答えを探して
6月7日23時55分。
今日も、スイートポテトを持って21年前へ行ってきた。颯がスイートポテトを差し出すと、優希さんは一言「手抜きやがったな」と言い放ち、その後は颯と優希さんのいつものバトルへとすぐさま突入していった。
何だか最近、あっちへ行くと私はへんな気持ちになる。
ミサちゃん(ママはやめてと言われたのでちゃん付け)が帰って来るまでは、リビングで一人でぼけっとしていることが多い。何度か、私も台所へ行って手伝うと言ったのだけれど、「用が増える!」と毎度、颯に追い出される。二人は今日も、楽しそうにゴーヤチャンプルを作り上げた。
帰ってきたミサちゃんとチーちゃんは、「最近晩御飯が豪華ね」と口々に言う。3人で夕飯が出来るまで、話に花を咲かせるのが日課になってきた。
21年前からは、大体2時間ほどで、私たちは引き上げることにしている。正確に、どのくらいまで居られるのかは分からないが、2時間くらいなら今のところ問題なく過ごすことができていた。
今日も、2時間の楽しい時間を過ごし、さっき現代に戻ってきたところだ。
戻ってくると、いつも体が鉛のように重い。何とか手足を動かして、服を着替えると颯のベッドに倒れ込む。そして限界まで分かってきたことを話し合いながら、眠りに落ちる。そんな毎日がこのところ続いていた。
「颯……あのオルゴールね……」
私はうつぶせになり、颯のベッドを占領しながらつぶやいた。すでに瞼が重い。
「オルゴール……?」
颯も遅れて、ベッドに入ってきた。私をぐいぐいと壁の方へ押しやって、自分の寝るスペースを確保している。
「あれ、おじいちゃんの形見なんだって」
「祖父さん?」
「うん、ミサちゃんが言ってた。おじいちゃんは、ミサちゃんたちが小学生の時に死んじゃったんだってさ。それで、お祖母ちゃんが看護婦しながら女手一つで3人を育ててきたんだって」
「祖父さんはそんなに早く死んでたのか」
颯の低い声が心地よく耳に響く。
「それで、ママは高校卒業して、バイトしながら通信教育で、保母さんになったんだってさ〜」
「…………へ〜。母さん……頑張ったんだな……好きな仕事に就くために」
颯は何か思い悩むように、そうつぶやいた。そのいつもと違う様子に、不思議に思いながらも、私は先を続ける。
「優希ちゃんは、調理師になるんだって。チーちゃんは、まだ高校1年だから決めてないけど、でも医療系に進みたいらしいよ」
「……考えてるんだな」
「うん、私、チーちゃんと話しててすごいなって思っちゃった。同じ年なのにさ」
「そうだな」
「でも、『お金がかかるから』ってチーちゃん言ったら、ママが、『そんなの出世払いでいいわよ』って笑って言ったの。……好きなことをしなさいよ、って」
好きなことかぁ、と私と颯は同時に、ため息をついた。
「たぶんさ」
颯はごろりと寝返りをうち、天井を見つめながらかみ締めるように続けた。
「あと3年間、考える時間があるんだよ」
「卒業するまで?」
「そう」
「見つからなかったら?」
「そしたら…………何かをとりあえずしてみるっていうのも手なんじゃないかなぁ、とか思うけどね俺は」
私は颯の顔を見つめる。颯の目は閉ざされていて、もう心の中の自分しか映していないようだった。
「時間がかかってもいいんじゃない? これだ、って思えるものに出会ったら、それから始めるって手も……あると思うけどね……俺は」
「あるかな……?」
私も目を閉じて、自分の手を胸の上に載せた。一定のリズムを刻む鼓動が、手のひらを伝って全身に届けられる。
「……探すんだよ……」
颯の声がだんだんとゆっくり小さくなっていく。
「……探す……気にならなきゃ……見つかるもんも……見つからない……」
私はそっと颯を覗き込んだ。
急に不安に襲われる。
置いていかれる。そう思った。
このままじゃだめなんだ。私も、何か見つけないと、颯に置いていかれる。
颯ばっかりがどんどん先に進んでしまう。
でも、どうやって探せばいい?
どうやって先に進めばいい?
何をすればいいの?
先生が教えてくれるの?
パパやママに聞けばいいの?
颯のまねをすればいいの?
疑問がいくつもいくつも浮かんできては、私の胸を締め付ける。
答えはわかっている。
『自分』の中にあるってことを。
自分で考えて探さなきゃいけないってことを。




