卵爆弾事件(1)
いきなり俺の部屋のドアが開いて、パジャマ姿に枕を抱えた華月が乱入してきた。
「華月…ノック」
言うだけ無駄なような気がするが、言わずには居られないこの性分が恨めしい。
そして、やっぱり、無駄だった。華月はまったく聞いてない。
「ねえ、颯!」
づかづかと俺のベッドに近づいてきて、すでにベッドに横になっている俺の腹の上に腰を下ろす。
「ぐふっ」
「あれって、何?」
「か……かづ……重い……」
「ねえ、あれって何!?」
華月は興奮状態だった。
わかったから。
とりあえず、どいてくれ。
俺は、なんとか身動きして、ベッドを半分空けて華月を布団の中に誘導することに成功した。
小学校を卒業して俺と華月が別々の部屋になってから、こうしてたまに一緒に寝ることはあったけど、それももう何年も前のことであんまり覚えてない。
別に、一緒に寝るのが嫌になったわけじゃない。むしろ、こうやって一緒にいるのが自然であるように思う。
「で、さあ……颯はどう思う?」
華月は、興味津々で俺に話しかけた。
「猫だろう?」
俺は、華月の言う“あれ”についてひっぱるつもりは無かった。
確かに、あれは猫だった。
猫の形をしていた。
でも、何かよくわからないことを言っていた。
あの直後、華月が悲鳴を上げて走り出したので、あわててそれを追いかけて、捕獲し、何とか家まで護送した。
その間、華月は終始無言。
帰ったら帰ったで、やはり我が家は大惨事に見舞われていた。
今日は母さん得意のオムライスにしようと思ったらしく、俺のメールを受け取るや否や、卵を買いにスーパーまで意気揚々と出かけたらしい。この時点で母さんは父さんの“夜間婦女子外出禁止”という地雷を踏んでいるのだが。
たぶん気がついていないだろう。
とりあえず、今は父さんが居ないので不問。
卵を手に入れた母さんは、腕を振るう気満々で帰宅。
その直後、卵がスーパーの袋から、“なぜか”瞬間移動したか、袋が透明になったかして、玄関で不慮の事故を起こしたらしい。
10個入りのパックの中の卵たちは、着地が大の苦手だったようで、見事に玄関を派手に汚した。なんとその、7割が死傷するという、大事件となった。まさに、卵爆弾だ。
俺が推測するに、単に母さんは玄関の敷居に跨いだ拍子に、派手に卵を袋ごと放り投げてしまった、というところだろう。
残念なことに、これは父さんの説教行き決定だ。
結局、負傷した卵と無傷だった卵を使って、俺がささっと夕飯を作った後、母さんなりに掃除した玄関をしっかり掃除する羽目になった分ぐらいは、母さんには説教されていただくことになるだろう。
というわけで、実に大変な一日だったと、俺は今日はほとほと疲れてきっていた。
だから、もう、猫がしゃべったとか、猫がなんだか言ってたとか、どうでもいい。
寝かせてほしい…。
実際現在の時刻は、2時を回っている。
「かづ、そろそろ寝たほうがいいと思うぞ」
「だって、寝れないよ、こんな時に!」
おれは、こんな時こそ眠りたい。
冷静な判断は健全な体あってこそ……ってこんなことを考える俺は、やっぱり老け込んでるんだろうか。
小さくため息がこぼれてしまう。
「か〜づ〜。寝ないと、父さん帰ってきても知らないよ。絶対、こってり叱られるぞ。今日、おまえ何したか忘れたの?」
華月は、げっという顔になった。そして、眠る気になったらしい。
「おやすみ、かづ」
俺はどうやら、華月のせいで狭くなったベッドでも熟睡できるくらい疲れていたらしく、あっという間に深い眠りに落ちたようだ。