表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

    卵爆弾事件(3)

 再び目覚ましがなった。


 俺はむくっと起き上がって、隣ですぴすぴと寝息を立てる華月を眺めた。

 華月の腰まである長い髪が、布団に広がっている。


 どうやら今度こそ朝になったみたいだ。

 なんだか夜中の夢と映像がかぶった気がした。

 まあ、よく見る光景だからだろう。


 俺はなかなか起きない華月を叩き起こして、朝食の支度を始めた。

朝食が出来上がった頃には、一同が食卓を囲む手はずになっているが、俺以外、やっぱり半分寝てる。

 ここまでは、俺はいつものことだから、まったく気にも留めなかった。



「華月。昨日、危なく引かれそうだったそうじゃないか」

 父さんが、しっかりとした口調で華月に話しかけた。

「え、なんだっけ?」

 ぼーっとしたまま華月が答える。


 ん?


 俺は、漠然と何か引っかかって、首をかしげながら目の前のやり取りを見守った。


「いいか、華月。いくら横断歩道を渡るときとは言え、信号が変わったらすぐに飛び出したら危ないと、何度も言っているだろう?華月は運転したことがないから、まだわからないかもしれないけれど、信号が変わっても、右折してくる車があわてて、アクセル踏んでぶ〜〜んと、走ってくるかもしれないだろう?」

 父が話している間に、華月はこっくりこっくりと、船をこぎ始めていた。

 おれは、再び、あれ?と思いながらも、父に声をかける。

「父さん」

「なんだ、颯」

「華月寝てる」

「……この〜!華月っ!起きろ!ていうか、君も寝てないで、朝飯を食べなさい!遅刻するぞ、ほら!今日は仕事が忙しいって言っていたじゃないか!“ちゃんと食べないと、もたないぞ。って、華月も寝るな!」



 おれは絶句した。

 この会話…。

 夢の中の会話とまったく同じ…?

 偶然なのか?

 でもそんなことあるのだろうか。


「颯?おまえまで寝てるのか?」

「…え?」

 呆然としていた俺に、父が声を掛けてきた。

「颯が寝ぼけてるなんて、珍しいな」

「…ああ…なんか疲れてるみたいだ……」

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ。きっと気のせいだし」

「何が?」

 父に突っ込まれて、俺はつい口を滑らしたことに心の中で舌打ちした。

「いや、昨日の卵爆弾事件で、玄関の掃除した時に使った雑巾ちゃんと洗ったっけかな…と」

 俺はとっさに、よくわからない話のそらし方をしたが、うまいこと父はそれに乗った。

「卵爆弾事件?!」

 父上の眉が釣りあがるのと、母さんが一瞬で目を覚ますのが一緒だった。

「颯の裏切り者!ちくったわね〜」

 母さんが非難の目をこちらに向ける。

 裏切り者って…。

美桜希(みさき)さん、一体全体、卵爆弾事件とは何のことか、俺にわかるように丁寧に説明してくれないかな?」

「えっと〜…あのですね〜…」

「なんですか〜?」

 父さんの目は据わっている。父さんが母さんを『さん』付けで呼ぶ時のは、お咎めを免れない時だと母さんも承知しているので、この調子だと「夜間婦女子外出禁止」地雷を踏んだことも、あっという間に明るみにでるだろう。

「はっ!新くん、遅刻しちゃうから、帰ってきてからお叱りは受けるという方向で!」

 母さんはどうやら、逃げることにしたらしい。逃げ切れるわけないのに…。

「ほう!叱られるようなことなわけですね」

 ほらね。

 と、我が家のにぎやかな今朝の食卓は、本当に遅刻しそうな時間が迫ってきたので、まだ半分眠っている華月の腕をつかんで俺が立ち上がり

「遅刻するから、俺ら行くわ」という一言で、お開きになった。もちろん、母さんもすかさず

「わ、私も!」と便乗したのは言うまでもない。



 断っておくが、これは、日常だ。


 だから、一瞬、狐につままれたようなことも、その日常にすぐに埋もれてしまったが、数日後、今日のことを俺は思い出すことになるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ