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    埋めないで(2)

 それからと言うもの、颯は我が家で夕飯を作るのと同時進行でケーキを作り始めるようになった。昨日はベイクドチーズケーキ。今日はアップルパイみたいだ。

 そして、出来上がったケーキを持って、21年前に飛び、待ち構える優希ちゃんの作ったケーキと食べ比べをする。もちろん、ママも千明希叔母さんも大喜びで私たちの来るのを待つようになったし、この間は仕事を終えたお祖母ちゃんが「……おや、うちの子が増殖してるような気がする」という一言を残して、自室へ行き爆睡するという爆笑シーンもあった。

 ママの話だと、私たちはお祖母ちゃんには、千明希叔母さんのクラスメイトということになっているらしい。

 

 そして、私たちは不思議なことに気がついてしまった。

 確かに、6月1日、私たちが始めて21年前にタイムスリップしたときは、4月1日という日にちを指定したつもりだった。でも次の日は、特に指定したつもりはなかったのに4月3日に運ばれた。次の日は4日。

 日にちが前後することはないし、10日後だったり、1ヶ月後だったりすることもなく、次の日もしくは2日後にタイムスリップすることができている。そして、タイムスリップした時間は20時頃で、大幅にずれることもない。

 これは21年前という膨大な時間のことを考えると、ありえないくらい小さな誤差だと颯が不気味がっていた。

 その時の、「まるで誰かが意図的にそうしているみたいだ」と低い声でつぶやいた颯の顔は、今まで見たことがない暗い険しいものだった。

 

 けれど、親戚というよりも、突然姉妹が増えたような感覚で、毎日夜になるのが待ち遠しい。きっと颯だって同じ気持ちだと思う。そうでなければ、手の込んだアップルパイなんて焼いたりしないだろうし。「邪道なヤツには負けない。料理の何たるかを知らしめてやる」とかなんとかブツブツ言いながら立つ颯は、なんだか殺気立っているようにも見えなくないし、相当気合がはいってるのは間違いない。今のところ、優希ちゃんも楽しんでるみたいだし、颯が埋められてないからいいかな。

 

 でも、ふと思うこともある。

 私たちは、このためにタイムスリップをしているのかな。

 ずっとこんな生活が続くなんて思ってはいなかったけれど、でも、こんなに急にこの楽しい生活に終わりが来るなんてこの時は思っても見なかった。

 

 6月5日。

 窓の外には、かなり太った月が静かに光輝いていた。


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