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異常図書焼却課アーカイブ  作者: 稲生葵
30/42

異常図書XR1[水難事故報告書████年████月████日]

分類:伝承災害

人気推定値:測定不能

状況:封印

発見時の脅威:水難事故の惹起/赤

現在の脅威:水難事故の惹起/黄


作品の概要

 ████年████月████日に██████████のプールで発生した水難事故の報告書。


異常の発現

 報告書が閲覧されると████日に██████████のプールで███████する水難事故が発生する。

 水難事故を防ぐための行動は基本的に失敗するものと思われるが、まったく不可能というわけでもないようである。


発見と対応

 ████年████月、██████████のプールで立て続けに5件の水難事故が発生し、4人が死亡、1人が救急搬送されたことから、地元警察が異常図書事件の可能性を考え、我々に調査を要請。

 最初の事故を受けて、██████████では監視を増やす、点呼を徹底する、水中確認を繰り返し行うなど、再発防止策を強化徹底していたにも関わらず、さらに4件の事故が発生していた。


 死者が出た4件の事故では、事故発生から遺体が発見されるまでに約18時間かかっており、この間、家族までもが行方不明になっていることに気付かなかった。詳細は音声1を参照。

―――

音声1 3人目の犠牲者████の母の証言

「正直、わけがわからないんです。████が家に帰ってきて、いつものように話をして、晩ご飯も、朝ご飯だって一緒に食べました。食べたと思ってたんです。

 なのに、いきなり警察から電話がかかってきて、████が死んだって、それも前日の昼に……信じられませんでした。私も主人も確かに████と晩から朝まで一緒だったんです。食事の材料は3人分使っているし、食器だって全員分乾燥機に入っていました。

 でも遺品として渡された████の荷物の中には、洗っていない弁当箱が入ったままで……もう、何がなんだか」

―――

 他にも「犠牲者と一緒に遊びに行った」「犠牲者と一緒に食事をした」と話す者がいたが、カメラなどの映像記録がこれを否定する一方、購入されたチケットや食品などの数は犠牲者を含んでおり、さらに何者かによって消費されている。

 包装などから同一の指紋様痕跡が検出されており、特異知的生物の関与があったか、召喚事象が発生した疑いがある。


 いずれの遺体も発見時、死後経過時間は18〜22時間と推定された。しかし遺体は異常性の影響下にあった可能性が高く、文字通り遺体発見の18〜22時間前に死亡したとは限らないことに留意せよ。

 関係者に█████を中止しなかった件について尋ねると、中止する選択肢があったことに、その時初めて気付いて混乱している様子だった。

 伝承災害の特徴が見られることから、異常図書事件と推定して調査を開始。伝承災害用識別コード、XR1を割り当てる。


5件目の事故

 伝承災害によって引き起こされた事故であったはずだが、その場にいた████が水没した被害者を発見。救命に成功した。当時の様子についての証言は音声2を参照。

―――

音声2

「なんていうか、不思議でした。皆プールの中ではしゃいでいるのに、████君の周りだけ、急に穴が開いたみたいに人がいなくなって、████君が、エスカレーターに乗ってるみたいに水の中に沈んでいったんです。

 潜水して遊んでるのかなと思ったんですが、全然上がって来なくて、さすがにマズいんじゃないかと思って████に声をかけたら、途端に皆████君が沈んでいるのに気付いて大騒ぎになって、救急車が来ました」

―――

 ████が伝承災害の影響を受けなかった理由は不明であるが、████一家は██県からの転入者であり、父親が海運会社に勤務しているため、金刀比羅宮(水難除けで有名)の信者である。また████と被害者は恋愛関係にあり、その過程でなんらかの魔術的防御を実践していた可能性もある。

 他4件ではこれに類する特徴を持つ関係者はおらず、異常図書XR1には、魔術的防御が有効な可能性がある。

 しかし、実験はできないこと、むやみに護符の類を置くと、伝承災害の記憶を強化し、異常図書XR1の再制作に繋がる恐れがあることから、プールを利用可能な状態で封じ込めを行うのは危険性が高いと判断した。

 水道設備の劣化を理由として注水配管を閉鎖し、プール内への注水、立ち入りを禁止。


異常発現の原因

 ████年████月████日に██████████████████████する事故が発生したという情報を報告書に書き込むと、異常図書XR1の複製として機能するものと思われる。

 そのため異常図書XR1内の日付は桁数まで秘匿するため改変、黒塗りする。

 また水難事故の詳細をここに記述することは厳禁である。何が報告書として扱われるか判然としないため、念の為これ以外の媒体に記述することも禁止する。

 対照用の情報は特別秘匿指定とし、所定保管庫に適切な数に分割して保管している。

 これらの異常性が発現する原因は不明。

 魔術的防御が有効と思われることから、事故現場となったプールの所在地に超常存在の伝承があるものと思われたが、資料の散逸、毀損が激しく、████年以前にさかのぼることができない。

 原因の解明はほぼ絶望的である。


現状

 十分な封印状態を維持できているが、伝承災害は常に再発の恐れがあるため、現在の脅威は黄に設定しておく。

 伝承災害検知器[岩戸の司書]による監視を継続。

用語集アップデート

あ―岩戸の司書


 伝承災害検知器。

 伝承災害の要素を分割記録したテキストスキャナーで、国内の災害、事故等の記録を収集、検査している。

 もし伝承災害が発見された場合、専属対応班が封印処置に当たる。


―――


あ―俺の嫁シナリオ


 旧称ピグマリオンシナリオ。

 召喚媒体に分類される異常図書の生成動機。

 このシナリオで生成された異常図書の大半は、ただの人間を召喚するだけだが、3000年生きた大妖怪や、世界の始まりから存在するドラゴン、地獄の大悪魔などが召喚される可能性があり、潜在的な脅威度はかなり高い。

 最悪の場合、破滅的事象に繋がる恐れがあることから、思想統制と表現規制の実験が行われた(参照:や―有害図書追放運動)が、現在、同様の実験は無期限に禁止されている。


―――


た―伝承災害


 異常図書分類のひとつ。

 災害を引き起こす伝承がこれに当たる。

 一見、災害の記録と判別できないが、詳細に調査すると再発防止策や減災施策が不自然に失敗している、被害者へのインタビューを行うと人格版画様の影響が見られる等、明確に異常性を示す。

 災害対策のために伝承災害と化した記録が参照され、さらに災害が発生し、その再発防止策を練るために、再び伝承災害が参照されるという負の連鎖に陥りやすく、それをきっかけとして発見されることが多い。

 基本的に「何が起こるかはわかるが、何故そうなるかがわからない」ことが多く、再制作が非常に容易なために、偶然に生成されてしまうこともあり、伝承災害の封じ込めは非常に困難である。

 下手に情報を書き込むと、それ自体が伝承災害の複製と化すため「どのような伝承災害が存在するのか」という記録を残すこと自体が危険なのも厄介な点である。

 これに対応するため、情報を電子化し、分割記録した伝承災害検知器[岩戸の司書]が災害、事故等の記録を検査している。



―――


な―二重世界仮説


 この世界と重なるように存在する世界があり、霊界接触や人魚姫シナリオ、作動原理不明の異常図書は、その世界からの干渉によって発生している、とする仮説。

 傍証は多いが、確たる証拠は未だ得られていない。また、二重ではなく多重であるという説もある。


―――


は―ピグマリオンシナリオ


 俺の嫁シナリオの旧称。

 しばしば新人職員に詳細を説明しなければならなかったことや、うろ覚えの職員が誤記する事例が続発したほか、ピグマリオン効果との混同により自己成就予言と勘違いされるなど、多数の問題を引き起こしたため、2008年、よりわかりやすい表現として、俺の嫁シナリオに改称。

 電子化されたアーカイブは、これに合わせて置換作業を行ったが、上記の通り誤記が多かったため、完全ではない可能性がある。

 もし置換漏れを発見した場合は、保安管理室までご連絡ください。

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