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017 「グループ研修」2回目

 どうぞ。

「ようこそ、デーノンからの旅人たち。ここはギルド「一意専心(モノマニア)」の本拠地であり工業の街でもある場所、ラゾッコだ。一部界隈ではオタクの街と言われているが――」


「そこまでだゼイン。とりあえず俺とガザンが案内するから、いつも通りで頼む」

「了解だアヤト」


 ゼインと呼ばれた人は、腰まである黒髪の女の人だった。全身の印象は「刀みたい」とでも言えばいいだろうか。あからさまに実験的プラス前衛的な服装で、性能の高いコスプレみたいに見える。パーツ同士の結びつきがちっとも分からない服だった。


「擬態スキルを持っていると聞いたから人間じゃないはずなんだが、具体的にどの種族なのかちっとも分からない。刀にはSTRがあまり関係ないからな」


「あ、そうなの?」


「エルフにも見えるが、鬼かもしれない。化人族の可能性もあるが、全ステータスが万遍なく高いみたいだから竜人の可能性もあるな」


「まあなんでもええわ、ハイレベルの戦闘職はモノマニアでも重宝するし。かっこかわいい少女戦士みたいな服装をこぞって作る輩がおるんも、あの子の影響やしな」


 ガザンさんのコメントは、まさにこの街、このギルドを象徴するような言葉みたいだった。そこかしこにデーノンより高い頻度で混成種の人を見かけるし、耳が長いエルフも、角が生えた鬼も、よくよく見ると若干髪の毛がこわい竜人もいる。


 服装もさまざまで、今から戦いに出るみたいに杖を持っているのにドレスだったり、吟遊詩人みたいなおおげさな服装なのに背中には大きな剣を背負っていたり、なんていくらでもいる。少女戦士というか魔法少女みたいな服装、バーチャルアイドルみたいな服装もたくさんいた。現実に作るとしてどうしたらそうなるのかちっともわからないものも、そこそこの数ある。


「すっごい街だねー……」

「キューナ、ちょっと元気になった?」


「ちょっとだけ……」

「よかった」


 まだいつもの元気の半分以下だけど、取り戻してくれる兆候があるだけいい。


「装備はもう整ってるみたいだな。キューナって子はあとでちょっといいのをあげよう。お金をもらってないからユキカには劣るが」


「いいですよぅ。ユキカのは諦めずにがんばったお金だから」


「そうなんか。そんならまあ、こっち来て性能見ぃな。職業は何なんや? なんぞ合うモンあげよ。ジーナの姐さんが売れへんのん気前よう渡しとったみたいやしな」


 召喚獣は、ペットみたいに「売っている」ものなんだろうか。そう思って兄に聞いてみると、そりゃそうだろと突っ込まれた。


「なんにもテイムしてないサモナーとか、雑魚以下の代名詞だぞ。最初は街のショップで値段と召喚コストが身の丈に合うのを探して、そのあとは増やすも減らすも自分次第。ちなみにずっと連れてるやつもいるが、あれはコストとして最大MPが下がる仕様だ」


「カナリアもショップのだったの?」


 キューナは「うん、そうだよ」と哀しげに言う。


「ペット以上の子にする」


「それがええわ。ペットロスはこっちでも起こるし、強いに越したことはない。コストさえ足りたらどんなんでも連れて行けるで、どうや?」


 兄がこっそり「サモナーにもいろいろあってな」と解説を始める。


「サモナー自身も戦うタイプと、召喚獣に任せるタイプがある。ガザンが提案してるのは全部任せるタイプだな……レベルが低いうちはかなり危険だが、召喚獣と経験値を半分こできるというすごい利点がある。危険っていうのは、ずっとMPが満足に使えず、魔法職系統なのに魔法がさっぱり上がらない事態にもなるからだ」


「攻撃魔法あるの?」


「そりゃあるさ、ヒーラーにもあるんだから。本体がクソザコになると、必然モンスターの方を強化せざるを得なくなる。すると泥沼化する」


 兄の言うことも理解できた。


「まあ、それはそれで強いことは間違いない。サモナーなんか弱い職業の代表だが、モンスターに全振りすることで戦士とも並ぶくらい強くなるからな。キャパシティーとMP全部使って置き物になってから、護衛担当と戦闘担当分けてめちゃくちゃやってるやつもいる。あれはあれで強いぜ」


 卵から育てたエメロドラグーンを飼っている人もいるそうだ。ものすごい強敵だったはずなのに、味方にするまで大丈夫だったんだろうか。


「ここにプラスワン。なに、無理言うとるんちゃうで、鍛えたらできることを提案するだけや。サモナーちゃん、どうや、乗るか?」


「どういう方法なんですか?」


 すると「ヒーラーちゃん?」とガザンさんは少しだけメアを威嚇した。


「当事者の決めることや、口出しせんといてくれへんか。考え付いたやつはおもろいと思ってやっとるけど、わしは正直むちゃくちゃやと思っとるねん、な。知ったうえで、やるかやらんかはサモナーちゃんに任せる。それでええやろ」


「ええ、それは」


 私だけ蚊帳の外だなぁと思いながらも、私はキューナを見守る。どういうアイデアなのかは分からないけど、ガザンさんはキューナに強さをくれようとしている。


「……お願いします」

「わかった。ほな行こかい」


 キューナは連れられて、マーケットのほうに行ってしまう。


「……私たちは?」


「まあ、いろいろやることはあるからな。初心者に渡しておきたいアイテムをいくつか渡しておくことにしようか。あのサモナーの子の分もな」


 兄の次のことばで、私ははっとした。


「さて。消費アイテムってどれくらい持ってる?」

「あ……えっと、持ってないかも」


 兄が、口をぱかっと開けた。


「は? ん、ちょっと待てよ……? まさか回復アイテムゼロでフィールドに」

「ごめん、よく考えたら……」


 考えてみたら、私はアイテムをほとんど持っていない。その理由は明白すぎるくらい明白で、あぶく銭だからといって服につぎ込んだお金がある。あれ以降、今度こそ堅実に貯めようと考えて、お金をいっさい使っていなかったからだ。


「うわあ、俺の妹が天然すぎる……」

「ごめんほんとごめん」


「いやいやいいから。ヒーラーさんは気付いてなかったのか?」


「メアです……いえ、使うまでもなくスムーズだったので。行くところも近場ばかりでしたし、モンスターもすべてテイム済みのものしかいませんでしたから。……考えてみれば、まともなモンスターとは一度しか戦っていないのかも」


 急にめまいがした。


「ねえ、それって……」


「すべてレギアの手のひらの上だった、ということか……。エヴェルさんがいなかったら一体どうなっていたことやら、想像もしたくないな」


 今までの冒険は、すべて偽物だった。考えとして形にするだけで、気持ち悪くて、恐ろしくてたまらない。


「どうして……?」

「ユキカ、これからだ。これからすべてが始まる」


 兄が、うつむいた私の肩をぽんぽんと叩く。


「箱庭から出るときだ。そうだな、やっぱりギルド加入を勧めるのはやめにしておこうか。自分たちだけで進む力を付ける、そのためのサポートはしよう」


「ありがと、お兄ちゃん」


「……まあ、こっちでもそれでいいが。アイテムを買うときの基本を教えてやるから、とりあえず露店街に行こうか」


 兄に連れられて、私は露店街に向かった。






「収穫はこんなもんか。目利きはなくてもいいし極端に安売りする店を探す必要もないが、信頼できる店を探すのは怠らないようにな」


 有名なお店だとお客さんが多すぎたり個人対応が甘かったりするそうだ。それよりも小さい店を「買い支える」ことでちょっとサービスしてもらったり、お互いに助け合う仲間を作るのが大切だ、と兄は言ってくれた。


「常連の名前を知らないような店なんて困るからな。デカい店だと信頼できる品質やら改装セールって利点もあるが、そこから人間関係に発展させるのは難しい。小さいお店を支える方がのちのち役に立つぞ」


 兄は「ちなみにクレッフェル学園に入ると一日目に終わる授業だな」と笑う。


「学園ってやっぱいいとこなんだね……」


「そりゃあ、凡百のギルドに比べりゃ、レベル二十から三十で追い出しパーティーやるって以外は最高だろうな。ちなみにあそこを出て使えないやつは失格だ」


「え、失格って」


 兄は「秘密だぞ、誰かに言ってもいいが表立って言うなよ?」とごしょごしょ声で言う。聞き耳とか盗聴スキルってありそうだけど、大丈夫なんだろうか。


「……確かに、基本を徹底して叩き込むカリキュラムは有効だ。だーが、それでも学ばないやつはいるんだなぁ……。教育方法が間違ってる場合は誰かが気付くから修正が利くが、二十人から三十人をいっきに教育する過程で――」


 学園という名前はあるけど、ギルド「クレッフェル学園」はテストをしない。それが仇になっているのか、能力のあるなしで判断しないのは本当はダメみたいだ。


「こぼれ落ちる欠片がある……なんて詩的な表現をするまでもない、教えてもらってることすら真面目に吸収できないクズがいるんだよ。そればっかりは本人のやる気の問題だがな。ごはんのため、女の子のため、強さのため……最近は、がんばる理由を見つけることに力を注いでるらしい」


「目的っているかな?」


 口にしてしまってから、なんて馬鹿なことを言ったんだろうと思って、取り消したくなった。でも口にしてしまったことを消すのは不可能で、兄がちょっとだけがっかりしたような顔をするのも仕方がない。


「まあ、そうなんだよな……」


 兄の口から出た言葉は、意外だった。


「そうなんだよ。エンジョイ勢がいる。熟練者も分かっちゃいるんだがな……。そこんとこなかなか、難しいところではある」


 そいじゃ俺はこの辺で、と兄は駆けて行く。その先にはさっきのゼインさんだったか、黒くて長い髪の人がいた。


「……仲いいのかな?」

「どうでしょう」


 メアはいつも冷静だ。私もそんなに動揺しているわけではないけど、兄がいつも長いことゲームしているわけが分かったような気がした。


「仲良しみたいですね。羨ましいですか?」

「え、どうかな。頼れる人はいるけど……」


 あの「了解だ」なんて言ってた人が、友達と話すようなやわらかい顔でニコニコと話している。兄も、こっちではいい仲間を見つけているみたいだ。


「お兄さん、どういう人なんですか?」


「変な人じゃないけど、変わり者かなぁ。学校でどういう感じ、とかは知らないけど。けっこう歴長いみたいだし、部屋にこもってる時間からすると、プレイ時間もすごいよ」


 私も長いことは長いです、とメアが言って、ちょっとだけ凍り付く。


「あの……。放り出されてませんか」

「あ」


 そういえば、案内役があっちへ行ってしまって、私たちはどうすればいいんだろう。


「あ、メール」

「なんて書いてありますか?」


「えっと。『名前アドレスからフレンドリストに登録できるから、いざというときのために登録しておけ』だって。〈Ayato Rus〉ってつづりだよ」


「あ、わざわざすみません。……とりあえず、ここでセーブしてログアウトしましょうか。キューナさんにはそう言ってもらうようアヤトさんに連絡しておいてください」


「うん。メアはどうして敬語なの?」


 メアはちょっとうつむいて、「あなたは……」とつぶやくように言った。


「……あなたは、知らぬ間にたくさんの人を助けていますから、敬意を払いたいんですよ。いつかリアルでお話ししますね」


「え、……リアルの私を知ってるの?」


 メアは「顔、いじってないでしょう?」と大人っぽい笑い方をする。


「いえ、別人ならいいんです。でも、あなたは私を助けてくれた人に似ている。……覚えていないところがまた素敵だなって思うんです。いつか、会っても違和感がないくらいにこの『私』に近付いたら、会いましょう」


 言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。


「えっと……? 今のこの姿とは、違うんだ?」

「どう違うのかはご想像にお任せしますけど」


 どうしても自分の口からは言いたくない、という感じに思える。


「それでは」


 二の句も告げさせず、メアはログアウトしてしまった。

 やばい、書き溜めがなくなる。がんばらねば。

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