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    また会えるよね(3)

 再び私が意識を取り戻すと同時に、膝に重みを感じた。ぼんやりとした視界がだんだんと定まるにつれて、私の上に颯が折り重なってるのが分かった。

 私はがばっと起き上がる。起き上がったつもりだった。実際には、体がわずかに動いた程度。なぜなら、私の体は助手席と背中合わせにして、本来だったら足を置く場所におしりがすっぽりはまっている状態。その膝の上に、うつ伏せになった颯の頭が乗っている。どう考えても、身動きが取れない状態だった。でも、体に痛みを感じないところをみると、私には主だった怪我はなさそうだった。

 不意に、私の膝の上に頭を乗せたまま動かない颯に、不安を覚えて慌てて声をかける。

「颯?」

 でも颯は動かない。

 足の方から鳥肌がぞぞっという音とともに、一気に駆け上がってくる。

「颯、目を開けて!」

 やっぱり反応がない。

 嘘でしょう?

 冗談やめてよ……。

 瞬時に最悪のシナリオが再び私の中を駆け巡る。

「颯! 死んじゃ嫌ぁ〜!!」

 私は必死だった。永遠にも感じる短い時間、とにかく必死で泣き叫んだ。

 すると、かすかに声が聞こえた気がして、はっと我に返る。

「……い……いてぇ」

 耳を澄ますと、確かにうつぶせになった颯から発せられた声が聞こえてきた。

「颯〜〜! 死んじゃったかと思った〜〜〜」

 再び私はがしがしと、颯の体をゆする。その動きに颯がいちいちうめき声を上げた。

「いてぇって……や、やめ……」

「颯〜」

 安心したら、ぼろぼろと涙がこぼれ出る。

「かづ……ふ……たり……は……?」

 懇願するように颯がうめく。

「そうだ、ママと優希ちゃん!」

 そこで、私は、二人の存在を思い出した。再び私は緊張に引き戻される。

 私は何とか運転席と助手席を確認しようと、ちょっとずつ、おしりを動かして車の中央部へ近づく。そのたびに颯が悲鳴を上げている。その痛がり様に尋常でないものを感じて、私は颯にたずねた。

「颯……どこか怪我した?」

 その返事が返ってくるまでの間が長く感じる。

「……俺は……いい……から」

「怪我したんだね! どこを!?」

 しばらくの沈黙ののち、颯はしぶしぶと答えた。

「……足……かな……」

 反射的に、手探りで颯の怪我を探す。すると、ぬめっとした感触とともに、颯が大きく悲鳴を上げた場所にぶち当たる。

 その瞬間、ざぁっと血の気の引く音を聞いた。出血多量、という四字熟語が私を襲う。

 呆然とする私に颯は、再び声をかけた。

「いいからっ……俺より……二人を!」

 力強い声で颯が訴えてくるも、その声は、聞けば聞くほど、痛みをこらえて苦痛にゆがむ颯の顔が簡単に想像できた。

「でも……」

「はやくしろ!」

 その大きな声に、私は渋々車の前方を確認した。ママのだらりとたれた手が見えた。そしてこの位置からは助手席がどうなってるのか確認することも出来ない。

「ママ!? 優希ちゃん!?」

 声をかけても反応がない。助手席と運転席を背後から叩いてみても、やっぱり反応がない。

 私は何とか手を伸ばしてママの腕に触れる。

「ママっ!!」

 私が声を荒げるのと、颯の弱弱しい手が私に触れるのが一緒だった。私は反射的に颯を振り返る。

「……かあさんと……ゆき……じか……ん……止め……」

「時間!?」

 突如、颯の手が力を無くし、ぱたりと音を立てて座席のうえに着地した。

「颯!? やだ颯!?」

 颯の手を両手で握り締め、振り子のように左右に振っても反応がない。慌てて、颯の手首の脈を確認する。……動いてる。

 少しだけほっとした分、考える隙間ができたので、颯の言葉を反復することができた。

「時間を……とめる……?」

 そんなこと出来るの?

 瞬時に私の頭を、前に公園でへんな男が動かなくなった時の情景がよぎる。

 私は、迷うことなく颯の手首を強く握り締めた。

 今までのことを、考えれば、きっと、私が触っている人の時間をコントロールできる。そんな良く分からない自信とともに、私は強く心の中で叫んだ。

 

 ────止まって、お願いっ!!


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