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005 「種族学入門Ⅰ」1回目

 この作品は、数話たまったら連投するような形にする予定。今のストックは15あるので、あと十日くらいで使い切ってしまいますね。朋輩たちに数年遅れて始めたソシャゲなんざやってないで、ガンガン執筆せねばならぬ。


 どうぞ。

 昼休み、昨日と同じように待ち合わせをして、橋川はうつむいて待っていた。すごく重い声で「ごめん」と言われて、さすがに責める気になれない。


「エヴェルさんの手伝いに行ってたんだ」

「そうだったんだ?」


「ボスは一体だけど、混乱して暴れまわるやつとか操られてるのとかいろいろいて。ほぼ二人だけで処理したから、めちゃくちゃ時間かかってさ」


「なら、しょうがないよ」


 代わりにもっと説明聞かせて、というと「ならどんとこいだよ」と申し訳なさそうながらちょっとだけ笑顔を取り戻してくれた。


「種族の話、聞かせて」

「また漠然としてるなあ。まあそんなに多くないし、いいか」


 困ったように頭をかいたあと、橋川は「まず人間だね」と言う。


「特徴は人間そのもの。すべての能力がベーシックに揃ってるから、三つ作れるデータのうちひとつめは人間って人が多いかな。メリットは、多くの街で受け入れられやすいこと。地味に思えるけど、迫害される種族もあるからかなり大きいよ」


 逆にちょっと弱かったりするのが難点かな、と笑う。


「ほぼすべてのものを装備できるかわり、装備が前提になったステータスになってる。無効化できる状態異常や魔法属性はなし。パーツのカスタム次第でどんな顔にもなるけど、派手な色彩は似合いにくいかな。シルバーピンクの髪にして戻してる人、見たことあるよ」


 絶対にやめておこう。


「次はエルフ……かなり薄い色の髪と、横に尖った耳が特徴。ものすごく魔法の扱いが上手くて、魔法アタッカーのトップはいつも種族エルフのプレイヤーが占めてる。反面、力がけっこう弱いから、物理攻撃は筋力がほぼ影響しない弓くらいしか使えない」


 清浄なところで暮らしてるから疫病系の状態異常にはめちゃくちゃ弱いよ、と橋川はかなり深刻な顔で言う。


「疫病、病毒系を使うやつは天敵だね。幸いと言うべきなのか、そういうやつには魔法がきっちり通じる。これが意外に重要なんだけど、筋力、STRって言うんだけど、筋力が低いから重い鎧とかはちっとも装備できない」


 盾もほぼダメ、と言われて、後衛間違いなしだなと思った。


「鬼……は、熟練者に人気かな。酒呑童子とか温羅とかの鬼。肌の色がかなり濃くて、額かこめかみに一本もしくは二本の角。こっちは筋力がめちゃくちゃ高くて、重い武器を使うのがセオリーだね」


 ほら鬼に金棒、と言われてその通りだなと思う。


「これの弱点は?」


「あ、パターン読まれてきたね。困るのが、AGI……敏捷性、素早さがちょっと低いこと。高速移動が苦手、素早さに任せた機動力を持つ敵には弱い。ただし状態異常なんかへの耐性はかなり高くて、素の防御性能もかなりある。昔話の鬼をそのまま持ってきた感じ」


 鬼ってそんなだろうか。


 考える暇もなく、橋川はどんどん説明を続ける。


「次は竜人。目立つ特徴はあんまりないけど、よく見ると瞳孔が縦に割れてる。中には角を生やしてる人もいるけど、ほぼ例外かな。ちょっと成長が遅めだけど、ステータス自体は全種族の中でもトップクラス、しかも低いのがない。キャラクリエイトのときは「目が怖い」からって不人気だけど、僕からするとちょっとおすすめかな」


 弱点は何かと考えて、私は昨日聞いたことを思い出した。


「もしかしてムカデに狩られるの?」


「だいたいはエヴェルさんから聞いたよね。定期的に竜人の街にほど近い「奈落の巣穴」ってところから虫系モンスターがやってくる……襲撃イベントが起こるんだ。アーグ・オンラインには絶対安全圏はほぼないから、もちろん街の城壁は壊れるし家もなくなる、プレイヤーが本気出して守らないと街がなくなっちゃうんだ」


 レベル上げの救済仕様なんだけどね、と苦笑する。


「NPCがプレイヤーに比較してかなり弱いから起きることで、ほんとはそこまで本気じゃなくてもクリアできるよ。取りこぼしなしとか被害ゼロを目指すと本気が必要だけどね。定期的に大量のモンスターを倒す機会があるから、レベル上げのめんどくささがちょっとでも軽減される、はず」


 虫は好きじゃないので、却下だ。


「混成種……の説明は、難しいなぁ。要するに人間と何かを混ぜてできたような、特撮の怪人みたいな姿……じゃ、ない」


「え、おととい混成種の人見たよ?」


「さっき言った、迫害される種族がこの混成種。もともと存在してなかったから、みんな慣れてないんだよ。モンスターと人間が混じったものだから、人間が混成種を倒すと経験値が手に入る。逆も同じ」


「うわ、ひど」


 争いをわざと起こそうとしているみたいだ。


「代わりになるのかどうか、ものすごいステータスアップ補正と、人間への擬態能力を持ってる。あと人間対人間だと入らない経験値が入るから、殺人でレベル上げ可能。これはメリットとは言えないけど」


「擬態を使わない人っているの? 見たけど、デメリットしかないよね?」


 この理由はさっぱりだ。


「混成種の見た目はバケモノそのもの……かなり怖がられてるんだけど、擬態中の能力ダウンが嫌でわざと擬態しない人もいるかな。バケモノプレイって言い方がある。能力ダウンに対して実感があるゲームだから、多少は仕方ない。まあ、下手に街中で擬態を解いちゃうよりははるかにマシなんだけどね」


「橋川もそうなの?」


 わりと実感のこもった言葉だった。


「あ、ま、まあ……うん。擬態能力のレベルがきっちり上がるまでは、混成種ばっかりの街にいたほうがいいね。擬態の見た目……自分が見た自分のイメージをいくつも作れる人なんてそうそう見ないから。アーグのやめてほしいとこは、ステータスの強さが実際の強さにうまく変換されないこと」


 じゃあ私強くなれるかな、というと「自分で歩むのもそうだけど、正しい導きがあれば間違いないね」と困ったように答えられてしまう。


「変なギルドに入って、他人の言うままにキャラビルドすると、パーツのひとつになる。個人で強いわけじゃないんだ。逆に誰の助けも借りないと、それはそれでよくない。樫原さんが一人でもみんなでも強いプレイヤーになれるように、応援してるよ」


「手伝いはしてくれる?」

「うーん、ちょっとキツいかな」


 便利屋をやってるんだ、と橋川らしくないことを言い出した。


「夜じゅうあちこち走り回ってるから。ユニークハンターさんによく言っとくよ。あの人は依頼がなかったら基本的には暇だし」


 こっちでは推すんだなぁ、と思いながら、私は聞きたかったことを思い出した。


「エヴェルさんってさ、いい人なの?」

「どういう意味で」


「お兄ちゃんもアーグやってて、あの人知ってるみたいなんだけどね……ヤバいから関わらないほうがいいって。どういうこと?」


「詳しくは言えないけどね。戦争イベントで活躍した英雄が何人かいた。ドン引きレベルの活躍をして、「バケモノ」って二つ名がついた人がいたんだよ」


「エヴェルさん?」


 橋川は、冷たい顔でうなずいた。


「直接聞いた方が詳しくわかるかな。でもデリケートな話だから、ね?」

「うん、わかってる」


 念を押されるまでもない。


 また本棚の森に消えていこうとする橋川に「何の本読むの?」と聞くと、適当につかみ出してから「これ」とぶっきらぼうに見せてくれた。


「なにこれ?」

「歴史の汚点。権威っぽい人でもめちゃくちゃ言うから注意、って本だね」


 タイトルの意味もさっぱりだった。


「嘘だ」

「ほんとはこっち」


 マズ飯のつくり方、なんていう表紙だけで殺しにかかってる本だった。


「なにこれ……」

「失敗を知れば同じ失敗はしなくなるはずだから」


 わかんないなぁ、と思いつつ、私は追求するのをやめた。




 教室に戻ると、ユミナがくたびれている。


「どしたの?」

「ここ何日か、昼休みずっといないでしょ。退屈」


「ごめん、橋川にいろいろ聞いてるから」

「どういう関係なの?」


「別に普通だよ?」

「ふーん。ここんとこ毎日なのに?」


 突っ込まれると痛いところではあったけど、橋川に対してそんなに強い気持ちがないのも事実だった。


「というか、ないない、じゃないんだ」

「まあ、いいやつだしさ」


 相手としてはありだと思う。


「ライバルとか少なそうだし?」

「普通に優しいよ。思ったより怖くなかった」


 これはほぼ建前だった。中学校のころから知っているから、怖いなんて思っていない。変に意識することもなかったと思うし、本当に普通の、うまい言葉が見つからないような間柄だった。


「けっこう高評価じゃん……のわりには赤くも青くもならないけど」

「クラスメイトだし、友達ってより仲間じゃない?」


 なるほど、とユミナは普通の顔をしている。


「ユミナは?」


「あー、うん。アーグのさ、ギルドリーダーがすごいイケメンなんだよね。先生はネットの向こうだからなんとかって言うけどさ、自分でやってから言ってほしいよね、思わない?」


「どうかなぁ」


 どれだけでもカスタムできる、と聞いたあとでゲーム内美男子の話をされても、それって熟練者がゴリゴリにカスタムしただけなんじゃないのと突っ込みたくなる。まあ、昔からネットやメールの向こうに恋する、というのはあるらしいから、自分だけ特別とも言えない。


「アーグって性別変えられるんだっけ?」

「非推奨って書いてあったけど。というか、わざわざ変える理由がわかんない」


 けっこうよく読んだ説明書には、できるけどやめた方がいい、と書かれていた。心と体が釣り合わなくなって病気になったりとか、歩き方が変になって骨に異常が出るんだそうだ。それならそれで、混成種の人がどうしてそういうことにならないのかさっぱりだし、鬼の角がどうなってるのかも知りたくなってくる。


「まあいいか、そんな変なことしないし」

「それもそっか」


 話題を持ち出したわりに、ユミナはあっさり引いてくれた。


「あ、もしかして橋川に会わないのはそういう理由だって思ってた?」

「会えない理由があるって思ってもよくない?」


 ……ゲームの中じゃ女の子だから会えない、っていうのも確かにありそうだけど。


「うん、確かに……よく考えたら、橋川のことほぼ聞いてないんだよね」

「そりゃ知らないことの方が多いよね。『普通の関係』だし?」


 茶化さないでよと言ったけど、もしかしたら私は、もっと橋川のことを知りたいのかもしれなかった。




 学校から帰ってもなんだかもやもやしたままで、おやつのレモンケーキをぱくつきながらミルクココアをずずっと飲んでいると、兄が帰ってきた。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま、結乃。俺の分あるかな」


「あるある」


 高校生にもなって「お兄ちゃん」はちょっと子供っぽいかなと思っているんだけど、治そうとしても治らなかった。私も「あにきぃ」なんて渋く言えるほどかっこよくなりたいものだけど、なんかイメージと違う気もする。


「受験とゲームの両立、大変じゃないの?」


「ゲームやるとバカになるとか言ってるやつは、時間配分が下手なだけだ。VRMMORPGだからちょっと時間オーバーもあるけど、寝る前にやれば大丈夫」


 兄らしい。実を言うと、私が見習っているスタイルそのものだった。


 なんだか兄が固まっている。何か見ているのかなと思って後ろを振り向くと、洗濯物が干してあった。


「お兄ちゃん、妹の下着じろじろ見ないでくれる?」

「あ、すまん」


 てへっとにこにこしている。兄が相手だから、私も特に何も思わない。


「しっかし、服だけだともう、妹じゃなくほかの女だな」

「どういう意味、それ」


 とげが見えたか、なだめるように手を前に出しつつ「いや、ほら」と言い訳する。


「大人になってきたというか、俺の知らない部分が増えてきたというか。恋人ができてもそ知らぬ顔してそうだし」


「それはお兄ちゃんに報告することじゃないじゃん」


 いちいち家族に言わない……お母さんには言うかもしれないけど。


「ま、まあ女扱いはちょっとウェルカムだよ? もう高校生だし。クラスの中じゃけっこういい方だと思ってるし」


 友達も、男ができたから友達やめるねなんて言いださないだろう。


「胸とかけっこう大きいし……クラスでも」


「褒めればいいのか?」

「あ、ごめん」


 なんか余計なことを口走っていた。


「全体的におっきい子はいるんだけどさ」

「横幅も?」


「うん。あれは大きいとは言わないっていうか」

「……妹が知らないうちにやーな女になってるなぁ」


 なんで自分で言っちまうかねー、と兄は手厳しい。


「もっといい子ぶったほうが男も酔ってくるぞ」

「酔って……寄ってくるじゃなくて?」


 わかってねーなーと兄はもったいぶる。


「まあ確かに、ぽっちゃりすぎるのは欠点だよ。でもビフォーアフターの夢があるだろ。結乃には持って生まれたものがいっぱいあるけど、それを邪魔するようなものがあったら誰も近付いてこねえわな。酔わせるんだよ」


 どうやって、というと「自分で考えろよ」とつっぱねられる。


「千差万別。ひとつの方法で全員結婚できるなら、生涯独身なんざあ人っ子一人いやしねえさ。まあ、目星つけてるのがいるなら、頑張れ」


 ……見抜かれてるのかな、と最終的に思った。

 主人公ちゃん可愛くないなぁ(致命の一撃


 弱さこそ可愛さ、とかいろいろ創作理論を聞いてはいるんですけど、こっちで役に立つものなのかどうか微妙なんですよね。一般的な創作理論が役立つ機会っていったいいつなのやら。

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