何だって!!」
「お互い武器を持っていなかった。焦ったゴブリンは凄まじい怪力で宝箱に押し付けやがった。……俺が痛みにのた打ち回っている間にどこか行きやがった」
「……」
暫しの沈黙が流れた。
どうだ?儚い命で生み出した必死の弁明は。
「……そうだったのか。魔王の幹部と邂逅しながらもよく生きていてくれた!その情報があるだけでも大きく違うものだ」
馬鹿――もとい勇者はコロッと騙されていた。勇者ではなく、優者なのではないだろうか。
「ゴブリンが幹部?ですか」
「怪力があるのならそのままお前を殺すことができるのではないか?わざわざ宝箱に手を突っ込ませなくても……」
瀕死の状態の俺に対し、二人は当たり前の様にきつい質問をしてくる。……わかっているのか?もう死ぬぜ、俺。この馬鹿と同じ様に労ってくれれば良いのに。
だが、二人の言っているの事は正論過ぎる。
ゴブリンが魔王の幹部と言われても創造がつかないだろう。ゴブリンはここにくるまでに何度か戦っている。
怪力の件もライト言う通りだ、わざわざ宝箱を使って傷を負わせる敵がいるだろうか、怪力があるのなら首をへし折ればもっと早い。
関心している場合ではない、何とか言いくるめないといけない。
本当の事を言って驚かしてやってもいい。
魔王の幹部は一柱だけではなく、俺の調べでは五柱はいるぞ。と言ってやろうか。
だが、それを言うとこいつらは「町に一時撤退する」なんて言いかねない。それを一番恐れている。
もしここで逃げたれたら確実に俺は英雄扱いされない。家族も周りから冷たい眼で見られるだろう。
魔王討伐の一員というのは、英雄として崇められる者だからだ。たとえ、生きていなくてもだ。
いけない、眼が霞んできた。本当に時間がない。
「……もっともな意見だ。ゴブリンが魔王の幹部ではないと誰もが思うだろう。だが、あってみればわかる。今まであったゴブリンと違い知性がかなりあると見える。……何せ、俺が探索士とわかり、わざと簡単な罠で傷を負わせたのだからな」
「そうなのか?」
「……ああ、考えてもみろ。怪力の持ち主ならば俺の首をへし折ってしまえばいい。でも探索士である俺が子供騙しの罠に引っかかる様を見たら、仲間を疑う様になり以前までの協力が出来なくなるだろ?……今みたいにな」
「――いや、そんなつもりで言ったわけじゃない。すまない、ルイス」
「いいさ、ライト。お前の気持ちは分かるからな。ただ、これも敵の策略の内だというのを忘れないでくれ。……俺は少しでも、お前達の力になりたかった――」
「もういい!しゃべるなルイス!!お前の気持ちは十分にわかった!――お前は真の英雄だ」
「そ、そうだな……」
「……ええ、そ、そうですね!」
歯切れの悪い二人はほっておくとして、何とかなりそうだ……後はこいつらが魔王を討伐するか全滅するか。どっちかに転んでくれればいい。
「……逃げるなよ、俺の仇をとってくれ!!」
俺は残された力で言いきるのだった。
ゆっくりと瞼が落ちていく。ここまでだ。
『ルイス!!』
三人の声が重なる。――後は任せた。
リューク、お前は実は勇者じゃないのは薄々気付いていたよ。いきなり現れた風来坊の素性を調べるのも俺の仕事だからな。毎回、耳に胼胝ができる程聞かされた聖剣の底力を見せてやれ……。
ライト、俺の事嫌ってたの知っていたぞ。人を嘘つき呼ばわりしやがって……でも今回は礼を言って貰うぞ?本当は魔王の幹部が五柱も居るって言ったら逃げるだろう?そう、お前はくたばれ……。
アーデルン、エロい身体しやがって。けしからん。リュークとライトはお前にカッコいい所を魅せて惚れさせようとしていたけど、全く興味なくて、名前は忘れたが町にいる小さい子供が好きなの知ってるんだぜ。けしからん奴だ、まったく。
さて、正直この勇者一行では魔王討伐どころか、幹部討伐も厳しいだろう。せめて、ゴブリンくらいはやっつけて逃げてくれよ?絶対に勝てやしないんだかから。
命からがら魔王の幹部ことゴブリンを三人で何とか倒し、小心者のライトが「一時撤退」を強く懇願して、町に戻り、俺の武勲を盛大に広めてくれることを心から願っているぜ……。
そうして、俺の意識は完全に途絶えた――。
この後、こいつらがどんな行動を取るかは謎ではあるが、大した結果をもたらさないことだけは、探索士の俺が自信を持って言える……。
前書きで
書くだけ書いて
オチが無い
庭城、心の俳句。