022 討伐依頼「英魔第一位 ディーロ・メルディウス」
衝撃的なタイトル。ゆゆゆの最終話をリアタイ視聴したあとこれを更新しております。いやあ、ほんといい最終回だった……。最高でしたね。
どうぞ。
ユーミア国に恐怖の噂が轟いたのは、ひとつのパーティーが壊滅して間もなくのことである。死んで東地区に配置された城塞デーノンに戻った彼らは、竜さえ倒した自分たちが、たった一人の化人族に負けた、と宣言した。
彼らは一様に嘲笑を買った。
遊生人にとって“竜を倒した”程度の功績は鼻で笑うものであり、零細パーティーが強力なPK一人に壊滅されるなど日常茶飯事だからである。レベルを五百以上に上げていながら弱者を踏みにじることしかできない愚か者は往々にして存在し、これもその例外的怪物の毒手だと思われたのだ。
しかしながら。
今度は“龍を倒した”ことのある、街のシンボル的パーティー「レイドウルフ」が壊滅した。彼らは龍喰らいの飛竜虫さえものともしない布陣を誇り、街においては最強の集団であるはずだった。しかも人数は先の三倍、三十人。
一対三十でそれを壊滅させる怪物とは何者なのか、と聞かれたレイドウルフのリーダーは、それに対して「黄金の怪人」としか答えなかった。恐怖に囚われ、剣を取るどころか歩くことすらままならず、仲間に肩を支えられて歩き去った彼を責めることは誰にもできない。それを聞いた街の人々にも、「黄金の怪人」という言葉には思い当たるところがあったのである。
しかし、まさか――と思っていた彼らは、そのまさかを耳にすることになる。
――相手は「英魔第一位ディーロ・メルディウス」と名乗った。
――どんな攻撃も通じない。あの黄金の装甲は無敵だ。
――たったの二撃で盾が砕かれた。何が起こっているのか分からなかった。
――降りさせてもらう。我々には達成不能だ。
英魔とは、先の戦争で雑兵を百人以上殺した七人の化人族に内外両方から与えられた呼び名のことだ。
最強無敵の黄金戦士、一位。
不死、瞬殺の二位。
「白い死」三位。
正体不明の攻撃、四位。
「雨」の五位。
「歌姫のコンサート」六位。
惨殺・虐殺、殺戮の七位。
実際の被害は百人などというものではなく、上から数えていけば千人は下らない。とくに一位は、正確な名前も力の正体も判明しているのに倒せない、本当に無敵の戦士だった。戦況を変えるどころか、たった一人で戦争に勝利する力となるとされる彼らが一人でも投入される異常事態に、ユーミア国は緊急クエストを発行した。
報酬額は過去に類を見ない凄まじい金額、一千万ルト。報酬アイテムは「相手が落としたものすべて」と「国家間で争いが起きるレベルの秘宝」。具体的に何かということは提示されなかったが、それでもゲーマーや護国思想の持ち主はこぞって英魔の討伐に乗り出した。
結果は――述べるまでもあるまい。
破壊の権化「暮矢死人」が敗退。もともと攻撃力極振りだったこともありダメージは与えられたようだが、攻撃の性質を見誤り、必殺特技も引き出せず負け。彼の蓄積した相手のデータは、しかし役には立たなかった。
闘技場の英雄「ルカ・ジャニス」が敗退。強いやつと戦いたいという目的だったものの、相手が強すぎて問題にならなかったようだ。どちらかというと魅せる戦いを行ったようであり、その点は白眼視されるべきだろう。
大規模レギオン「Phoenix」敗退。集団戦は彼の餌食になるだけだったらしく、弱いものから順に、五分もかからず狩り尽くされたとのこと。超AGI型を集めて再挑戦したという噂もあるが、勝利できたという証拠はない。
布面の性戦士「変態面・ショーツマスク」敗退。そもそも股間と顔以外に衣服を付けていないスタイルは危ぶまれていたが、もっとも追い詰めたようで必殺特技を引き出すことには成功した。「一番かわいい女の子の下着だったのに」とコメントしているが、戦闘能力への影響は不明である。
こうして主な戦士や集団はすべて敗北し、異例の「プレイヤー打倒クエスト」は達成されないまま放置されていた。国境付近には厳戒態勢が敷かれ、近寄ることができるものはごく少ない。幸運、あるいは凶運によって近付くことができたものくらいしか数えられないのだが――問題は、その運を誰が持っているか、である。
◇
「ディーロ・疲れてはいないか」
「お前に気遣われるような体じゃねえよ、ったく。厳重警戒地域だからプレイヤーは近寄りゃしねえ、そもそも強敵ってほどの敵がいやしねえんだよ」
青灰色のコートの男は「部下と交代してはどうだ・疲労も抑えつつレベルも上がる」といかにも善意の提案をしてみせる。
「聞くとでも思ってんのか?」
「当然・思うわけがないな」
人間を殺すことで得られる経験値を独占しようというのではない。そんな上役が部下の信頼を得られるわけがなかった。彼があくまで「自分がやる」と言っているのは、イレギュラーな事態を想定してのことである。
「部下を信頼してはいないのか」
「それとこれとは話が違うぜ、ゼル。三人――ルギス、ヴェオリ、シュールームは全員強いしパスキルも頭キマってるくらい強え。ところが「アレ」に勝てるかってえと微妙だ。もちろん三人が束になればもうちょっと上がるだろうが、アレが来る可能性があるときに部下を置いてったりはしないぜ」
ふふ、とゼルと呼ばれた男は笑った。
「何がおかしい」
「いや・すまん。ところでアレが来る……確率としてはどうだ」
「九割来ないな。あいつも仲間以外には冷淡だ、オレたちとそう変わらない。ただしオレたちと同じように、仲間のためなら何度だって命を懸けるし捨てる。うっかりその仲間が混じってたりしたら最悪だな」
「報復に来る・と」
ディーロは目を赤く輝かせる。
「オレたちと同じ……そう言ったはずだぜ、ゼル」
「まったく哀れな男だな・あれも。仲間の範囲をもう少し狭まれば・俺たちのように楽になれるというものを」
英魔は七人しかいない。英魔が敗れることはまずないとして、その配下や友人に危害が加わることも少ない。彼らは危険に対処する必要などない生き物だった。悪を行うという認識が人間のそれである以上、彼らのもとに災害モンスターが訪れることも非常に少ない。彼らはプレイヤーとして至極普通に暮らしていた。
「お前の理想は・とても尊い。ありとあらゆる人間を凌駕すると言っていい。生きる責任を剥奪され・本当に遊ぶことしかできなくなった者どもとは大きく違う。お前は俺と同じに・「生きて」いる。どれだけ素晴らしいことか」
感慨深げに言う男に、ディーロは何も言い返さない。
「そろそろ腹が減っただろう・これを食え」
「いらねーよ、お前のお気に入りは自分で食え。おっと」
またおいでなすったぜ、とディーロはその唐突な攻撃を受け止めた。すぐさま第二の姿へと変化を遂げたディーロは、力だけで相手を吹き飛ばす。
相手は五人、五日ほどここへ通い詰めている阿呆どもに二人加わっている。職業の内訳は「殺人鬼」「忍者」「陰影」だが、残り二人は不明だ。
「この攻撃を……!!」
「特級職だろうが何だろうが、素の補正が違うんでね。いちおう今のは遅れた方だぜ」
灰色の装備の忍者は一瞬で後退する。もしも間に合っていれば一撃で両断していたはずなのだが、つい話が楽しくて遅れてしまった形だ。
「まあ、一人ってわきゃねえな……隠れても特に意味ねえけど」
「ふ、貴様の攻撃パターンはこの数日で読み切った。何度も死んだが、それも無駄な投資ではない。どの程度の攻撃なら通じるか、どの素早さなら受け止めきれるかをずっと観察していたのだ」
「ご苦労さま……そんで? とっとと来いよ」
真後ろから首に向かって突き出されたレイピアを、黄金の怪人は体をひねって流す。少なからぬダメージが、弾け飛んだ火花という形で反射し、剣士の腕を傷付けた。異様な迫力を持って音もなく空気を裂いたディーロの剣だが、剣士は間一髪それを回避し、カウンターを打ち込んでいる。
「おいおい、馬鹿か?」
首元に刺さるはずだった剣が、頭突きするように下がってきた下顎に当たり、火花を散らして先端を弾けさせた。剣の欠片が剣士の首元に突き刺さる。
同時に複数も弾けた火花は、「殺人鬼」系統の特技だろう。しかし、それがどのようなダメージをもたらしたのか目視することは不可能だった。
――防御力を貫通できなかった攻撃がすべて反射される、というルールに則って、忍者や殺人鬼、陰影たちが血に塗れる。
「……っておい、どの程度の攻撃なら通じるか分かったんじゃねえのかよ」
「ぐう、う……」
こんなものは小手調べだとでも言いたいのかもしれないが、小手調べをするくらいなら最初から必殺特技を打ち込むべきだった。もちろん、それが通じなければすべてが無駄になるのだが。
「そっちの男を狙え!」
「俺を・殺すと?」
青灰色のコートを纏う、中肉中背の青年。その異名を知っていたならば、決して彼らは誤った選択をしなかっただろう。
「人間形態のうちに殺せ!!」
「残念だが・それは不可能だ」
殺人鬼の特技〈デッドハント〉が炸裂する。忍者の通常攻撃が支援でブーストされ、三倍ほどの速度で飛翔した。陰影の〈スラッシュ〉が軌道を消して放たれる。一部には即死効果も付与され、威力はともかくコンボの開始点として回避不可能にも思える速度で放たれた攻撃たち。
――を、男は回避していない。いや、回避したのかもしれない。
殺人鬼が血煙になって爆散し、忍者が縦に二つに分かれる。陰影は十字に粉砕され、射撃手と大妖魔が干し芋のように平たく潰れた。先んじて相手を殺すことが回避と呼ばれるのであれば、確かに男は攻撃を回避していた。移動もしているのでよく考えれば回避しているのかもしれない。だが、ただ攻撃を避けたというには相手側に大惨事が起きすぎていた。
化人族の人間形態は「脆弱形態」とも呼ばれ、本来の戦闘能力が発揮できないようになっている。ずっとその姿で居続け、慣れればある程度は軽減されるものの、それでも本来の力ではない。三割ほど減じていても、圧倒するどころか相手に何も悟らせず、一方的に殺傷するほどの凄まじい力。
「俺はゼル・クウィルム・ヘルヴスィルム。英魔第七位・部下は」
「おい、相手もう死んでるぜ」
「これはすまない・うっかり恥をかくところだった」
「一人でも相手がいりゃ恥なんじゃねえかな……」
英魔でも二番目に『弱い』男、ゼル・クウィルム・ヘルヴスィルム。それですら、本気を出さずに一方的に相手を屠る力を持つ。
「今って三割くらいだったか?」
「ああ・補正も最大でこれくらいだ。お前ももっと脆弱形態でいるべきだ。正体を明かさず力を振るうのは楽しいぞ」
「てめー人助けしてねえだろうな」
脆弱形態、黄金の鎧の男に戻りながら、ディーロはゼルをにらむ。
「NPCに限る。あいにくと・経験値稼ぎをする相手に種族の別は設けない。自分たちで壊したものだとはいえ・理想を捨ててはいない」
「……分かった、分かったよしょうがねえ。エヴェルも同じだろうしな、プレイヤーも助けるのがクソゴミムカつくが。そうだな、お前は人脈が必要だからな……」
自分とは違う苦労を抱えた男を、ディーロは悲しそうに見やる。
「それよかお前、シウルが来る時間過ぎてねーか」
「うごッ!? いかん・帰らねば!!」
これまでの冷静沈着なキャラクターが爆発四散したかのような慌て方で、ゼルは文字通り跳んで帰った。
「……どんだけ好きなんだよ、あいつ」
そのわりには忘れているが、これはディーロへ渡すつもりだったものだ。
「照り焼きチキンバーガー、ね……。別に好きじゃねーけど」
それをわざわざ作らねばならなくなった理由を考えれば、無駄にはできない。どちらかと言えばいい店のコピーであり、まずいものではなかった。
「ちょっとぬるいな。しかしよくまあ、こんだけ再現しやがったもんだ」
クラット姉弟、姉のシウル・クラットが作ったアイテムだ。英魔第七位に惚れた彼女は、彼の「お願い」を聞き、忠実に叶えた。
「ごちそうさまでした……っと。紙くずどうすんだよ、インベントリに紙くず入れるつもりだったのか、あいつ」
仲間にちょっと突っ込みながら、ディーロはその夜の仕事を終える。
明日も誰かが来るのだろうと、呆れにも似た予感を抱きながら。
ドラゴン倒したくらいで有名になれるNPCの世界よ。ショボすぎますよね。
「討伐依頼・英魔第一位 ディーロ・メルディウス」
報酬金額:10000000ルト
報酬アイテム:「相手のドロップアイテム」+「???」
超都市エルティーネとユーミア国の国境線が英魔第一位によって封鎖されました。国家の威信を賭けた戦いになりますので、国家間の争いが起きかねない例のものを報酬として差し上げます。かがり火の焚かれた場所の中心地点に焚火があり、そこに彼はいます。本人からのコメントとして「無理だから諦めろ」とのこと。
皆さん、奮ってご参加ください。




