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007 「召喚術研究」3回目

 毎日更新ってやっぱりきついですね。他の作品もモチベーションが下がりまくっているので、とてもじゃないが出せる状態にならなくて……。


 どうぞ。

 魔法は目では見えるけど避けるのは難しい、野球のボールくらいのスピードで飛んでいた。鋭い氷の弾丸を二発放てる魔法が、崖に当たる前にぐぐっと減速して、ぴしぴしと石に変わっていく。


「やった、すごい! ほんとに琥珀になってるよ!」


 取りに行ったキューナがはしゃいでいる。


「メアちゃん、攻撃魔法持ってる?」

「あ、はい……」


「やってみようよ」

「跳ね返ってきたら……」


「私が間に入るから」


 できる自信はないけど。


「〈ピュア・ライト〉」


 白い光が槍のように突き進んで――これも、固まった。


「うわぁ……! 大きいし等級もいいよ!」

「メアちゃん、一人で戦ってたんだ?」


「はい……。でも、弱くて。回復魔法、一度も使ってないです」

「攻撃できる治療師も、いいと思うよ?」


 彼女はふわっと笑って、もう一発〈ピュア・ライト〉を放つ。


 宝石が順調にゆっくり集まっていって、そろそろいいかなと思ったくらいに締めの一発を撃つことにした。


「〈アイシクルブラスト〉!」


 ぎゅっと減速して――止まり、


「危ないっ!」


 切っ先がくるりとこちらを向き、飛んでいった速さの倍でこちらへ戻ってくる。私が間に入って受けるから、なんて言ってしまったけど、たぶん不可能だっただろう。


「うぐ……」


 痛覚は現実の三〇パーセントなのに、受け止めようとしてすごいことになった腕の傷のせいですごく痛い。


「大丈夫、すぐ回復しますから」

「うん……」


 心なしかさっきよりたくましくなったように感じられるメアが、すぐ〈ヒール〉を唱えて治してくれる。どうしたんだろう。


「ありがと、治った。少人数ならいけそうじゃない?」

「はい、たぶん」


 怖かったー、とキューナがほっとしたような声で言う。


「最後の最後まで起こらないから、ないと思ったよ……」

「油断してたね……。それより、宝石どれくらい集まった?」


「いっぱい。帰りの戦いに使うMP残ってる?」

「あ、うん、たぶん大丈夫かな?」


 どうだろう、ちょっと使いすぎたかもしれない。


「この『石化の崖』ってところは、触れたら死ぬんだって。キューナは大丈夫?」

「あんな効果がある場所、触るわけないよ」


 別に用心深い方じゃなかったと思うけど、危ない気配はやっぱりみんなに分かるみたいだ。急にがさがさと音がするので、音の方向に〈アイスブレット〉を撃った。メアが続けて〈ピュア・ライト〉を撃ち、激しいヒットの音が響く。


「あ、大丈夫かな」

「モンスターでした」


 ぎゅぃ、と悲鳴のような声を上げて、話に聞いていた黒とオレンジの芋虫が光の粒に変わる。今までとは違ってカーソルと名前が表示されていた。


「なんかカーソル付いてたね」

「レアだからじゃない?」


 通常の雑魚モンスターって、運営からいったいどういう扱いをされているんだろう。


「モンスターってさ、カーソルが付いてるもんじゃないの?」

「そのはずなんですけど。相手のレベルが低すぎるとか、あるのかもしれません」


 それじゃ収めに行こっか、と言ったキューナが変な考えを払拭してくれて、私は初めて召喚術を研究するギルド「R.K」の本拠地を見学することになった。






 森の中にある砦を改造してさらに頑丈にして、そこを中心に魔法陣を作るのがギルド「R.K」の目的らしい。地面に白線がひかれているのをいくつか見たけど、間隔はどれもかなり広かった。円形だとして、どれくらいの広さなのかはすぐに想像できないくらいだ。


「レギアさん! 宝石取れましたよ!」

「おかえりキューナ、よくやったね」


 銀髪に桃色の目というカスタムがものすごい。緑から黄色、オレンジ、赤へグラデーションになった刺繍がほどこしてあるマント、内側は黒くてゆったりしたローブだ。確かにすごくきれいな顔だとは思ったけど、色彩が強烈すぎる。


「お友達かな?」

「はい。アイテム集めとかいろいろ手伝ってもらって……」


 邪推に近いものだけど、レギアさんという人はたぶんリアルがこの顔じゃないはずだ。頭の中で色を塗り替えてみても、現実の人間っぽくならない。この変な色にぴったり合うような顔にできたのが逆にすごい。


「こんにちは、ユキカです」

「そうか。初めまして、ギルド「R.K」のギルドマスター、レギアだ」


 声は魅力的、顔もパーツの色に合わせてカスタムしている上級者なんだけど、どこかいい印象が持てなかった。


「入団希望者かな?」

「あ、違います」


「そうか。メンバーを手伝ってくれてありがとう」


 興味もなさそうに振り向いて、レギアさんは「じゃ、引き続き頼むよ」と去って行った。キューナは目を潤ませているけど、メアも私も醒めた目をしている。


「……ごめんね、いますっごい忙しくて一人ひとりには構ってられないみたいなんだ」

「うん、それならいいんだけど」


 ぜったい嘘だ。


「案内とか、してもらって大丈夫?」

「どうだろ……入っていいとこなら分かるよ」


 まずはここ! とキューナは、わざわざ火で照らされたホールの中を手でぐるっと指し示す。豪華ではないけど石造りで、独特の雰囲気がある。


「中央ホールだよ。魔法陣の中心で、供物と祭壇が集まってるんだ。ギルマスに預けた宝石は、たぶん錬成してもっとすごい宝石にしてくれると思う」


「そんなことできるんだ……」


 メアが「レギアさん、スキルいろいろ持ってますから」とつぶやく。


「あ、あれってモンスター?」


 とことこ、とアクセサリーらしいものをいくつも持って、ミニチュアサイズのゴーレムみたいなのが走って行った。


「うん、うちのメンバーで召喚術師なら一人一体は持ってるやつだよ。〈ミニオンゴーレム〉だったかな。ちっちゃいから弱めで、外で使うにはあんまりなんだよね」


「雑用係なんだ」


 当然だけど、カーソルは出ない。


「野生のモンスターならだいたい仲間にできるんだけど、ボスは無理なんだよね。でもダンジョンの奥深くからおっかないの連れ帰ってくるすっごい人がいてさー。メアちゃん、あれって誰だっけ?」


「……ハックさんですか?」

「あ、そうだ。たしかエフ、ユー、シー、ケーって書く人」


 それダメなやつだ。


「メアちゃんナイス、それハックって読むんだよ」

「あ、そうなんだ?」


 大ウソだけど。


「ハックさん、この前はちっちゃい竜みたいなの連れてたよね」

「〈シモフルミズチ〉ですね」


 歩きながら、魔法陣のために敷かれたいろいろを踏まないように気を付ける。小さなレースで作られた、直径ほんの十センチくらいの円形が置いてあったり、びっしり文字が書かれた紙みたいなものだったり、卵くらいの大きさの宝石を植物で縛ったものもある。


「気になる? 動かすのもそうだけど、あんまり見ると怒られるんだよね」

「厳しいんだねー」


「術式の細かい部分を真似されると嫌なんじゃないでしょうか」


 オリジナルなのか、それとも真似しやすいのかはちっとも分からない。というかそもそもこんなに細かい文字、解読するのも無理だった。常に点いているらしい魔法の明かりも、もともとが野外の戦いのためだからか、LEDほど遠くをきれいに照らせるわけじゃないみたいだ。


 案内を聞きつつ、私はずっと歩いていった。



 ◇



 巨大な金床に載せられた曲剣は、人が寝ても余ろうかという床の大きさに対して贅沢にすら感じるほど小さかった。


「ユニークの素材だけあって扱いづらかったよ、こりゃ……いってぇどういう化け物だったんだ?」


「〈メルティピード〉、ドラゴンを喰らうムカデさ、言った通りのな。通常攻撃だけで竜人が瀕死になるくらいだから、私だってただで倒したわけじゃない」


 あの鎧を見りゃぁ分かるぜ、と職人風の男は汗をぬぐう。それは暑さのせいではなく、恐らくはこの剣の材料になったもの、ひいてはこれを使うものへの恐れが原因だろう。諸説あるが「いろいろある」ことをまるっと全部隠すため着ている鎧、頑強さだけならば破壊不能の物体に近いはずだ。その鎧に噛み傷をつける怪物とは、一体どのようなものなのか。


 恐れを振り払うため、職人は仕様を説明する。


「言われたとおりのゼイタクで作ったぜ、ほんとにこれで良かったのか? 等級が最上の素材だけを使うなんざ、貴族でもあるめえによ」


「ああ、ちょっとでも等級が低いものは混ぜなくていいんだ。おかげで寒気がするような出来になったじゃないか……号は」


「〈喰龍剣〉だ」

「じゃあ、今まで使っていたのはようやっとお役御免か」


 ごとん、と金床へ丁寧に置かれたのは、聖なる槍だった。


「これも性能は悪くなかったが、竜とやり合うのに槍はあまり……。周囲は逸話の人物が私のようだともてはやすが、冗談にしか聞こえない」


「溶かすのか? 何か追加するものが見つかるまで取っておくかい」

「ああ、そうしてもらおう。なくなってから後悔するのは何度目か分からない」




 エヴェルは「それじゃ頼んだ」と言って工房を出る。


 すると、向かいにある商店の屋根の上から深い赤で身を彩る男が身を躍らせた。


「よぉ、エヴェル。NPCの店で何してる」

「このあたりじゃ最高の鍛冶屋だ。ユイザ、お前こそどうした?」


 おらよ、と「ユイザ」は顎をしゃくり、そこにいる数人の仲間を示す。


「いつまであの街にいるんだ? いつもの言い訳か」


「ああ、そうだ。我々は人間に紛れ、その内側から何かを変えなければならない生物。であれば、その可能性ありと見なした者を育てる義務もある」


 まったく困ったやつだ、と深い赤を宿す男は首を振る。


「まあどうでもいいがな。……戦争時代の生き残りが、大規模召喚術式を組んでるぜ。ゼインが解読したところ龍の一種らしい。探りを入れておく必要があるんじゃないか」


「生き残り、か……お前が入ればいいんじゃないのか?」


「お前ほど擬態が上手いわけじゃねえんだ、俺は。そもそもお前みたいに常時擬態してる変態なんざそうそういやしない。開放感ってやつはあるだろうが、そいつぁ諸刃の剣だ」


 それこそ変態じゃないかとエヴェルが突っ込むと「バカ野郎、俺なりのジョークだよ」とユイザは手を広げてみせる。


「王が悲しむぜ? そこんとこぁどうなんだ」

「王が私を断罪されても、私は意見を変える気はない――今まで通りだ」


「おい、おい、おい……ここにこいつらまで連れてきた理由が分からねえのか。まあ、俺としても俺たちがまともにあちこちうろつける世の中ってやつぁ恋しい。うまく理由ができるといいが、このままじゃぁ無理だ」


 控える数人が殺気立つが「まあまあ」とユイザはなだめる。


「遠い場所への旅に、わざわざ不安なルートを選ばなくって済む。それだけでいいもんだろうが。加えて言や防具だの武器だの、ありゃ俺たちにとって手に入れるべきものだ……おまえたちが嫌いな人間より優位に立つためには、絶対にな」


 すっと鎮まった彼らを抑えるように手を掲げ、ユイザは「じゃあな」と言って門の方向へ歩き出す。


「いいのか?」

「なぁに、あのときの痛みに比べりゃ、王に張り倒されるくらいなんでもねえよ」


 不敬じゃないのか、とついエヴェルが言うと、ユイザは大笑いした。


「はっはっは! お前が言うな、エヴェル・ザグルゥス」

「すまないな……ユイザ・ガラストゥラ」


 深い赤の男がゆっくりと離れて行き、突然消えることもなく、背中が小さくなっていく。相当にレベルの高い彼らの身体能力ならば霞むほどの速度で走れるはずだが、ステータスの格差をきっちりと分かった上で、誰か一人を置いていかないようにしているのだろう。常にふざけているようで、いっぽう気遣いを欠かすことのない彼らしい行動だった。


「私テュロ・クフィシアからすれば」


 いつの間にか、工房の横、宿屋のテラスに落ちそうな姿勢で座った女がいる。


「現れるのがまた突然だな」


「ええ突然よ。私からすれば、ここまでしておいて強制的な手段に出ないのが不思議ね。すぐに国に帰って、王に謁見すべきだと思うけれど」


 ドレスのすそがはためいていない。


「王に謁見する機会があれば、洗脳を進めていると言っておいてくれ」


「またそういう言い方するんだから……。あなたがしてる方法なら、私だって大賛成。でもいざというときに使える子なの? どういう思い入れなのか、いい加減に説明してもらえないかしら」


 隠されてなお豊かな胸が、月に輝く脚線美が、風になびく髪さえ、その色を別のものへと変化させていく。


「待った」

「あら素直。あなたらしくないわね」


 青く輝くラインが浮かび上がったところで変化が止まり、すべてが巻き戻ってテュロはイヴニングドレスの美女へと戻った。ふわふわと風にはためくドレスが目に毒だ。


「正直に言おう、気に入っているんだよ。彼女に秘められた可能性にも目を付けている」

「あなたにそう言わせるなんてね。妬けるわ」


「君はもう強い。君にとって必要なのは、私ではなくなったんだよ」

「……そっけないんだから」


 瞬間にテュロは立ち上がり、凄まじいジャンプ力でどこかへ消えていく。


「弱いものを守りたい、というわけではないんだがね」


 強くなった相手を捨てるならば、戦争のとき戦った連中と変わらない。エヴェルは、空を振り仰いだ。


「彼女なら、いつか……」

 かけらもポイントが付きませんが、まあいいでしょう。毎度のことですし。


 ……とか言っちゃうのは気にしてる証拠ですね。こんな風に自分に対して残酷になりすぎるところがアレだとは思いますが、変えられねえ。

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